第93話 セブンスヒートシェル

「コンクリート製の標的なんて、初めて見た。何か一部が焦げてるし、熔解してガラス化してるじゃないか」

 かなりの高熱にさらされたようだ。


 俺は五重起動の『ヒートシェル』から、検証の続きを始めた。まずクイントヒートシェルをコンクリート標的に放ち、穿うがたれた穴の深さを測った。


「深さ二十五センチか。貫通力は凄いな」

 俺の中途半端な知識で創り上げた魔法なのに、威力が凄すぎるような気がする。D粒子が何か威力上げるような事をしているのだろうか?


 俺は砲弾の形状や金属を固定する位置を変えながら、クイントヒートシェルを何度も繰り返した。金属を固定するのは、砲弾の後ろ側に金属が来ると爆発時に液体金属が前方に飛ばないからだ。


 調査した結果、最適の形状と金属の固定位置が決まった。

 次に投入する金属の量を変えながら、クイントヒートシェルを何度も繰り返す。最適な投入金属量を調べるためだ。


 最適な投入量が判明。最後に七重起動のセブンスヒートシェルを試して終了する事にした。発動すると、ボウルの中でギュンと音を立てながら空気を吸い込み渦を巻く。


 金属を投入してから砲弾状に変形。コンクリート標的を目掛けて撃ち出した。その瞬間にD粒子シェルが消える。さすがに七重起動は飛翔速度も圧倒的に速くなっている。


 D粒子シェルがコンクリートに命中した瞬間、内部で超高熱が発生し砲弾の前部にある銅を溶かし液体化する。同時に圧縮された空気が超高熱で熱膨張を開始、それでも吸収しきれない熱エネルギーにより空気がプラズマ化した。


 急激に熱膨張するプラズマ化した空気は爆轟波となって周囲に広がり、液体化した金属を砲弾の先端部へと弾き飛ばしメタルジェットとして前方に噴出する。


 成形炸薬弾から発生するメタルジェットはマッハ二十にもなると言われているが、このD粒子シェルから発生したメタルジェットが、どれほどの速度かは分からない。成形炸薬弾とD粒子シェルの違いは、D粒子シェルの方は金属が超高温で溶融するという点だ。


 ドゴォンと地面が揺れる爆発が響き強烈な爆風が押し寄せてきた。ここまで凄いとは思っていなかった俺は、後ろによろめく。


 かなり大きな火炎が周りに広がり、凄まじい威力である事を示す。爆風が収まった後に、俺は標的にしたコンクリートに近寄った。


 コンクリートに蜘蛛の巣状のヒビが入り、一メートルほどの厚みがあるコンクリートの標的をメタルジェットは貫通していた。


「何が起きた? 威力が桁違いに上がっているぞ」

 空気がプラズマ化した事で威力が上がったらしい。これは化学に詳しい人物に調査してもらった後に分かった事だ。


 『ヒートシェル』の射程は十五メートル、爆風には気を付けなければならないようだ。


「お客さん、そろそろ時間だけど、延長しますか?」

 練習場の従業員が入って来た。

「いや、終わります」


 その従業員は頷いてから、コンクリート標的をチェックした。そして、驚いたような顔をする。

「うわっ、このコンクリートを貫通する魔法なんて初めてですよ」


 俺は代金を払って練習場を後にした。さすがに『ヒートシェル』を連発したので疲れた。

 バスでアパート近くまで戻り寝た。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 次の日は、道場での空手修業である。三橋師範にしごかれてから、午後から水月ダンジョンへ行く事になった。師範が覚えたばかりの『ジャベリン』を使ってみたいというのだ。


 俺たちは水月ダンジョンへ向かい、六層の荒野エリアへ下りた。ここはメガスカラベとキングスネークが居るエリアである。


「師範、無理はしないでください。俺がすぐに交代しますから」

 三橋師範が一人でキングスネークと戦いたいと言い出したのだ。魔法レベル5になって『ブレード』と『ジャベリン』を覚えたばかりなので、無理をして欲しくないんだが。


「心配するな。『プッシュ』と『ブレード』が有れば、キングスネークなどにはやられん」

 三橋師範は自信が有りそうだ。メガスカラベと遭遇した。距離があるので『ジャベリン』を試すチャンスだ。


 俺が師範に目で合図すると、師範が頷き右手を突き出してクワッドジャベリンを放つ。クワッドジャベリンはメガスカラベの脇腹に命中した。だが、致命傷ではない。


 メガスカラベは攻撃したのが、師範だと気付いたようだ。俺だって分かる。師範は殺気または闘気みたいなものを放っていたからだ。


 わざと誘っているらしい。メガスカラベが走り寄ってきて、師範に襲い掛かろうとする。前蹴りと同時にクワッドブレードを放った。


 下から擦り上げられたクワッドブレードが胸から頭に掛けて断ち切った。虫型魔物は下からの攻撃が有効なようだ。


「ふん、昔はこいつを倒すのに苦労したのだがな」

 生活魔法を習う前から冒険者だった師範は、以前にもメガスカラベと戦った事があったようだ。


「油断しないでください」

「心配するな。油断などせん」

 それから五匹のメガスカラベと遭遇し、三匹をクワッドジャベリンで仕留めた。『ジャベリン』の使い方が分かってきたようだ。


 メガスカラベを倒した直後、キングスネークと遭遇した。三橋師範が前に出る。一応初級解毒魔法薬を持っているので、一度噛まれても解毒できる。


 キングスネークと三橋師範の戦いが始まった。キングスネークは鎌首をゆらゆらとさせながら、師範の身体に毒牙を打ち込もうとする。


 それを師範が掌打プッシュで跳ね返す。師範の掌打プッシュはクワッドプッシュである。師範は五重起動までできるのだが、四重起動が溜めなし発動できる限界らしい。


 何度目かの掌打プッシュが決まり、キングスネークが脳震盪を起こしたようによろっとする。その隙を見逃す師範ではなかった。手刀をキングスネークの首目掛けて振ると同時にクワッドブレードを発動する。


 クワッドブレードがキングスネークの首を刎ね飛ばした。見事な太刀筋である。もしかすると、三橋師範は剣術を修業した事が有るのかもしれない。


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