第54話 拉致


 近藤がすみませんと頭を下げる。


 最上隊長はポンと肩を叩くのみだった。


 戦闘が終わった後のこのみはまた子どものように凛の手を握りしめている。ただ、それでもハチキュウは手放さなかった。



 近藤、瞬、凛、このみ、最上隊長という順番で倉庫から出る。


 廊下に出ると例の人々がぎっしりと集まっていた。まるで蜂か蟻の巣にでもいるようだ。女王バチがいるということだろうか。


 その人たちを見るとこのみは凛とつないでいた手をはなして突っ込んでいく。


 自分を凌辱した仲間に対する恨みなのだろうか。


 冷徹に引き金を引いて次々と殺戮していく。


 近藤も援護射撃をして、1人2人と撃ちぬいていく。


 ただ、このみの突出の仕方は異常だった、自身を守ることを考えていないようだ。


 ”加賀下がれ”最上隊長が無線を飛ばすがそれでもこのみは突っ込んでいく。


 自然と近藤も瞬も最上隊長も前に出る。


 瞬はまだハチキュウを撃てなかった。相手はペットボトルではない。



 一行は完全にこのみとその周囲の敵に目を奪われていた。


 その時、こっそりと後ろに回り込んでいた男が凛を羽交い絞めにして口をふさぐ。


 (瞬・・・)


 声にならなかった。


 瞬は援護射撃すらできない自分を恥じて冷静さを失っていたし、近藤は援護射撃を行うのに必死であったし最上隊長もこのみの動きに集中しすぎていた。


 3人の男が凛を神輿のように担いで上の階に上がっていった。


 「瞬ーーー!!!!」


 やっと口から手が外され、その瞬間に声が出せた。


 「凛!!」


 一行はようやく凛が連れ去られたことに気付いた。


 しかし、階段と一行の間には敵が数十人はいる。


 ここに至ってようやく瞬もハチキュウの引き金を引くことができた。


 廊下の敵を制圧しはじめる。


 それでも、この瞬間にも凛に何があるか分からない。


 ただ、後悔しているような時間はない。


 すぐにでも助け出さなければ。


 瞬まで飛び出しそうになるのを最上隊長が手で制した。



 倉庫のあるフロアは敵の死体と血にあふれかえっていた。

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