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ここの夫婦はとても優しかった。

ここで餌になるのだと思っていた俺は、この家に来ても長い間最初の檻から1歩も外に出ず、触ろうものなら食い付いてやろうと身構えていた。


しかし、彼等は遠くで見つめるだけで何もしてはこず、ただ他の人間達同様世話をするだけ。


俺にとってその長い時間は、生を受けて初めての思考する機会となった。


人間達はどうして俺に優しくするのだろう。

肥やして食べるつもりならもっと餌を食べさせる筈だし、猫が居てこの家が得る事など何も無いだろうに――


そんな時だった。

あれは皆が寝静まった頃、俺が檻から前足だけを出して餌を食べていると、入口の方から物音と共に知らない人間のオスが入って来て、隠してある食料を漁り始めたのだ。


俺は静かに檻に隠れようと、顔を引っ込めると男は肩を跳ねさせて声を張り上げた。


「ぅわぁ!!ななんだなんか居んのか!?」


その声に俺も飛び上がり、檻の奥に奥に体を縮めると、男は遠くにしゃがみこみ、四角い何かで光を当ててくる。余りの眩しさに目を細め俺は更に奥に行こうと檻の隙間に肉をくい込ませた。


「チッ、んだよ猫か!脅かすんじゃねぇ!」


その時、部屋に明かりが灯った。

夫婦が慌てて駆け込んできたのだ。


銀次ぎんじ!久々に帰ったと思ったらこんな夜更けに――、いい加減心配かける真似はよさないか!!」


「ほらほら、久しぶりに会ったんだから喧嘩しないで。丁度良かったわ銀ちゃん、ウチにね新しい家族が増えたのよ。クロちゃんはね」


「うっせぇ、俺には関係ねぇだろ。もう行くから」


男が出ていくと、両親はとても寂しいそうにして俺にごめんねと残し灯りを消した。

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