第532話 出雲ダンジョン

 二十一層の事も近藤支部長に報告した。

「ほう、ウィングタイガーか。珍しい魔物だな。これもグリム君の実績になるかもしれない」

「どうしてです? 珍しいというだけでは、実績にはならないと思いますが?」


 支部長の話ではウィングタイガーを倒すと、羽根をドロップする事が有るらしい。その羽根と別の材料を合わせると花粉症の特効薬ができるそうだ。


 報告を終えた俺は、屋敷に戻った。そして、アリサに電話で無事に帰った事を伝える。電話の向こうでアリサがホッとする気配を感じた。


 俺が影からシャドウパペットたちを出した後、執事の金剛寺から手紙をもらう。その中にフランスのクラリスからのものがあった。


 いつもなら電話を掛けてくるのに珍しいと思いながら封を切ると、スペインのダンジョンで亡くなった高順位の冒険者たちについてだった。


 彼らはガリシアダンジョンの二十五層の中ボスを倒しに行って亡くなったようだ。その魔物というのが、シルバーオーガの亜種であるホワイトオーガだという。


 おかしい。確かにホワイトオーガは強敵だが、A級十七位と二十三位、二十七位が揃っていて返り討ちに遭うか? 本当にホワイトオーガに殺られたのだろうか?


 魔物の強さを比べると、シルバーオーガ・ホワイトオーガ・キングリザードマンの順になる。A級十七位の冒険者は、魔装魔法使いだったらしいので、高速戦闘が不得意だったとは思えない。


 パワータイプだったとしても、ある程度の高速戦闘はできたはずだ。そうでないと、A級十七位にはなれないだろう。


 俺は手紙の内容をメティスに伝えた。

『ホワイトオーガが、高位の冒険者三人を返り討ちにしたというのは、おかしな話ですね。ですが、連携が上手くいかず、お互いの足を引っ張った、という事も考えられます』


「そうだけど、クラリスさんからの情報では、初めて組んだ三人ではなかったそうなんだ」

『魔装魔法使いが二人に、攻撃魔法使い一人の実力あるチームが、ホワイトオーガに負けたのですか。確率的にはあり得ないという事はないのですが……』


 以前にカナダで地上に出現したホワイトオーガは、およそ七十人の人命を奪っている。だが、その中には高位の冒険者は居ない。一般人やC級以下の冒険者が多かったようだ。


「そう言えば、A級三十九位のアイザック・シンクレアが、魔導武器のアロンダイトでホワイトオーガを仕留めたんだった」


 三十九位のシンクレアがホワイトオーガを仕留めたのに、それより高位の三人が返り討ちに遭ったのは納得できない。


『クラリスさんの手紙は、三人が死んだ件だけなのですか?』

「本題は、クラリスさんと賢者エミリアン殿が結婚するという話だ」

『おめでたい話の前置きが、物騒な話だったのですか? クラリスさんも変わっていますね』


「まあね。ただヨーロッパが物騒な感じになったので、エミリアン殿に護衛用のシャドウパペットを贈りたいのだそうだ」


『あのエミリアン殿には、必要ないと思いますが』

「エミリアン殿も人間だ。二十四時間ずっと警戒している、というのは無理だろう」


 エミリアンはA級二十九位になったらしい。驚いた事に、ランキングは俺が追い抜いたようだ。

『どのようなシャドウパペットを作るのです?』

「ダークリザードマンの影魔石を使い、シャドウクレイは九十キロでいいだろう」


 組み込むのはソーサリー三点セット、マジックポーチ、バッテリー二個とする。ソーサリーアイは高速戦闘用が良いだろう。


『コア装着ホールは、組み込まないのですか?』

「そうだな。『パペットウォッシュ』『ティターンプッシュ』『カタパルト』『エアバッグ』の魔法回路コアCを直接埋め込む事にしよう」


『<衝撃吸収>の特性が付与された『ティターンプッシュ』を埋め込むのですか?』

 メティスは魔法庁にも登録していない『ティターンプッシュ』を使えるようにする事に不安を持ったらしい。


「エミリアン殿は、俺が賢者だと知っている。賢者秘蔵の魔法だと思うだけだ。それに魔物を攻撃するような生活魔法を組み込んでいないから、これくらい強力な防御を埋め込まないと護衛用として役に立たない」


『なぜ攻撃用の生活魔法を埋め込まないのです?』

「エミリアン殿なら、魔導武器を大量に持っていそうだから、それをシャドウパペットに装備させればいい、と思ったんだ」


『それだと、ゴブリンメイヤーのマジックポーチでは、容量が足りないと思います』

「そうか。どうしよう?」

『こういう時は、近藤支部長に聞くのがいいと思います』


 という事で、冒険者ギルドへ行った。支部長に面会すると、いきなり『おめでとう』と言われる。

「何がです?」

「グリム君のA級ランキングが、二十位になったんだよ」


 A級二十位になると、それから三年間は特級ダンジョンへ潜る権利が与えられるらしい。その三年後の順位で権利を継続するかどうかが決まるという。


「ありがとうございます」

 支部長の前でなければ飛び上がって喜んでいただろう。ちょっと興奮して身体が熱くなるのを感じた。


「ところで、今日は何の用だね?」

 俺は収納系の魔導装備をドロップする魔物が居るダンジョンはないか尋ねた。


「それなら、日本の特級ダンジョンである出雲ダンジョンへ潜るといい」

 そう言った支部長が、出雲ダンジョンの資料を見せてくれた。その資料によると一層にはレッサードラゴンやブルーオーガが居るようだ。


 レッサードラゴンは体長五メートルほどで、二足歩行・背中に小さな翼を持つドラゴンだ。レッサードラゴンの翼は退化したもので、実際には飛べないらしい。


「しっかりと火炎ブレスを吐くのか。ファイアドラゴンみたいだな」

「そのレッサードラゴンは、大容量のマジックポーチをドロップする事があると聞いている」

「ありがとうございます」

 情報提供に感謝して、俺は冒険者ギルドを離れた。


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