第16話 由依ーはじめての殺生イベント





 ケモナーのカナちゃんがなんかおっきいウルフを仲間にしたけれど、私は知っている。


 大抵の強い生き物は擬人化できるということを。


 タツルも同じことを考えていたのか、カナちゃんにウルフが擬人化したらどうするかを聞いていたけれど、カナちゃんはもふもふが減ることに難色を示していた。


 だけど、私は知っているのだ。

 カナちゃんが面食いで、光彦君にぞっこんであるということが。


 そんななか、自分に絶対服従のイケメン擬人化ケモミミ男子が現れたらどうだろう。


 この面食いケモナーは大暴走必至である。先の暴走特急がそれを証明している。

 エロ漫画の世界秒読みだ。

 これ以上主人公が増えることを良しとしない。むしろ許さん。

 中学生だ。みだらな行為も一切許さん!


 ………というわけで。

 芽は摘ませてもらいます。



「………おい、犬。言葉分んだろ、擬人化なんかしやがったら、タツルのゲンコツなんか目じゃないのぶちかますから覚悟しといてね」


「キューン………!」


 殺気を込めてにらみつければ

 大きな体の大きなしっぽを、股の間に巻き込まれるように入れている。


「もふもふを見て大暴走しないように、お前が調整するんだ。そうすれば、カナちゃんはお前が独り占めできる」


「わふ!」


 よし、調教完了。


「っ!? !? ………。」


 タツルが殺気に気づいてキョロキョロし、犬っころの丸くなったしっぽをみて何が起こったのかを察してくれた。


「くれぐれも! くれぐれも一人での行動は慎むように! それと、はぐれたからと勝手に飛び出すのも控えるように! 引率するこちらの身にもなってほしい」


 ごめんなさい。



………………

………



 森の主、リトルフェンリルを仲間にしたことで生態系が狂わないか心配だけど、基本放し飼いで、有事には指笛で呼ぶようにカナには言いつけておいた。



「この辺りはゴブリンの縄張りだ。ゴブリンは知恵を持った生き物だ。他の魔物よりも厄介な時がある。」



 と、ダン団長が言ったので


「例えば、どんな時ですか?」


 とすかさずタツルがモブムーブを行う。

 質問役を買って出る。タツルが好むガヤ系のモブムーブだ。



「人質を取ることがある」



「んなるほど。」



 つまり、誰かが人質になるフラグが、今。立った。


「それを阻止にゃ」

「うん。」

「………………。」


 タナカちゃんと頷きあう。

 タエコちゃんはポケットに手を突っ込んで、視線だけは周囲にむけていた。


 人質最有力は、最も力のない俊平ちゃん。

 文学少女 ミオちゃんは魔法が得意だから大丈夫かな?

 ネガティブ雨女の 池田ミカちゃんも候補の一人。おどおどしているので人質になりやすそう。

 陰湿根暗の 坂本浩幸くんは………なんだかんだ強力なアビリティ<影繰りシャドーダイブ>だから人質になることは考えにくい。


 ぶっとんだパターンとしては、誰かのドジでクラスメイト全員が人質。メインキャラクターの誰かが孤軍奮闘、といったところかな。


 こんかいの成長物語としては、いきなり暴走してしてしまったカナの………リトルフェンリルの孤軍奮闘、などもあり得るかもしれない。


 現在はちょっと休憩中。

 周囲を警戒しながら、みんなで座り込んでいるところだ。


「さくら、作ってもらいたい簡易武器があるんだけど」


 タツルが物づくり系女子、サクラに声をかけていた。


「いいよ! 図面はあるかな!?」


「あー………ごめん、図面はない。構想だけ伝えてもいいか?」


「いいよ! ロマン武器で実用性がないやつはね! 実際に使うと脆さが出るからね! シンプルなのがいいかな!」


「ああ、大丈夫。シンプルなのは間違いない。卍形の投擲具………まあ手裏剣………というか、もどってこないでぶっささるでかいブーメランかな。形が難しいなら最低限左右対象のH形でも構わない。あとは、木を二つ組み合わせてできたバールやトンカチの釘抜きみたいな形の棒なんだけど………ああ、尖ってたらそれでいいから。」


「………………。H形の手裏剣ならすぐに作れるよ! バールとかトンカチみたいな! そんな形の棒はね! 木をくり抜いたり変形させるための熱湯が必要だね! ちょっと時間がたりないかな!」


「あー………。全然簡易じゃないな。ごめん」


「いいよ! 聞いただけで殴打刺突武器だってことはわかるかな! 相手が武器を持ってても上から叩ける形ってことかな!」


「まあ、そうなるな。」


「手裏剣も数用意するならH形よりも十字の方がいいかもね!」


「あー、ほんとだ。よくよく考えたらH形じゃ美しくねーじゃん。なんでこう、単純な形にできないんだ俺は………。」


「ロマン追求理系のサガだね!! 卍形やH形で回転する方向に刺したいって気持ちはわかるかな! 大きさ的にね! 武器の上から叩いたりね! 武器を絡めとったりすることを考えたらね! 確かに理に適ってるかもしれないね! でも投擲具だからね! マキでいくね!」


 サクラは雑貨屋で買っていた2本の鉄串の中心にマイナスドライバーで凹みを作り、二つをガッチリと合成。

 そして、木の蔦でぎゅっと固定した。

 蔦の結び目なんかも、空気抵抗を受けにくいようにトンカチで丁寧に潰している。


「早いし俺の意図を汲んでもっと簡易に武器を用意するとか、どんだけ………」


「脆いけどね! 使い捨てにするには十分かな!!」


「十分すぎる」



 サクラのアビリティは<工作技術職人クラフトマン>  工作の勇者。

 物の形を変えたり、中心点や重心がわかったり微調整したりできるアビリティらしいんだけど、アイディア、閃きにも補正がかかっているのかもしれない。

 サクラは魔力も通力も少なめの代わりに器用の数値がずば抜けている。

 俊平ちゃんと似たり寄ったりの一点突破能力値だ。


 だから、工夫してあまり能力を使わなくて済むのなら使わないように調整している。

 

 節約上手でもある。

 DIYにめちゃくちゃ便利。


「投擲武器でね! 遠距離から切ることに特化させるのがチャクラムでね! 近距離から刺すことに特化させるのが手裏剣だからね! だから手裏剣には毒を塗るといいよ!」

「へえ………。さくらの物づくりに対する知識欲ってすげえな」

「んふー! 私もね! ロマンを追い求める女の子だからね!!」

「ロマンチック乙女(物理)」


「「 ぶっ! 」」



 最後のタツルの呟きに、タナカちゃんと二人で吹き出してしまった。

 サクラのそれは、普通の女の子の求めるロマンじゃなくて武器に求めるロマンだった。







「来たぞ! ゴブリンだ!!」


 団長の声に、臨戦態勢に入る私とタツル。


 団長の正面に、一匹のゴブリンが。木を乱暴に削った棍棒を持っている。



「さあ、誰がやる?」



 との団長の問いかけ。


 私もタツルも、一般モブとして行動するなら、一人目の行動は起こせない。


 ならば誰がするのか。それはもう当然


「………俺がやる!」


 テンプレ勇者様なわけでして

 とはいえ、人形の生き物を殺すことに、かなりのストレスを感じているわけでして


(カタカタカタカタ!)


 と、聖剣を持つ手が震えていることがわかる。


 しょうがないよ。動物も殺したことのない中学生だもの。


 スライムは生きているって感じのしない訳わからない生き物だけど

 ウルフやゴブリンは違う。明らかに生物といった姿をしているのだ。

 まあ、ウルフはケモナーのおかげで一切それを狩るイベントにはならなかったけれど………。


 いまからそれを刈り取ろうという。そういうイベントだ。


 ………というところで、ピーン! と閃いた。


(ちょんちょん)


「………ん?」


 私はタツルの肩を叩いた後に、ゴブリンの側面の茂みを指差し、手首で投げるジェスチャーを行う。


「………。………!!」


 タツルも思い至ったらしく、音を立てないように、サイドステップでさささっと場所を移動し、視界を確保する。


 そして、右手には先ほど作ってもらった簡易手裏剣。


 しゃがみながらも左手を前に伸ばし、右手に手裏剣を構えて投げる準備を完了させていた。


「ぎぎーぃいい!!」

「う、うわあああ!!」


 棍棒を振り上げ、光彦くんに襲いかかるゴブリン。


 振り下ろした聖剣は、練習のようにはいかず、無意識に生き物を殺すことを躊躇したへっぴり腰。

 日本の平凡な中学生にいきなり殺しを経験させようってのが間違いだ。責められやしない。


 空を切った光彦くんの聖剣と、殺す気で振り下ろされた棍棒が交差する。

 当然、聖剣もあたらなければとうということもないわけで。


ーーガンッ!


 と、振り下ろされた棍棒はちゃんとあたるわけで。



「ツっ!」


 それが光彦の致命傷にはならないけれど、隙を晒してしまうわけで。


「ぎぎぃ!」


 ゴブリンの腰につけていた獣の牙を首に突きつけられて人質にされてしまうわけで




「そいや!」

「ギィイイイッ!!!」


 タツルの投げた簡易手裏剣がゴブリンの肩に深く刺さって人質たりえなくなるわけですよ。



「殺す覚悟もないくせに前に出るでないわ、この臆病もん。」


 光彦くんから離れた瞬間に、妙子ちゃんがゴブリンをうつ伏せに倒して踏みつけ、動きを封じる。


「この小鬼は人を攫って孕ませ、食らい、増えてまた人をさらうのじゃろう。光彦、お主が不甲斐ないばかりにのう」


 ゴブリンを踏みつけて嘆息するタエコちゃん。


「葉隠………、だ、だが………」

「こんな小鬼に情など持つでないわ。責任の取り方も知らん餓鬼が。」

「………。」

「何をしておる。ワシがなんのために小鬼の動きを封じておるのか、わからぬのか?」



 ゴブリンを踏みつけたまま腕を組んで光彦くんを睨み付けるタエコちゃん。

 光彦くんが聖剣を見つめ、ゴクリと唾を飲んだ。


「く、くそお!」



 ザンッ! とゴブリンの首が撥ねられた。


 15禁すら許されていない中学生のクラスメイトたちには、ゴブリンの首が飛ぶ、その光景だけで、今までのハイキング気分がなくなった。



 茂みで吐瀉物を撒き散らす子もいる。


「………。なんじゃ、やればできるではないか。光彦。」



 光彦にハンカチを差し出して背中をさするタエコちゃん。

 

 

 私が泣いた時もそうだけど、面倒見がいいんだよなぁ………。







 




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