第418話 南禅ダンジョンの五層

 アーマーベアが千佳の一撃で倒れたのを見ていた天音と由香里は、凄いと言って褒めた。

「あたしも雷切丸みたいな武器が欲しいな」

 天音が言うと、由香里も賛同した。


 アリサが笑い、

「でも、天音と由香里は剣術ができないじゃない」

 そう言った。それを聞いた天音が、本当に雷切丸のような武器を手に入れたら、剣術を習うという。


 由香里がアリサに目を向ける。その視線の先には、アリサが持っている風の三鈷杵ヴァーユが有った。

「あたしは雷切丸より、アリサのヴァーユのような武器がいいかな」


「今回の探索で、二人に相応しい武器が手に入るといいね」

 アリサが言うと千佳が頷いた。

「でも、こういうのは運だから」


「という事は『麒麟児』チームは運が良かったのかな」

 天音が言うと、アリサが頷いた。

「それなりに良かったんじゃない」

「……それなりに、というのはどういう意味?」


 アリサが天音にニコッと笑って質問した。

「『麒麟児』チームが『ハルパー』をオークションに出したら、天音は落札する?」

 天音は『ハルパー』を思い出して、首を振った。『ハルパー』は刃の長さが四十五センチほどしかない武器だったからだ。


 不死の神や怪物でも殺せる力が有っても、短すぎて使いづらい。雷切丸のように魔力刃が伸びるような機能が付いていない限り、普段使う武器としてはリーチが短すぎるのだ。


 そんな武器でもオークションに出されれば、コレクターが数億円を出して手に入れるだろう。神話級の魔導武器に違いないからだ。


 オークションに出される魔導武器というのは、冒険者が使いづらいと思うようなものがほとんどだ。本当にメイン武器として使える魔導武器なら、オークションに出そうとは思わない。


「ところで、アリサの魔導武器の使い勝手はどうなの?」

 由香里が尋ねた。

「次の魔物と遭遇したら、使ってみせる」


 そんな事を言いながら進んでいくと、ブルースコーピオンと遭遇した。体長二メートルもある大サソリである。


 アリサは三鈷杵の握りに付いているサファイアに親指を乗せて魔力を流し込みながら、ブルースコーピオンに向けて振った。その瞬間、三鈷杵の先端から強烈な風が噴射され、それが鋭利な刃となって大サソリを斬り裂いた。


「ゴブリンくらいだと、【風の鞭】で仕留められるんだけど、ブルースコーピオンのように頑丈だと【風の剣】で斬り裂くという選択肢になるの」


「確か【龍馬】というのも有ったはずよね。それは試してみたの?」

 由香里が尋ねた。

「ええ、説明し難いけど、龍馬と呼ばれる精霊馬を召喚して、魔物を攻撃させるという感じかな」

 アリサが説明すると、他の三人が感心したような顔をする。


 四人は周囲に注意しながら先に進んだ。そして、また中央に泉のあるオアシスのような場所に辿り着いた。そこに棲み着いているのは、やはりアーマーベアだった。


「こいつは、あたしと由香里で倒そう」

 天音の提案を、由香里が同意する。天音は雪刃鎚を出して構えた。

 アーマーベアが天音たちに気付いて、一声吠えると走り出し由香里を襲おうとする。その時、由香里がクイントパイルショットを放つ。


 装甲のように変わっている毛皮を、D粒子パイルが貫いて胸に穴を開ける。そのダメージでアーマーベアが地面に倒れたが、まだ生きていた。


 天音は『不動明王の指輪』に魔力を流し込むと、溢れ出す力を感じて跳躍する。空中で振り上げた雪刃鎚に付与魔法の『ダブルアーム』を掛けて威力を倍加。淡い光を放つ雪刃鎚の鎚の部分がアーマーベアの頭に叩き込まれた。強烈なパワーは堅牢な頭蓋骨を叩き割り致命傷を与える。


「うわっ、パワフル」

 由香里が目をパチクリして声を上げた。アリサと千佳も集まって来た。

「天音、今のはどうしたの?」

 アリサが質問すると、天音は『不動明王の指輪』を見せた。それを見た由香里が頷く。


「そうか、『不動明王の指輪』を使ったのね」

 そう言った由香里のところにアリサが近付き、肩を叩いた。

「おめでとう。生活魔法の魔法レベルが『11』になったのね」


 千佳と天音が驚いたような顔になる。

「ああっ、そう言えば『パイルショット』を使ってた。でも、グリム先生は、上がり難いと言っていたじゃない」

 『パイルショット』は魔法レベル11で習得できるようになる生活魔法なので、由香里が魔法レベル11になったのは確かなのだ。


 由香里が誇らしそうに胸を張った。

「たぶん魔法レベル10になった後に得た経験値みたいなものが、使われずに溜まっていたんだと思うのよ」

 他の三人は納得した。千佳は魔法レベルが『15』になったばかりだったから、溜まっていなかったのでレベルアップしなかったのだ。


 千佳たちは手に入れた新しい力を試しながら、五層まで下りた。ここは『麒麟児』チームが中ボス部屋でアイスドラゴンを倒したところである。


 中ボス部屋と言っても、山に囲まれた盆地みたいな場所である。ドラゴンと冒険者が戦った場所なので、所々に岩や樹木が破壊されて散らばっている跡が残っている。まだ時間が経っていないので修復されていないのだろう。


 アリサたちは六層に下りる階段への入り口を探した。千佳が入り口を見付けて声を上げる。

「ここよ!」

 アリサたちが集まると、一緒に階段を下り始める。すると通路があり迷路に続いていた。その迷路を通り抜けないと、六層へは下りられないらしい。


 冒険者ギルドで購入した地図が有るので、迷うという事はなかった。地図に従って進んで行くと、アリサが分かれ道で首を傾げて立ち止まる。


「どうしたの? ここは右でしょ」

 天音がアリサに言う。

「分かっているんだけど、左の通路の先に大きな空間が有るようなの」

「変ね。地図には大きな空間なんてないけど」

 アリサはD粒子センサーを使って、大きな空間を感知したらしい。確かめてみる事になり、左へ進む。すぐに通路を大きな岩が塞いでいる場所に辿り着いた。


「この岩の先に大きな空間が有るみたい」

 アリサは『クラッシュボールⅡ』を発動して、高速振動ボールを岩に向かって放った。時間指定しなかったので岩に命中した瞬間、空間振動波が放射され岩が粉々になって砕け散る。


 二発の高速振動ボールを岩に命中させると穴が開いた。開いた穴を潜って向こう側に抜けると、大きな空間があり二匹のレッドオーガが待ち構えていた。そして、レッドオーガたちの背後にある宝箱が目に入る。


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