第2話 樹ー「俺、なにかやっちゃいました?」を全力で否定する!!
「いかがいたしましょう? 魔王様」
「ふむ、この感じは、なろう鉄則3………魔王転生か。」
俺は自分の身を見下ろしながらつぶやく。
周囲を見渡せば、会議室で、俺の発言を待っている異形の者たち。
間違いない。このタイプはよくある魔王転生だ。
「あの、魔王様?」
心配そうにこちらを見る真っ赤な髪での角の生えた美しい女性。おそらく魔族。サキュバスか?
そして、こういった魔王転生には、間違いなく、裏切り者がいる。
テンプレだ。
考えるまでもない。
なんの会議をしていたかも重要ではない。
「魔王軍の師団長の誰かが間違いなく人間族と内通している。四六時中相互に監視しろ」
「な!?」
「我々をお疑いですか!?」
ざわざわ、こちらを不審な目で見るメデューサやハーピィ、サキュバス、吸血鬼、魔人。
いや、なにを不信がっているは分からんが、こういうのは、鉄則なんだよ。
「今日の会議は以上だな。」
………
……
…
数日後
コンコン
「入れ」
魔王の魔法の練習してたらサキュバスがノックしてきた。
「ご報告します。第二師団長ヴァンパイア族のグードルフが人間族の帝国に情報を流していることが判明しました。」
「ほらな。じゃあ次のテンプレいくわ。」
☆彡
俺の名前は………。
名前は………。
なろうテンプレ絶対に許さないマンだ。
俺と幼馴染の由依は、夢の中でよくなろうテンプレの世界に迷い込む。
そのへんの由依についての詳しくは作者マイページから【異世界転生? 悪役令嬢? 聖女召喚? 巻き込まれ系? もう慣れた。】を読んでくれ。読まなくてもいいが。
2人で同じ世界に行ったことはないが、俺は勇者召喚、悪徳貴族デブ転生、由依は聖女召喚や悪役令嬢転生などジャンルは分かれているものの、テンプレを知り尽くした俺らにそんなものを解決するのは容易い。そんな世界に度々夢の中で転生やら召喚やら憑依やらしているわけだ。
さらにいえば、夢で体験した事象は、別の夢でも再現可能。自分がなろうテンプレになりたくはなかったが、夢の世界での夢幻牢獄を脱出するためには活用させていただいている。
「………はっ!?」
というわけで、『今回のここはどこだ?』はどこなんだろう。
今は夢の中か。
いや、夢の中なのはいつものことだけど、どんな物語だ?
周囲を確認すると、どうやら体育館。
周囲は生徒で、俺自身、奇抜な制服を着ていることがわかる。
なんだこの服。線が多すぎだろ、装飾も、どうなってんだこれ。
ささくれに引っ掛かったらめっちゃほつれそう。絵師さん大変だな。
女子の制服なんて、乳袋がついてやがる。
女子たちはボディライン丸わかりで恥ずかしくないのかな。
パンツが見えてる子がいることから、エロ絵師がついたのだろうということはわかる。
ひとまずは状況把握だ。
なろう鉄則1、『とりあえず赤子転生』ではない。
次は………。
なろう鉄則2、『とりあえず異世界転移』かどうかの確認だ。
手を見ると、右手につけていた傷跡がないことから、自分の肉体ではないので
なろう鉄則3、『とりあえず他人に憑依』である
それがわかれば、次にやるべきこと、誰が主人公かを見定める必要がある。
俺や由依が夢の中で憑依転生などをする際に、夢幻牢獄脱出に必要な条件や脱出タイプがある。
己が主人公である『脱出タイプA』(楽)
主人公格をハッピーエンドに導く『脱出タイプB』(数年かかるがまあ楽)
モブ憑依による干渉が難しい『脱出タイプC』(数年かかる状況把握に時間が掛かる)
本来の物語の破綻による強制終了の『脱出タイプD』(非常に楽)
など、いくつかの脱出タイプが存在する。
由依はパターンと言っていたかな。
悪役令嬢転生などはタイプAとDの複合のようなもので、条件さえ満たせば一瞬で夢幻牢獄を脱出出来るそうだ。
「では、入学式を終了するぞい。皆の者、勉学を励むように。」
『ぞい。』キャラ付けか。なるほど。
アニメ漫画以外で何度も耳で聞いた。
どうやら入学式が終わったらしい。
というか、入学式だったのか。
よくわからないが、学園長っぽい人は取ってつけたようなロリババアだったので、十中八九ここは魔法学園のある世界で間違いない。
『新入生のみなさんは魔法の測定を行います。15分後に訓練所までお願いします』
との放送。
ふむ、入学試験ではなく、入学後に測定を行うあたり、シナリオの破綻を感じる。
魔法学園系なろうのシナリオを検証しよう。
シナリオA
『主人公は学園の講師。通常の数値はポンコツだが、一点突破の超絶特技、もしくは謎の古代技術を持つ。現在の基準が昔より低いドヤドヤ
シナリオB
『主人公は転生者、異常に甘やかされて世間知らずだが、謎の全属性無尽蔵魔力とその昔教えた人間も超絶技術をもっており「俺、なにかやっちゃいましたドヤ?」をやる最上級クラスに所属する
シナリオC
『実は凄いけど測定器が測りきれなくてバグって最下級のクラスに所属することになっちゃう
女子の制服がエロ過ぎるので、シナリオAが最有力だろうか
入学式後に測定ということでシナリオCの可能性も出てきた。
自分の名前もわからないまま、人の流れに沿って移動する。
こういう時は胸ポケットに謎のタブレットか生徒手帳が入っているはずだ。
ふむふむ。
俺の名前は
【ヴィルフリート・フォン・リヒテンシュタイン】
名前が長いことから、俺は登場人物か主要人物っぽいな。
だが、この名前のやっつけ感がすごい。国名だぞ、リヒテンシュタインは。迂闊に苗字にしていいものじゃない。
この物語の作家は特に名前の由来を考えもせずにカッコ良さそうと思ってつけるタイプだ。最悪だ。
生徒手帳の顔写真を見る限り、俺の髪の色が赤色であることから、間違いなく俺は火の魔法を得意としていることはわかった。
「押さないで! 押さないでください!」
なんて考えながら歩いていたからか
「きゃっ!!」
「ぬお!!!」
後ろから悪質タックルされた。
顔面からズベシャ!と盛大にずっこける。
下手に手をついたら手首が折れる奴だ。
物語の中ならギャグや軽傷で済むかもしれないが、我が身に起きれば溜まったものではない。
いてえ、が、まあ、体育館の出口は狭いしな。
こういうこともあるのだろう。
「す、すみませんすみません!!」
タックルの張本人が申し訳なさそうに謝ってくるのを見て毒気を抜かれるも
「ああ、いや、問題なーーー」
いや待て、発言を早まるな。
む、ぶつかってきた少女は………なるほど、ヒロインだな。
ぶつかってきた少女は可愛らしかった。
薄水色の髪の毛は間違いなく水の魔法の天才であることが見え隠れしている。
それに、制服が周囲の女子たちとすこし違う。
周囲の女子の制服は白を基調とした金の刺繍があるが、彼女の制服はグレーを基調とした、なんというか落ちこぼれかお金がない庶民であることが一瞬でわかるようなデザインだ。
つまり、彼女は魔法の才能を見出された庶民で、推薦か何かでこの学校に来たのだと推測できる。
学校は平等に学ぶ場所であるという建前だが、学校側が平然と貴族を贔屓している奴だ。何度も見た。
(おい、あいつ死んだぞ)
(火の魔法の名門リヒテンシュタインを転ばせたんだからな)
との周囲からのヒソヒソ言葉を察するに、俺はどうやらワガママ貴族かそこらなのだろう。
俺自身が悪徳貴族転生だったらしい。
俺が主人公である線は消えた。
つまりは悪徳貴族ムーブを行わないならばこの夢の牢獄からの脱出が可能だろう。
方針が固まった。
夢幻牢獄脱出ルート、『主人公格をハッピーエンドに導く』脱出タイプBかタイプD………つまり『本来の物語の破綻』を満たすことが出来れば、脱出可能。
最速だと、悪役ムーブを回避すればヴィルフリートの死の運命を覆せる。
俺みたいなやつ、つまり序盤の悪役は、テンプレだと主人公にボコボコにされた後、ふてくされて謎の敵対組織の魔道具や薬の実験に協力して理性を失った後に主人公にもう一度倒されて主人公ドヤされる当て馬だ。
よくあるやつ………。その、なんだ。
「復讐したいか」「力が欲しいか」なんて甘言にのせられるやつ。それが今回の
そういう流れだ。誰もが知ってるテンプレだ。見飽きたくらいだ。
ステータスオープンなんて言えば原理なんてどうでもいいがとりあえずステータスが見えるくらい………その流れは、なろうでは当たり前なんだ。
ここで彼女を罵倒し罵声を浴びせれば、主人公格が助けてくれるに違いない。
この場合、主人公が転生者であるか否かで対応は変わるのだが、主人公を見つけることが出来なかった現在、下手に改変すると余計に厄介になる。
だったら、むしろ破綻させて仕舞えばいい。
とはいえ、主人公が誰なのかを一発で判断できるこの状況を利用しない手はない。
俺がやるべきは、悪役ムーブ!
「なにを考えてこの俺様を押し倒したのだ!! この高貴な制服と顔に土を塗ったことにどう落とし前をつける!! 事と次第によってはただではおかんぞ、このッッ平民がァッッ!!!」
このムーブにより、教師(主人公)が止めに来たらシナリオA『主人公は学園の講師ドヤ』
生徒(主人公格)が止めたらシナリオB『俺、なにかやっちゃいましたドヤ?』
誰も止めに来ないのならばシナリオC『下剋上ドヤ』がほぼ確定する。
もちろん、誰も止めに来ない場合、シナリオAもあり得るが、可能性としてはシナリオCの方が高いだろう。
「うう、ごめんなさい、本当にごめんなさい!」
さあこい、主人公!!
来てくれないとこの後どう収拾をつけるのか、俺もわからない!
魔法学園シナリオCだと基本的に主人公が来なかった場合の描写はない! 底辺の教室で泣いているところから始まるんだ!
「まて!!」
よし来た!! 制服!
シナリオB!!
「なんだ貴様ァ! (チラッと)平民の分際で私にたてつくつもりか!?」
主人公はどうやら平民として入学している。
服を見て一瞬で判断を下さないといけない。
「セロくん!」
主人公を涙目で見つめる
ヒロインとの邂逅はすでに済んでいるようだ。この当て馬感、さすがすぎる。
セロの髪と目を観察する。
黒髪黒目。
つまり間違いなく転生者だ。脳死なろう作家が考えそうなことだ。
日本人は特別なんです~^^ とでも言いたげだ。
だったら炎を絵で描いてみろよ、イメージできてるならアウトプットは余裕だろう。言っておくが俺には無理だった。
だから滅茶苦茶がんばって火の絵と水の絵と土の絵と空と原子の構造模式図と化学式と化学反応を描いて勉強してイメージしまくった。
すいへいりーべ ぼくのふねだ。
おかげで現実でも美術と理科の成績はそれなりにいい方だ。くそったれ。
そんでもって主人公の中に入っているのは過労死かトラックか通り魔にやられたおっさんだ。いつものなろうだ。
いい歳こいてドヤってんじゃないよと言いたい。
セロのセリフの「まて!」も俺の脳内で「まつドヤ!」と語尾が変換されてしまうくらいには慣れてしまっている。
「この私の制服を汚したのだ、まさか(文字通り)タダで済まそうと思っているわけではあるまいな!!」
マジでいくらするんだろう、この制服。
クリーニングだけで相当お金かかりそうなんだけど、この庶民の女の子にはクリーニング代だけで荷がおっもいはずだ。
心優しいお貴族様ならば、いいよいいよでなぁなぁで済ませたかもしれないが、悪役ムーブ中にそれはもうできない。
主人公がセロだということも分かった。
「セフィーラは、何度もあやまっているじゃないか!」
とセロが言う。そうか、彼女の名前はセフィーラというのか。
「なるほど、セロとやら。つまり、お前はこう言いたいわけだな。『あやまっているから許してあげろ』と。」
普通のなろうなら、ふざけるなとか言って手を出すのが悪役ムーブなのだろう。
だが、俺はいつだってテンプレに物申したいんだ。
「そ、そうだ!」
「つまり、顔に傷をつけ、服を汚されほつれさせたまま、今日の学校生活を行え、と!!」
「な、なにもそこまでは」
セロは急に日和りだした。
ふん。中身はサイコパスのおっさんだ。
言葉が通じるかは不明だが、言うべきことは決まっている。
「いーや、言っている! そもそも、わたしは謝ったから許すのではなく、落とし前の………誠意の話をしているのだ! 彼女が私の腰に思いきり激突して転げまわった結果、私は泥だらけで私を下敷きにした彼女は無傷。感謝こそさえれど、恨まれた挙句に私の制服のクリーニング代を私が出すのは筋違いというものではないか? 本当に申し訳ないと思っているのなら、謝るだけではなく、クリーニングをして返す、クリーニング代を渡す、着替えを準備するなど複数のやりようがあるのではないか?」
「だ、だが」
「いいの、セロくん。私がぶつかっちゃったのが悪いんだから」
「でも………」
「ほう、申し訳ないといっているのは、口先だけだったということだな。さすがは平民! 財布も心もすっかすかだなぁ! はっはっは!!」
我ながら、よくこんな憎まれ口をたたけるものだ。
「く………。口をはさんで、申し訳ありませんでした。」
おや、意外にもこの場ではサイコパスではなかったようだ。
女の子を助けるドヤ! と突っ走るのがなろうの日常だというのに。
「制服のクリーニング代は当然私が負担します。申し訳ありませんでした。」
「ふん、初めからそういえばいいのだ。セフィーラとやら、貴様に請求書を送らせてもらう。」
パンパンと、ある程度の砂を落とす。でも金の刺繍が割とボロボロだ。うひぃ。
「はい。庇って下さり、ありがとうございました。」
深々と頭を下げる美少女を見ると、こちらの罪悪感が爆発しそうになるから心臓に悪い。
本来、体育館の狭い出入り口がわるいのに。
☆彡
さて、人のことをサイコパスだなんだと言っておきながらだが、俺は自分のことをサイコパスだと思っている。
なぜなら、なろうテンプレを自分で体験していると、それをぶち壊したくなってしまうからだ。
俺だって元々は夢の中で主人公として努力して努力して、手に入れた力がある。
夢の中ならば、それを扱える。
この夢の中でなら、俺はなろう転生者同然のチート持ちなのだ。
誰が主人公か分かってしまえば、物語をぶち壊して夢幻牢獄から脱出する。
何が悲しくて何年もそんな世界にとらわれ続けなくちゃいけないんだ。
早く目覚めたいのは当たり前だ。
俺は由依に会いたいんだ。
幼馴染の、女の子に。
だが、由依は物語をこよなく愛している。
俺が物語を破綻させると知ったら、ぶち切れるだろう
とはいえ、もう見慣れてしまったテンプレを、あくびしながら続ける気持ちにもなってほしい。
「では、このミスリルゴーレムに向かって得意な魔法を
ほーら、でたでた。
耐久性の優れる
5個くらい並んで立っている案山子に、皆初級のファイアーボール、ウォーターボール、サンドボール、色物としては弓矢に風をまとわせて放っている。
「どきなさい、あたしの番よ!」
ちょっとおませな深紅の髪のツンデレっぽい貴族なんかは間違いなくヒロインその2。
セロのバカみたいな魔術をみてインチキだとか言ったりなんだかんだで「いっしょにパーティ組んであげてもいいわよ」とか言うに違いない。
なろうで見た。ソースは俺。
「立ち上る炎の壁、我が怨敵を燃やし尽くせ! ファイアーウォール!」
あいたたた、こりゃあ作者の詠唱語彙力が少ない奴だ!
でもこんなものは、なろうじゃ序の口だ。
「うお! すげえ! 中級魔法のファイアーウォールだ!まだ新入学生なのに!」
「ふふん♪」
あ、今のセリフは俺が手をメガホンにしてガヤの中から飛ばしているよ。
得意げな表情に声優不足のモブムーブも完璧だ。
「見ててね、セロくん。………原初の水の本流よ、揺蕩う大河よ!其れを縛り、留め、渦と為せ!! 我の祈りに応えよ! 契約の元、セフィーラが命ずる!!お願い、ウンディーネ………! アクアッットルネード!!」
セフィーラがなんだか炎の中級魔法よりしっかりした上級精霊水魔法の詠唱でアクアトルネードを当然のように発動してミスリルゴーレムにヒビを入れる。
「すげえ! 今年の一年生はやばい奴がいっぱいだ!!」
「どうなってんだ今年の一年は!」
「化け物揃いかよ!」
なんてモブムーブを行う。
お、先輩のモブムーブ素敵っすね。
「つぎは………、セロ。得意な魔法を全力で放ってください」
おおっと、今度はセロの番だ。
キョトンとした顔がわざとらしいな。本当は分かっているはずなんだ。
これまでのみんなの魔法の結果と、皆の反応を見て、中級が打てたら十分優等生だということに。
中身がおっさんだとしても、なんだったら引きこもりのニートだとしても。
中身が日本人であるならば、周りに合わせる方法を日本の一般常識で知っているはずだ。
だけど、全力で、なんて言ったら自称、世間知らずのセロくんは絶対に―-―
「
――――ッッッドォオオオオオオオオオオオオンン!!!!!!!!!
なんか最上級っぽいルビを振って無詠唱でなんかするに決まっている。
わかるよ。わかるわかる。
『ぼくがかんがえたさいきょうまほう』でしょ。
絶対零度まで凍った空気と、ダイヤモンドダストに一気に獄炎を点火して水蒸気爆発がうんたらかんたらしてるんでしょ。
いいよ、いらんよそんな説明。
聞いても意味ないし。
「まさか、ミスリルゴーレムだけじゃなくて、訓練場ごと爆発するなんて………! しかも、無詠唱………!?」
それさっき俺が言った。
そんな先生が驚くのを見るのは何度目だろう。
ぱらぱらと土煙と爆炎に凍り付く生徒たち。先生たちも口をあんぐりしているよ。
さあ、言うぞ。
今から言うぞ。
そんな爆炎を背景にしてお決まりのセリフを言うぞ。
「………あれ? 俺、またなにかやっちゃいました?」
当ったり前じゃボケ!!
場面転換の 『
「『
俺はさっきの魔王の夢の世界で手に入れていた星の魔法で隕石を呼んで、あの、なんだ。セロくんが使ってた『
更に大きなクレーターが出来たかも。
「いいや、お前は特になにもやっちゃっていない。安心しろ。」
それを呆然と眺めるセロくんの肩にポンと手を置いてやった。
俺の意識は消失した。
脱出タイプD(シナリオの破綻) コンプリート。
☆彡
―――ピピ(ガン!
目覚ましが鳴った瞬間に高速チョップ。
「ここは、俺の部屋か」
ここは間違いなく
今日の夢は短かったな。
時々、誰が主人公なのかよくわからないモブになることがあるんだ。
それが一番恐ろしい。
どういうムーブをすればシナリオを破綻できるか、まるで分らないからな。
☆
「おはよー、タツル」
「おはー」
俺が家を出る時間と、由依が家を出る時間はだいたい一緒だ。
「今日は?」
主語も述語もない。由依のそんな問いかけの意味は
「は、『魔王転生』7日。『魔法学園の「俺、なにかやっちゃいました?」』対応時間は1時間。」
「ふっはー! ちょっふふっ、それっ、どうやって帰還したの?」
「なにかやっちゃいました後に、もっとすごいのやっちゃって、なにかやっちゃったのをたいしたことなくした」
「ぶっはー! パターンDだ! シナリオ破壊だ! 主人公を幸せにしてやってよー!」
「俺は早く目覚めたいんだよ。由依は?」
「は、『情報なし謎スキル突然異世界転移』5年と、『謎スキルのもう遅いざまぁ』が1年。今回はちょっとかかったなぁ。ざまあはすっきりしたよ。」
「主人公格の幸せを見届けようとするから時間が掛かるんだよ。どんなざまあ?」
「触った相手の精神が安定するスキルで有用性がわからなかったんだけど、一緒に組んでたパーティを追い出されたら一瞬で夢から醒めたの。もともとパーティメンバー全員チキンだったんだよ。あと、私なんだかんだで家事スキルたかいじゃん? 雑用する人がいなくなったんだよね」
「ぶふっ! じゃ、じゃあスキルがなくなったとたんにガクブルか?」
「そう。ゴブリン相手に手も足も出ないの。上級の魔法とか剣技とか使えたはずなのに」
「あっはっは! なんだそりゃ! 傑作だろ!」
「タツルのシナリオ破壊には負けるよ。プロローグは過ぎても第1章で完だよ!」
「うっせ。情報なし異世界転移は、困った時のあれか?」
「そう、『ステータスオープン』。なんなんだろうね、あれ。ちなみに触った魔道具の能力をスキルにして手に入るやつだった」
「うわ、いいなそれ」
俺たちの日常は、いつもの夢の語らいから始まる。
明日、なろうでおなじみのクラス転移に巻き込まれるとも知らずに。
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