第78話 選抜チーム対抗戦

 カリナが言ったように、選抜チーム対抗戦にでるメンバーは、アリサたちになった。

 そして、いよいよ競技会の日。県内の魔法学院四校の生徒たちが、渋紙市の市街地に造られた会場に集まった。


 この会場の広大な敷地は、サッカーが二試合同時にできるほどの広さがある。

 競技会が始まると、アリサたちは黒月と合流し対抗戦のルールを聞いた。そこには他の三校の生徒たちも居る。


 その中でジービック魔法学院のライバルとなるのは、フィリス魔法学院のチームだと黒月から聞いた。


 フィリスチームにも黒月のような存在が居るそうだ。二年の貴崎双葉という魔装魔法使いらしい。残りのメンバーの全員が攻撃魔法使いという特殊なチームだ。


 残りの二校の中で、ベルド魔法学院は魔装魔法使い三名と攻撃魔法使い二名のバランスの良いメンバー構成をしていた。ただ特出した実力の持ち主は存在せず、特色のないチームと言える。


 そして、カセオ魔法学院は魔装魔法使い四名と攻撃魔法使い一名という構成である。フィリス魔法学院とは真逆のチームとなっている。但し、このチームにも特出した実力の持ち主は存在しない。


「今回の勝利要件は、赤瀬ダンジョンの六層まで行き、ダンジョンボスを倒す事だ。そのあかしとして魔石を持って帰ってもらう。但し、途中で遭遇した魔物は必ず倒す事、それが条件だ」


 教頭が不満そうな顔をして説明している。アリサたちがメンバーに選ばれたのが気に入らないようだ。説明が終わり、スタートを待つ事になった。


 赤瀬ダンジョンは渋紙市から少し離れた場所にある初級ダンジョンである。各学院の生徒もあまり使わないダンジョンなので、不公平にはならないと判断されたらしい。


 その赤瀬ダンジョンを生徒たちがあまり使わないのには理由がある。六層までしかない初級ダンジョンなのだが、中に居る魔物がビッグシープやアーマードウルフなどの防御力が高い魔物が多いので、生徒たちには人気がないのだ。


「ジービックの黒月さんね」

 フィリスチームの貴崎が、黒月に声を掛けた。少し冷たい感じのする美少女だ。

「そうだ。君はフィリスの貴崎さんだよね」

「ええ、今日は勝たせてもらいます。それだけ言いに来たの」


 そう言って貴崎が戻ろうとする。その背中に黒月が、

「相当な自信家なんだな。それともチームメンバーに自信が有るのか?」

「そうね。メンバーも優秀よ。私以外全員が攻撃魔法使いだけど。そう言うあなたのメンバーはどうなの? アクシデントが有ったと聞いたけど」


 黒月が何と答えるか、アリサたちは興味を持った。黒月が微妙な顔をして答える。

「メ、メンバーはちょっと変わっているが、優秀な生徒ばかりだ」

「そう、なら紹介してもらおうかしら」


 貴崎がアリサたちの前に来た。

「私は魔装魔法使いの貴崎よ。お名前を聞いてもいい?」

 アリサたちが自己紹介すると、貴崎が呆れた顔になる。天音とアリサは、分析魔法や付与魔法より生活魔法が伸びているので、生活魔法使いと名乗るようになっていたのだ。


「ジービックは狂ったの。二人も生活魔法使いをメンバーに入れるなんて」

 天音が口を尖らせて文句を言う。

「ちょっと失礼よ。生活魔法使いだというだけで、差別するなんて」


 貴崎が鼻で笑う。

「差別じゃないでしょ。生活魔法使いがダンジョンの魔物を倒せるの?」

 天音が鋭い視線で貴崎を睨んだ。

「ふん、そうやって生活魔法を馬鹿にして、墓穴を掘るのよね」


 貴崎が天音を睨み付けた。

「口だけは達者なようね。いいでしょう。ダンジョンから戻ったら、あなたが言う馬鹿にできない生活魔法というのを見せてもらいましょう」


 貴崎が去っていくと、天音が身震いする。

「面白くなってきた。絶対に勝って、あいつの鼻を殴ってやろうよ」


 アリサが首を傾げた。

「鼻を殴る? それだとただの暴力だから……鼻をあかしてやろうじゃないの?」

「そう、それ」


 アリサは天音が興奮し過ぎだと思ったが、生活魔法の素晴らしさを広める良い機会だと考え頑張る事にした。


 模擬戦や魔法の威力を競う試合は始まっており、応援の声で盛り上がっている。そして、出発の時間がきた。会場の中央に出たアリサたちは、各学院の生徒たちの応援を受けながら出発した。


 その中でジービック魔法学院の生徒たちの中には、納得できないという顔をしている生徒が多かった。特にアリサたちの事を知らない一年と三年の生徒たちに、その傾向が強い


「何で生活魔法使いが二人も入っているんだ?」

「知らねえよ。強いからだろ」

「でも、生活魔法使いが強いなんて、おかしくないか?」

 そんな会話が交わされた。


 アリサたちは会場を出て赤瀬ダンジョンへ向かった。会場から赤瀬ダンジョンまでは二キロほどある。ダンジョンまで走るのも競技のうちらしい。


 これは競技なので、不正をしないように各校の教師が一緒に監視役として同行する。アリサたちに同行するのは、フィリス魔法学院の名瀬という教師だった。


「こういう時は、魔装魔法使いが有利だけど、全員が魔装魔法使いという選抜チームは居なかったみたい」

 アリサがジョギング程度のスピードで走りながら言う。


「もう少し急いだ方がいいんじゃないか?」

 黒月が少し焦った感じで言った。

「ダメ、これ以上スピードを上げたら、ダンジョンに到着する前に体力が尽きそう」

 アリサが断言した。ダンジョンに潜るようになって体力が向上している。だが、天音や千佳に比べるとまだまだ体力不足だった。


 ダンジョンに到着して素早く着替えて中に入る。そこでフィリス魔法学院の貴崎たちのチームと一緒になった。

「あらっ、一緒になったのね。ここからが本番よ」


 アリサたちは教頭から渡された地図を頼りに最短ルートを進み始めた。一層から三層までは、アリサたちが貴崎たちより若干リードしていた。


 アリサたちは、グリムから指示されて早撃ちの練習をしている。そのせいで魔物を瞬殺する事が多いのだ。黒月が攻撃する前に、アリサたちが倒してしまうので、黒月の出番がない。


 とは言え、そのリードは微妙なものだった。だが、四層でビッグシープに遭遇して差がついた。

 原因はビッグシープの毛である。その毛は特殊であり、攻撃魔法も弾くらしい。なので、一撃で倒す事はできず、普通なら倒すのに時間が掛かるのだ。


 だが、生活魔法には『ムービング』がある。毛を刈ってから攻撃すれば短時間で倒せる。アリサたちは一歩リードして四層を抜けた。


 監視役の名瀬は、ビッグシープの毛を刈って倒すアリサたちのやり方を見て苦笑いしていた。

 ここでアリサたちが先行する事になった。僅差で貴崎たちが追い駆けており、その後ろにベルド魔法学院とカセオ魔法学院が続いている。


 アリサたちは、五層を進んでいる時、運悪くキングスネークと遭遇してしまう。運が悪い時は、こういうものだ。


「こいつは強敵だ。僕が倒そう」

 出番がなかった黒月が言い出した。アリサが異議を唱える。

「でも、皆で戦った方が、早く倒せると思いますけど」


「ここは、僕に任せて、魔力を温存してくれ」

 黒月がキングスネークと戦い始めた。魔装魔法で強化した後に、剣を構えて突撃する。さすがに黒月は強い。瞬く間にキングスネークを追い詰め、最後には『クラッシュバレット』で仕留めた。


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