第119話 魔法庁の役人

 アーマーベアの巣穴を発見した翌々日。

 俺が冒険者ギルドへ行くと、鉄心がニコニコしながらチームの仲間たちと話していた。


「ご機嫌ですね」

 近付いて声を掛けた俺に、鉄心が笑顔のまま応える。

「おっ、グリム。やったぜ、宝物庫を探し当てたんだ」


「おめでとうございます。期待した通りに、武器が有ったんですか?」

「ああ、魔導武器が四つだ。ただ『効力倍増』の武器なんで、それほど高価なものじゃない」


 『効力倍増』の魔導武器というのは、魔装魔法や付与魔法の効果を倍にするというものなので、その武器だけでは特別な武器にならない。なので、他の魔導武器よりは安くなる。


 とは言え、魔装魔法使いである鉄心たちからすれば、最適な武器だった。『スラッシュプラス』などで武器の切れ味を強化すれば、その効果が倍になるのだ。


 鉄心はソロではなくチームで行ったので、宝物庫の鍵の番をしていたのは、冥界の番犬ガルムだったそうだ。眷属のブラックハイエナを大量に召喚されて大変だったらしい。


「アーマーベアの巣穴はどうなんだ?」

「やっと見付けましたよ」

「ソロだとアーマーベアが一匹だけ居る場合が多いんだが、どうだった?」

「それが……」


 俺の名前が呼ばれた。振り返るとマリアが立っている。

「支部長が用が有るそうです」

「ふーん、何だろう」


 俺は支部長室に向かった。支部長室には近藤支部長と知らない男が待っていた。

「来たか。座ってくれ」

 俺は支部長の横に座った。すると、支部長が男を紹介した。魔法庁の役人で名前は結城というそうだ。


「何の用ですか?」

「榊さんが魔法庁に登録された生活魔法について、質問したいのです。どこで手に入れたものなのですか?」


「どうして、そんな質問を? 何か疑われているんですか?」

 支部長が首を振って否定する。

「違うんだ。結城さんは登録した魔法が、魔導書から解析して取り出したものなのか、それとも創ったものなのか調べに来られたんだ」


「俺は不正な事はしていませんよ。どちらでもいいじゃないですか」

 結城が愛想笑いを浮かべた。

「そうではなくて、榊さんが賢者ではないかという可能性が出てきたんで、確かめに参ったのです」


「へえー、賢者ね。例えば、賢者だったとすると何か変わるんですか?」

「日本でただ一人の賢者という事になりますので、護衛を付けさせていただきます」


 護衛だと言うが、本当は監視じゃないか? 嫌だな。

「巻物をたくさん手に入れたという事は考えないんですか?」

「二つか三つなら有りそうですが、榊さんの場合は五つですからね」


 俺はマジックポーチから魔導書を取り出した。それを見た近藤支部長が、やはりなという顔をする。

「それが魔導書か。初めて見た」


 冒険者ギルドの支部長でも、魔導書は珍しいようだ。結城が魔導書に向かって手を伸ばす。俺は結城に触らせなかった。


「他人に魔導書を触らせる気はない」

 俺がはっきり言うと、結城が顔をしかめた。

「ですが、本物かどうか調べないと」


「どうやって、本物だと確認するんです?」

「では、三つだけ魔法陣を見せてください」

 俺は『ホール』と『クリーン』のページを見せた。結城は魔法文字が読めるようで、説明文のところをチェックするように読む。偽物は魔法文字で書かれた説明文がでたらめな場合が多いらしい。


「最後に、まだ登録していない魔法があったら、見せてもらえませんか?」

「出し抜いて、先に登録しようなんて事じゃないですよね」

「もちろん違います。それは近藤支部長に証人になってもらいます」


「いいでしょう。それなら、まだ調べていない生活魔法を見せましょう」

 俺は魔法レベル14で習得できる魔法陣を見せた。


「これは……チェーンソーのような魔法ですな。確かに新しい魔法です。ありがとうございます。確かに本物の魔導書でした」


 結城は納得したらしい。俺は魔導書をマジックポーチに仕舞った。

「はあっ、残念です。榊さんが賢者だったら、世界に対する日本の発言力を大きくできたんですが」


「どういう事なんだ?」

 近藤支部長が尋ねた。

「年に一回、政府の代表と賢者が集まる世界賢人会議というのが有るのですが、日本は肩身の狭い思いをしているのですよ」


 賢者が居ないから肩身が狭いという事なのだろうか? 俺を除けば、賢者は十一人しか居ないのだから、世界のほとんどの国は賢者が居ないはずだ。


「そうだ、榊さんに協力していただけたので、お礼に魔法庁が発行している教科書を差し上げます」

 結城から攻撃魔法・魔装魔法・分析魔法・付与魔法・生命魔法の教科書をもらった。書店では買えないものなので、これは単純に嬉しかった。


 結城が去ると、近藤支部長が尋ねた。

「生活魔法には、空を飛べる魔法が有るという噂を聞いたんだが、本当なのか?」

「ええ、『ウィング』という魔法です」


「有るのか。誰かに習わせるかな」

「急にどうしたんです?」

「毎年、草原ダンジョンで、迷子になる初心者が出るんだ。それを探すのに、ギルドの職員が駆り出される事がある。その『ウィング』があれば、空中から探せるんだろ」


「そうですね。でも『ウィング』は、魔法レベル8で習得できる魔法ですよ」

「魔法レベル8ぐらいだったら、一年くらいで上げられるだろう」

 支部長は本気で、才能のある職員に生活魔法を修業させるらしい。

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