第68話 クリスの故郷に向かって出発

「おはようございます。カーディさん。そろそろ起きる時間ですが……どうして、お二人がカーディさんのお部屋に? 私も……私も混ぜて欲しかったですっ!」


 いつものようにシャルロット……ではなく、レナさんが起こしてくれたんだけど、何やら盛大に勘違いされている気がする。

 いやまぁ、クリスもマリーも自分の部屋があるのに、何故か僕の部屋に居て、しかも同じベッドで寝ているのだから、勘違いされても仕方がない状況なんだけどさ。

 けど、これはいつもの宿代節約のクセが二人に出てしまっただけで、変な意味では無いと思うんだ。その……僕が寝る時は、間違いなく一人だったけどさ。


 一先ず、ベルナルド伯爵と共に、豪華な朝食をいただき、出発する事に。


「……では、カーディ君。レナの事をくれぐれも宜しく頼む」

「わかりました。お預かりしますね」

「……カーディ君さえ良ければ、レナを妻にしてくれても良いのだが」

「か、考えておきます」


 ベルナルド伯爵は、昨日会ったばかりの僕に何を言い出すのやら。


「カーディさん。不束者ですが、どうぞ宜しくお願い致しますね」

「ご主人様? 私と一緒に将来住む家と、明るい家族計画の話はどうなるのかしら?」

「お兄ちゃん? クリスのパパとママの所に行くんだよねー?」


 何故だろう。

 レナさんが変わった挨拶をしてきたと思ったら、マリーとクリスの声が少し冷たくなった気がするんだけど。

 一先ずベルナルド伯爵に泊めて貰った礼を言い、屋敷を出ると、昨日の冒険者たちが待っていた。


「ベルナルド伯爵からの指示により、次の街まで俺たちが護衛する。安心して馬車に乗っていてくれ」

「カーディさん。では、こちらの馬車へどうぞ」

「え? あ、ありがとう」


 改めて話を聞くと、隣の街まで護衛付きで送ってくれるそうなので、好きな方角を言って欲しいと。

 一先ず、クリスに聞いてみると、


「えっと、レイトの街っていう所まで行ってくれると嬉しいなー……なんて」

「レイトの街へ行きたいんですね。しかしながら、この馬車だけならともかく、冒険者さんたちを連れて……というには少々遠いので、一先ずそっち方面の街――コーリンの街という所まで参りますね」

「あ……うん。お願いします」


 貴族の豪華な馬車で快適に目的地まで……という訳にはいかず、でも隣の街までは送ってくれる事になった。

 僕たち四人は馬車の中で、その馬車の周囲を、六人の冒険者が警戒しながら歩いて行くそうだ。

 ……当然、徒歩の冒険者たちに合わせて馬車の速度も遅めで……これって逆に襲われそうな気がしなくもないんだけど、大丈夫なのだろうか。


「えっと、護衛してもらうなんて、ちょっと悪い気がしますね」

「まぁそれが冒険者さんのお仕事ですからね。何も無くても報酬が貰えますし、何かあったとしても、無事に守り切れば特別報酬が出たりしますしね」

「それはそうかもしれませんが……護衛に併せてゆっくり移動すると、かえって襲われちゃったりしないかなと」

「それは、何かあった時には、冒険者さんたちにその場を任せ、この馬車が全力で逃げられるように馬の負担を減らして居るんですよ」

「そ、そうなんですね」


 遠回しに早く移動しようと言ってみたんだけど、レナさんに言い負かされてしまった。

 コーリンの街まで普通に行けば、どれくらいの時間が掛かるかは分からないけど、間違いなく普通に馬車で行くより遅くなるだろうな。

 そんな事を思いながら暫く馬車から見える景色を眺めていると、一瞬街道脇の草むらから、人の頭が出て……すぐに消えた。


「ん? 今、そこに何かが居たような気がするんだけど」

「お兄ちゃん。何が居たの?」

「いや、草むらから人が顔を出して居たような……って、クリス。窓の外を見たいからって、僕の膝の上に座らなくても」


 隣に座っていたクリスが僕の上に腰掛け、先程までクリスが居た場所にマリーが移動してきて、ムニムニグイグイと僕の腕に身体をくっつけてくる。

 いや、あの……何かが居たのは本当だけど、気のせいだったという事にして、元の位置に戻ってもらおうとした瞬間、


「えっ!? お兄ちゃん! 何か……赤い物が! 炎……の弾!?」


 その草むらの中から、こっちに――馬車に向かって燃え盛る何かが飛んで来た。

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