第555話 松本長官の来訪

 地上に戻った俺たちは、グリーン館へ戻り『ホーリーソード』と『ホーリーキャノン』の魔法陣を作り始める。アリサたちに二つの魔法を習得してもらい、その使い勝手を検証してもらおうと思ったのだ。


 それから本当に邪神眷属に効果があるのか、検証しなければならない。日本のダンジョンに邪神眷属が居れば良いのだが、今は四国のミノタウロスジェネラルだけのようだ。


 俺は魔法陣を描き上げ、アリサたちに配った。これでアリサたちが問題ないというなら、魔法庁の松本長官に報告し、登録してもらう事になる。


 但し、ドラゴン級の邪神眷属を倒すためには、もっと強力な聖光の魔法が必要だろう。と言っても、アイデアはまだない。


 アジアに出現した邪神眷属の八割は、中級ダンジョンにも居る魔物だった。それらの魔物なら『ホーリーソード』と『ホーリーキャノン』で倒せるだろう。ただ中には邪神眷属になったサンダードラゴンやフォートスパイダーも居た。それにシルバーオーガなどの素早い魔物が邪神眷属になった場合も考えるとどういう魔法が良いのか、悩んでしまう。


 それをメティスに話すと、

『大型で防御力の高い邪神眷属用と、素早い邪神眷属用の二つを用意したらいいのでは』

 二つ用意するというアイデアは、俺も考えていた。

「それは俺も考えたけど、どちらもいいアイデアは浮かばなかった」


 単純な方法として、『ホーリーソード』をもう少し長くして振りの速度を上げた魔法と、『ホーリーキャノン』を大型化して速度を上げた魔法を考えたが、ドラゴン級の邪神眷属を倒すとなると、取得できる魔法レベルが『15』を超えそうだった。


 習得できる魔法レベルが『17』とかになったら、結局使えるのは俺だけとなる。それじゃあ、意味がなかった。いや、意味がないというのは言いすぎだ。


 将来は使える者が出て来るだろうから、意味はある。しかし、そういう魔法を急いで開発する必要はないだろう。


「<聖光>が、D粒子二次変異の特性だったらな」

『D粒子二次変異の特性だったら、金属に付与して、聖光を発する武器を作製するのですか?』

「世界中で邪神眷属が暴れだしたら、そうするしかなかっただろうな、と思ったんだが、D粒子一次変異の特性だから無理だ」


 特性にはD粒子一次変異とD粒子二次変異の二種類がある。その違いの一つは、物質に付与できるかどうかというものだ。


 D粒子一次変異の特性は付与できず、D粒子二次変異の特性は一部を除いて付与できる。これはいろいろ試してみて分かった事だった。


 良いアイデアが浮かばないので、近藤支部長から邪神眷属の情報を聞き出そうと思い、冒険者ギルドへ行く。支部長はすぐに会ってくれた。


「聞きたいのは、邪神眷属の件かね?」

「そうです。何かありますか?」

「ヨーロッパで、いくつかのダンジョンが閉鎖された。どうやら邪神眷属が低層で発見されて、封鎖になったようだ」


「手強い魔物なんですか?」

「邪神眷属でなければ、C級冒険者でも倒せる魔物だな」

 そういう状況なら、二つの新しい魔法は早めに登録して世界に広めた方が良いだろう。


「ところで、日本政府が光の短剣を探しているようなんだが、心当たりはないか?」

「いいえ、俺は持っていません。光の武器は光剣クラウ・ソラスだけです」


 コレクターの収集物となっている光の短剣の中には、アメリカの情報網でも探し出せなかったものがある。それらを探して、日本政府は回収するつもりのようだ。


「ヨーロッパでも、光の短剣探しが始まっているらしい。どうしてなのか分からずに、冒険者ギルドの職員は戸惑っているよ」


 ヨーロッパでも光剣クラウ・ソラスを手に入れようとしているのだろう。ちなみに光剣クラウ・ソラスを手に入れたのなら、上位ランキングの魔装魔法使いが使う事になりそうだ。


 一方、『ホーリーソード』は生活魔法の才能がある者だけしか使えないので、接近戦が得意な魔装魔法使いの中で、生活魔法の才能がある者が、生活魔法の魔法レベルを上げて使う事になるだろう。なので、少し時間が掛かる。


 本当は戦い慣れた生活魔法使いが『ホーリーソード』や『ホーリーキャノン』を使って、邪神眷属を倒して欲しいのだが、戦い慣れた生活魔法使いが少ない現状では、仕方ない。


 そんな時、魔法庁の松本長官から電話があり、話があるのでグリーン館を来訪するという。

「長官自身が来るというのは、何か有るのかな?」

 考えても分からなかったので、松本長官の来訪を待つ事にする。邪神眷属への切札となる魔法の開発を続けようと思ったが、気になってあまり進まなかった。


 翌日の昼頃に、松本長官がグリーン館を訪れた。考えてみれば、グリーン館には応接室がなかった。仕方ないので作業部屋へ案内し、そこのソファーに座って話す事にした。


「こんなところまで来られるとは、驚きました。何かあったのですか?」

 松本長官は渋い顔をして話し始める。

「実は、邪神眷属の件を担当している世界各国の機関が、日本に集まり会議を行う事になったのです。議題はもちろん、邪神眷属対策です」


「ん? それが俺に関係するんですか?」

「その会議に各国の賢者も参加する事になったのです」

 俺にも会議に出て欲しいという事らしい。詳しく聞いてみると、フランスのエミリアン、アメリカのステイシー、イタリアのジーナ・ガブリエーレ、インドのバグワン、イギリスのクレイグ・ルドマンの出席が決まっているようだ。


 エミリアンは魔装魔法、ステイシーとジーナ、バグワンは攻撃魔法、ルドマンは生命魔法の賢者である。それに生活魔法の賢者である俺が加わって、邪神眷属の対策を話し合うという事になる。


 知らない賢者も会議に出るらしいので、俺も出席する事にした。どんな賢者か、興味があるのだ。それに他の賢者が、邪神眷属の対策として、どんな方法を考えているのか知りたい。


 会議の議長国となった日本は、どうしても会議で成果を上げたいようだ。

「グリム殿、対邪神眷属用の魔法はできそうですか?」

「使えるかもしれない魔法を二つ開発しました。但し、邪神眷属で試していないので、本当に使えるかは検証できていません」


「ほ、本当ですか?」

「嘘は言いませんよ」

「それが本当なら、今度の会議で発表できますね。議長国としての日本の面目が保てます」


 日本の面目はどうでも良いと思ったら、それが顔に出たようだ。

「日本の面目など、どうでもいいと思うかもしれません。ですが、こういう一つ一つの積み重ねが、日本は信用できる、信頼できるという実績になるのです」


 その気持ちは理解するが、まず国民の利益や命を守るために早めの対策を講じて欲しかった。俺がミノタウロスジェネラルを倒した時、最初に倒した方法を確かめに来たのがステイシー長官だというのは残念だ。


「ですが、発表するためには、本当に使えるのか、邪神眷属で確かめる必要がありますよ」

「それなら東北のダンジョンで、邪神眷属が発見されました。それを相手に確かめればいいでしょう」


 昨日、男鹿おがダンジョンでアーマーボアの邪神眷属が発見されたという。相手がアーマーボアなので、ダンジョンを封鎖するという措置は取っていないが、冒険者たちにはアーマーボアと遭遇したら逃げるように指示が出ているという。


「男鹿ダンジョンへ行かれるのなら、冒険者ギルドと相談して、最大限のサポートをします」


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