第115話 C級冒険者の知識
上条には『コーンアロー』を習得してもらう事にした。但し、それは夜にやってもらう事にして、昼間は魔法レベルを上げるために魔物と戦ってもらう。
とは言え、上条が使えるのはダブルプッシュだけである。なので、水月ダンジョンの一層と二層で、ゴブリンやオークを相手にダブルプッシュを命中させてから、武器で仕留めるという事を繰り返してもらう事になる。
上条の魔力量は、学院の生徒などと比べられないほど膨大である。その魔力を使って百回以上もダブルプッシュを繰り出し魔物を仕留めれば、生活魔法の魔法レベルが上がるだろうと思っている。
「ほう、生活魔法で仕留めなくとも、魔法レベルを上げるのに効果が有るのか?」
「そうみたいです。こういう場合は、魔力量が多い人が有利です」
「なるほどな。いい事を教わった。代わりに、魔法を覚えるコツを教えようか?」
「そんなものが有るんですか。教えてください」
「普通は魔法陣をジッと睨んで習得するが、その時に魔力を動かしていると、早く覚えるらしい」
俺は首を傾げた。
「魔力を動かせるんですか?」
「魔装魔法は、魔力を身体に纏ったり、武器に流し込んだりする。それは魔法で強制的に行うのだが、ちょっとした移動なら、訓練すればできるようになるんだ」
上条は右肺に有る魔力を左肺に、次は左肺から右肺にと移動する訓練をしたらしい。そうすると脳が活性化して、魔法を早く覚えられるという。
俺は魔装魔法の『パワーアシスト』を覚えるのに、かなり苦労した事を思い出した。あれが少しでも早く覚えられるのなら、魔力移動を訓練する価値はある。
「ところで、何でグリム先生と呼ばれているんだ?」
「魔法学院で、生活魔法を教えていたんです」
「ああ、本物の先生だったのか。なるほど」
「上条さんはC級冒険者で、歳上なんだからグリムでいいですよ」
「いや、グリム先生と呼ばせてくれ。真剣に学びたいんだ」
その真剣さは分かるんだが、俺としてはプレッシャーを感じてしまう。
「そうだ、報酬の事を忘れていた。これでいいか?」
上条が巾着袋のようなマジックバッグから、エスケープボールを出して俺に渡した。
「こんな高価なものを……」
「いいんだ。ダンジョンで手に入れたものだから、元手は掛かっていない」
俺はエスケープボールをマジックポーチに仕舞い、その代わり『コーンアロー』の魔法陣を出して渡した。
それから水月ダンジョンに案内して、ゴブリンやオークを倒してもらう。ダブルプッシュだけを使って、脇差で倒しているのだが、あまりにも簡単に倒すのでオークが
見物していても仕方ないので、俺はダンジョンハウスに戻って新しい魔法でも考える事にした。ダンジョンハウスに戻り、休憩室の椅子に座る。
魔物を攻撃するための魔法はアイデアが浮かばなかったので、アリサたちやタイチが言っていた掃除をする魔法を考えた。
「D粒子に
空気中からD粒子を集め、埃を回収する魔法を考えた。埃かどうかという判断は、大きさで判定する。
賢者システムを立ち上げ、掃除用の魔法を構築。一箇所に集めたD粒子を打ち上げ花火のように周囲に放ち埃と接触したら、その埃を捕獲して集まってくるという魔法だ。
ロッカールームへ行って、誰も居ないのを確かめてから掃除魔法を発動する。D粒子が集合・離散・集合して埃を集めてきた。
目の前に埃の塊が浮かんでいる。埃が集まったという事は成功したのだ。魔法が解除されると、その埃が床に落ちた。それから、ロッカールームの隅々をチェックする。
埃の塊が出来たのだから、綺麗にはなっているのだろうが、期待していたほど綺麗になっていない気がする。
壁などは汚れが付いたままだし、部屋の角には埃が溜まったままになっている。どうやら、D粒子は空気中に漂う埃を集めてきたらしい。
「掃除というより、空気清浄機になっている」
この方法ではダメなようだ。休憩室に戻って考えていると、上条が戻って来た。
「魔法レベルが一つ上がったぞ」
「早いな。さすがC級ですね」
相手がベテランのC級冒険者なので、教える側は楽だ。安全確認のために見守る必要はないし、指示だけ出していれば、勝手に練習してレベルを上げる。
上条は急速に生活魔法の魔法レベルを上げ、『コーンアロー』も二日ほどで習得した。『コーンアロー』の多重起動で魔物が倒せるようになると、早撃ちの練習をするようになった。
俺は身体の動きに合わせて、生活魔法を放つ方法も教えた。
「なるほど、掌打プッシュとかは面白いな。発動する時間が短縮されるのもいい」
上条は玩具を与えられた子供のように楽しそうだった。
間もなく魔法レベル5になった上条に、『ブレード』と『ジャベリン』の魔法陣を渡した。
『ブレード』は実演して見せたので、水月ダンジョンの二層へ行って『ジャベリン』を実際に使って見せる。『コーンアロー』の拡大版なので、すぐに理解したようだ。
「連日ダンジョンへ潜っていますけど、疲れないんですか?」
上条は毎日ダンジョンへ潜っているようなので、大丈夫なのか確認した。
「上級ダンジョンに潜るのに比べれば、中級ダンジョンなんてレクリエーションみたいなものだ」
昇級試験の時に上級ダンジョンへ潜った経験しかないが、上級ダンジョンの魔物の数は桁違いだった。様々な魔物が時間を置かずに襲ってくる環境は、厳しいものがあった。
それに比べれば、中級ダンジョンの低層など楽勝なのだろう。
「そう言えば、グリム先生は、どんな活動をしているんだ?」
「アーマーベアの巣穴探しです」
「ああ、宝箱を狙っているのか。私もやったよ」
他のダンジョンにも、アーマーベアの巣穴探しが有るらしい。俺は何度か十五層へ行って探したのだが、未だに見付けられずにいた。
「アーマーベアが巣穴を作りやすい場所というのが有るんだ。起伏が激しい地形で、背の高い草が生えている場所だ。そこを念入りに探すと見付かるぞ」
「ありがとうございます」
さすがC級冒険者は違うと思った。資料室にもなかった情報を教えてもらい喜んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます