第230話 地下街の祭壇

 後藤からタア坊を取り返してから、六層の廃墟を進み始めた。俺は最後尾で為五郎と一緒に歩きだす。

「後藤さん、赤城さんたちの高熱は呪いだと聞きましたけど、どう思いますか?」


 俺の質問を聞いた後藤が肩を竦める。

「さすがのダンジョンでも、呪いはないだろう。宝物庫で毒か何かを吸い込んだんじゃないかと思う」


 後藤の考えは、俺と同じだった。本当に呪いがあるのだったら怖い。

「お二人さん、ボーンゴーレムだ。しかもトリオでご来訪だぞ」

 深町が警告の声を上げた。


 左前方の角からボーンゴーレムが現れた。身長二メートル以上有りそうな骨で出来たゴーレムである。後藤が一人で一体を倒すように指示を出す。


 このチームのリーダーは、ベテランのB級冒険者である後藤だ。その指示に従って、俺たちは戦い始める。


 接近してきたボーンゴーレムにクイントオーガプッシュを発動する。高速回転するオーガプレートは、二百キロは有りそうなボーンゴーレムを弾き飛ばす。


 地面に倒れたボーンゴーレムに為五郎が襲い掛かった。装着した聖爪手でボーンゴーレムを切り裂く。その爪には<斬剛>の特性が付与されているので、問題なく切り裂いた。もしかすると、聖属性も影響しているのかもしれない。


 後藤と深町の方を見ると、二人はトドメを刺しているところだった。後藤は『クラッシュバレット』、深町は魔導武器らしい槍を頭に突き刺した。


 為五郎が魔石を咥えて、俺の所に持ってきた。

「よくやった。偉いぞ」

 俺が撫でると、為五郎は嬉しそうにする。魔導コアがどれほどの知能を持っているか分からないが、普通の犬以上の知能は有りそうである。


「為五郎も、戦力になりそうだな」

 後藤が頷いていた。為五郎が戦っていたのを見ていたようだ。


 俺たちは大通りを進み、教会まで辿り着いた。俺は為五郎を自分の影に戻す。深町が先頭に立って案内を始めた。


 教会の入口は二つ有り、深町は勝手口のような小さなドアを開けて中に入った。その先には通路が有り、通路の壁が破壊されて所々に穴が開いている。


 深町は穴に入って、大きな倉庫のような部屋に入ると多数の棚を避けながら右に左にと進む。まるで迷路だ、と思って慎重に進み床に大きな穴が開いている場所へ辿り着いた。


「ここが地下街への入り口だ」

 深町が声を上げた。俺たちは穴に飛び下りて地下街に入る。中は暗かったので、深町は頭に装着するタイプのライトを付ける。


 俺と後藤は暗視ゴーグルを装着した。後藤も暗視ゴーグルを持っていたらしい。地下街は碁盤の目のような通路と四角い建物によって構成されていた。


 俺たちはブラッドバットを探して、地下街を歩き始める。最初のブラッドバットに遭遇。大型のコウモリが翼をバサバサと羽ばたかせながら襲ってきた。


 コウモリには『ロール』である。俺は『ロール』を発動して、ブラッドバットを回転させる。ダメージを受けたブラッドバットは、地面にポトリと落ちた。


 落ちたブラッドバットを黒意杖の『細剣突き』で仕留める。残念ながら解熱剤はドロップしなかった。

「次々に来るぞ」

 深町の言葉が聞こえた。


 ブラッドバットが集団で来た。こういう魔物には『マルチプルアタック』が有効なのだが、この生活魔法は魔法庁への登録をしていないものだ。


 危なくなったら使うつもりだが、あまり後藤や深町には見せたくない。魔法庁に登録していない魔法を多数使えば、俺が生活魔法を隠し持っている事がバレてしまう。


 今回は後藤と深町が居るので、大丈夫だろう。予想通り後藤が『ショットガン』という攻撃魔法を使った。これは多数の魔力弾をばら撒く魔法で、散弾銃のような威力を持つ。


 深町は素早さ強化に特化した『トップスピード』という魔装魔法を使い、目で追いかけられないようなスピードで走り回りながらブラッドバットを仕留めている。


 全部で五十匹ほどのブラッドバットを仕留めると、襲ってくる魔物の姿が消えた。

「これで終わりのようだな。解熱剤はドロップしたか?」

 俺たちは解熱剤を探し三個だけ見付けた。


 もう少し必要なので、ブラッドバットを探して地下街を歩き回った。やっと解熱剤が五個になった時、地下街の一角に祭壇のようなものがあるのに気付いた。


「ここにも祭壇か、ここの住人は信心深かったようだな」

 後藤の言葉に俺は頷いた。

「信心深いか、危険なものを封印していたかです」


「封印か。それもあり得るな。ところで、神を信じているのか?」

「人間より格上の存在が居るんじゃないか、と思っていますが、それが人間が信仰している神だと思っていません」


「なるほど、ダンジョン探索をしていれば、そういう考えになるのは分かる」

 ダンジョンを創った存在が居るはずなのだ。それは人間よりも文明が進んでおり、人間ができないことをできる存在だと広く信じられていた。


 祭壇から地鳴りのような音が聞こえた。祭壇に目を向けるとそこの地面に亀裂が入り、何かが這い出して来ようとしている。


 ヤバイものが出て来ようとしている。それを直感した俺たちは、逃げ出した。地下街のような狭い空間で戦うのは不利だからだ。


 威力がある魔法を使えば、自分も巻き込まれてしまう。それが狭い空間で戦う場合のリスクだ。俺たちは自爆などというのは嫌なので、地下街から逃げ出した。


 祭壇の下から這い出してきたのは、サイクロプスゾンビだった。そいつが俺たちを追って、通路を這い進んでくる。デカ過ぎて立ち上がれないのだ。


 俺たちは入ってきた穴から上へと逃げ出した。それを追ってサイクロプスゾンビが穴から出ようとするが、巨体が出られるほど穴は大きくない。


 俺たちは教会から抜け出し、振り返った。

「嫌な音が聞こえるな」

 後藤の言う通り、サイクロプスゾンビが穴から無理やり出ようとして暴れる音が聞こえる。そして、教会が爆発したように壊れて、サイクロプスゾンビが這い出してきた。


 その巨体は八メートルほど有り、よく地下街の通路を通れたな、と感心するほど大きかった。


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