第26話 地下通路


 どうやら館の中には人の気配はないようだ。


 それでも、お化け屋敷の100倍は薄気味悪い館の中に2人はいた。


 リビングも窓からの光しか入っておらず薄暗い。


 スマホのライトの明かりが照らし出していく。


 広いリビングには以前どのような家具類が置かれていたのだろうか。


 全て撤去された今となっては、それも分からず、広々とした空間が広がっている。


 リビングを過ぎて客間のような部屋に入るがそこにも特に目立ったものはない。


 一度リビングに戻り2階へと続く階段へと向かう。




 凛は目に涙をためていた。


 怖い。


 いつ魔女が出てくるのか、そうでなくても生贄となった人の魂がここにあるのではないか。


 足も手も震えている。


 寒い。


 もう6月の東京なのに、こんなに寒いなんて。


 そう思っていたら、前を歩いていた瞬がジャケットを渡してくれた。


 凛には大きすぎる瞬のジャケット。


 それでも、そのぬくもりが嬉しかった。


 瞬のジャケットを羽織ると、なんだか頑張れそうな気持ちになった。



 2人は階段を上っていく。


 階段は一段上る毎に軋む音が家中に鳴り響く。


 2階に着くと、手前の部屋から順番に開けていく。


 部屋数は4つだろうか。


 どの部屋も家具類は全て撤去されていた。


 4部屋全て見終わり、また階段を降りて1階に戻る。


 リビングからキッチンに戻る途中に瞬が立ち止まる。



 え?何?声を出さずに凛が瞬の動きを追う。


 暖炉のほうに瞬が近づく。


 どうやらそこから風が吹いているようだ。


 凛がライトで照らす。


 瞬が四つん這いになって暖炉に頭を突っ込むと、どうやら地下へと延びる隠し通路があるらしい。


 瞬は迷わずにそこに入って行こうとする。


 

 凛は瞬の腰を思いきり掴む。


 瞬が暖炉から頭を戻すと、凛の瞳から大粒の涙が溢れていた。


 少し考えて、瞬はキッチンの方に向かった。


 凛も着いてくる。


 キッチンの奥にあるドアを開ける。


 東京のまぶしい日光が2人に注いでくる。


 そのまま、2人は最初に侵入した壁の方に戻り、塀を乗り越えて外に出た。



 駅の方に向かって歩く2人。


 会話が途切れるが、凛は瞬の腕を自分の体の方に寄せてぎゅっと捕まえる。


 歩けているのが奇跡に近いほど凛の心は恐怖に支配されていた。

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