第33話 生徒たちの成長

「この中にはオークとリザードマンが居る。この前は、下りた瞬間にオークと遭遇して驚いた。気を付けろよ」

「へえー、ここが穴場なんですね」


 天音の言葉に頷いて、俺が最初に下りた。地下通路の幅は三メートルほどで、天音たちが並んで魔物を攻撃する事ができる。


「さて、オークとリザードマンを四人で攻撃するんだ」

 俺が指示を出して、魔物の狩りを始めた。オークに遭遇して、天音・アリサ・千佳がトリプルアロー、由香里が魔力弾で一斉攻撃する。


 大概のオークやリザードマンは、その一斉攻撃で死んだ。地下通路に下りて二匹目のリザードマンを倒した時、アリサが声を上げた。


「やりました。魔法レベル5です」

 最初にアリサが魔法レベル5になったようだ。次に由香里が魔法レベル5になった。そして、折り返し地点であるボス部屋の前に来る。


「グリム先生、ここは?」

 千佳が尋ねた。

「ここはボス部屋だ。そして、ダンジョンボスは、オークナイトだ」

「げっ」


 由香里が変な声を上げた。アリサが俺に視線を向けた。

「初級ダンジョンのボスがオークナイトだなんて……あっ、居ないという事は、グリム先生が倒したんですか?」


「そうだ。凄いだろう」

 天音が溜息を漏らした。

「凄いですけど、自分で言ったら、台無しです」


「そう自慢したくなるくらい凄い戦いだったんだ。アリサたちも魔法レベルが『7』にならないと挑戦禁止だ。それもクイントジャベリンやクイントアローが素早く放てるようになってからだな」


「クイントジャベリンというと、五重起動ですか?」

「そうだ」

「その呼び方なんですが、統一感がないですね」


 アリサの指摘に苦笑いする。多重起動の呼び方は、ダブル・トリプル・クワッド・クイント・シックス・セブンス・エイツ・ナインツ……となる。


「最初に生活魔法を作った賢者が、かなり適当な性格の人物だったらしい」

「クイントなんて、ラテン語風じゃないですか?」

 俺は肩を竦めた。


「戻るぞ」

 俺たちは戻り始めた。その帰り道でも天音たちはオークとリザードマンを倒しながら進む。結局、天音と千佳は魔法レベルが上がらなかったが、もう一度往復すれば上がりそうだという。


 草原ダンジョンから抜けて、ダンジョンハウスで着替えた。俺は借りているロッカーから、アタッシュケースを取り出した。ここに天音たちに渡す『ブレード』と『ジャベリン』の魔法陣を隠していたのだ。ここは管理が厳重で自宅より安全だと考えたのである。


 その魔法陣は特殊な紙に描いてある。付与魔法を施された紙で、描かれた魔法陣の魔法を習得すると、魔法陣が消える仕掛けが組み込まれている。

 ちなみに写真を撮ったり、別の紙に書き写すという事もできない。付与魔法の『プロテクト』が掛かっており、コピーできないという。


 ダンジョンハウスの食堂で待っていた天音たちに魔法陣の紙を渡した。

「ありがとうございます」

「これで、戦いに幅ができます」


「グリム先生、本当に無料ただでいいんですか? 私たち、お金なら……」

 アリサが代金の事を言い出したので、俺が止めた。先生と言ってくれるアリサたちから、金を取る気はなかったのだ。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 アリサたちは大喜びで学院に戻った。

 魔法レベル5になったアリサは、早速『ブレード』の習得を始めた。来週も草原ダンジョンの地下通路へ行くつもりなので、地下通路だと使い難い『ジャベリン』より、『ブレード』を優先したのだ。


 アリサは一週間で『ジャベリン』と『ブレード』の両方を習得し、草原ダンジョンへ行って試してみた。

「あれがいいんじゃない」

 天音が『ジャベリン』の標的として、遭遇したアタックボアを指差した。


「分かった。狙ってみる」

 アリサは十五メートルほど離れた場所から、突撃してくるアタックボアにトリプルジャベリンを放った。


「命中……あっ、消えた」

 天音たちは、一撃でアタックボアが消滅したので驚いた。

「やっぱり凄いよ。魔法レベル5の魔法は」


 由香里が感心している。それを聞いて千佳と天音が燃え上がった。今日こそは魔法レベルを上げてやると勢いよく進み始める。


「皆、この辺から気を付けて、グリム先生の秘密の場所なんだから」

 アリサが言うと、皆が頷いた。周りに人が居ない事を確かめながら進む。


 地下通路に入った天音たちは、オークとリザードマンを倒しボス部屋に到着する前に、魔法レベルが上がった。

「千佳、良かったね」

「ええ、これで『ブレード』を習得できる」


 ボス部屋に到着し中を覗く。そこにオークナイトが立っていた。

「復活してる」「強そう」

 天音たちは、グリムの忠告に従いボス部屋には入らなかった。と言うより、オークナイトの強さを感じて、自分たちでは倒せないと思ったのだ。


「グリム先生は、あれに一人で勝ったんでしょ。黒月先輩だって、やっと勝てたと言っていたのに、凄すぎる」

 由香里が言うと皆が同意した。


 アリサが深く考えるような顔になった。

「どうしたの、アリサ」

「グリム先生だけど、もしかしたら、ワイズマンかも」


「それはちょっと……言いすぎじゃない」

 世界に十一人しか居ない賢者に、グリムが十二人目として加わるとは、天音には思えなかった。

「でも、今までに存在しなかった。生活魔法を三つも知っていたのよ」


「でも、三つだけなら、巻物を手に入れて、分析魔法使いに調べてもらい、魔法陣を手に入れたというのが、可能性としては高そう」


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