第156話 <磁気制御>と<堅牢>

 新しい特性を手に入れた俺は、どういう魔法を創るか考え始めた。

 磁気を操作するには、核となるD粒子磁気コアが必要であるらしい。形状をどうするか悩んで、持ち運びが簡単な数珠型のネックレスにする。


 新しい魔法にはD粒子一次変異の<磁気制御>とD粒子二次変異の<堅牢>を組み込む事にした。<堅牢>の特性を組み込む事にしたのは、メティスの勧めである。


『<磁気制御>だけでは、脆い防御壁にしかならないと思うのです』

「でも、<堅牢>を付けても、D粒子磁気コアが頑丈になるだけのような気がするけど」

『いえ、D粒子の形成物に特性が付いている場合、それが引き起こした魔法効果にも影響を与えるはずです』


 メティスは生活魔法について何かを知っているようだ。もしかすると、ダンジョンアーカイブというものから情報を引き出しているのかもしれない。


 魔法の細かい条件などはメティスに任せた。俺はメティスの指示に従って賢者システムを操作する。今回は俺とメティスの合作という魔法が出来上がった。


 この新しい魔法を発動すると、数珠型のネックレスのようなD粒子磁気コアが首の周りに形成される。

『使ってみてください』

「そうだな。まずは身体を覆うようにドーム状の磁気バリアを展開してみよう」


 俺はD粒子磁気コアを使ってドーム状の磁気バリアを展開した。

「磁気バリアが、展開しているのかどうか分からないな」

『磁気は目に見えませんから、銅リングを投げてみてください』


 その言葉に従い、マジックポーチから銅リングを取り出して、前方に投げた。一メートルほど離れた場所で何かに当たって跳ね返った。


 前後左右、どちらの方向に投げても、銅リングは跳ね返された。どうやらバリアは展開されているらしい。


「何か、イメージと違う気がする」

『何が違うというのですか?』

「磁気のバリアだから、跳ね返すのではなくて、軌道を逸らすような動きをするのかと思っていた」


『もしかすると、<堅牢>の特性が、予想以上に強く影響しているのかもしれません』

 俺はドーム状の磁気バリアを解除して、十メートル先に壁状の磁気バリアを展開させる。


 この新しい魔法の特徴は、思考制御によりイメージする形状の磁気バリアを十メートル以内なら形成できると言う事だ。


 俺は展開した壁状の磁気バリアに向かって、銅リングなしのクイントヒートシェルを撃ち込んだ。磁気バリアに命中したD粒子シェルはメタルジェットは噴出せずに爆発した。


 その爆炎が磁気バリアを叩くが、完全に跳ね返される。その瞬間、D粒子磁気コアを構成している球状の珠が僅かに小さくなった。クイントヒートシェルの爆炎を跳ね返すためにD粒子が消費されたのだ。


 この魔法の優れている点は、敵の攻撃力が強くなれば自動的にD粒子を消費して磁気を強化するところにある。


 問題はファイアドレイクの火炎ブレスが、どれほど強力なのかである。冒険者ギルドの資料には、攻撃魔法の『プロミネンスノヴァ』に匹敵するとあったので、試してみなければならない。


 翌日、二十七層へ向かった。新しい魔法を試してみるためである。

 二十七層へ下りた直後に、新しい魔法を使ってD粒子磁気コアを形成して身体の周りにドーム状の磁気バリアを展開してから進み始める。


 ほどなくスケルトンアーチャーと遭遇し、矢が飛んできた。俺は反射的にトリプルPシールドを発動する。その矢はD粒子堅牢シールドに当たる前に、磁気バリアで弾かれた。


「良かった、ちゃんと機能した」

『機能しないと予想していたのですか?』

「そういう訳ではないが、磁気は見えないから不安だったんだよ」


 俺は磁気バリアを展開したままスケルトンアーチャーへ近付いた。その間に矢が飛んできたが、磁気バリアに弾かれた。


「あの矢は鉄製でもなさそうだけど、何で弾かれるんだ?」

『あらゆる物質は何らかの磁性を持つと言われていますから、磁気バリアに衝突した場合、何らかの影響を受けるはずです。ただ<堅牢>の特性が磁気自体に影響している可能性があります』


「ふーん、分からん。科学では説明できないから魔法なんだけど……」

『私も正確な事は分かりません』


 まあ、バリアとして機能するのなら文句はない。俺はスケルトンアーチャーに近付いてクイントブレードで切り裂いた。


 その直後、黒い炎が飛んできた。反射的に横に避けようとする前に磁気バリアに弾かれた。スケルトンメイジの魔法である。俺はスケルトンメイジに走り寄り、トリプルハイブレードで仕留めた。


 磁気バリアが魔法も防げると分かり安心した。ただ、なぜ防げるのかは分からない。魔法の炎は反磁性体なのだろうか?


 新しい魔法の御蔭で二十七層の攻略が進んだ。スケルトンアーチャーとスケルトンメイジは黄魔石<中>を残すので、黄魔石を大量に手に入れる事ができた。


 二十八層への階段を探し当て、その階段を下りる。二十八層は真っ白な雪原エリアだった。

「寒い。防寒装備が必要だな。今回はここまでにして戻ろう」

 俺は地上に向かって戻り始める。


 二日掛けて地上に戻り冒険者ギルドへ向かう。冒険者ギルドは少しザワザワしていた。カウンターで黄魔石以外の魔石を換金してから、ざわついている理由を確認した。


「鳴神ダンジョンの入り口周辺の土地を国が買い取り、一般の冒険者がダンジョンへ入れるようになったからです」


 マリアが説明してくれた。入れるようになったと言っても、C級以上の冒険者に限られる。それでも鳴神ダンジョンの詳細が分かるようになるので、ざわついているらしい。


 それを聞いて、俺も早くC級になって鳴神ダンジョンに挑戦したいという気持ちになった。新しい上級ダンジョンでは、新しい魔道具や新しい魔法の巻物が発見される事が多いのだ。


 それを考えると焦るような気持ちになる。だが、C級になるには、まずファイアドレイクを倒さなければならない。焦りは禁物だ。まずは二十八層と二十九層を攻略しなければ。


 俺はマンションに戻って、新しい魔法に名前を付けた。『マグネティックバリア』である。賢者システムにも登録した。この魔法は『ブーメランウィング』と同じで魔法レベル14で習得可能となる魔法だ。


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