第80話 ダンジョン20階へ

 16階に下りて、17階への階段に向かっていたら大きな魔物が現れた。


「オークか。タロウ、アリスが初めてだから俺が仕掛けるぞ」

「分かった。俺が止めに入る」


 うわ~、あれがランクCのオーク! 初めて見たよ。ギルドの資料ではダンジョンの16階位から出て来るって書いていたけど、顔は完全に豚だ。


 肌の色は人間と同じで、腰巻をつけて……テオを一回り大きくした2足歩行の豚! 大きな斧を持って、手はゴツゴツしているけど人間と同じだよ。怖くないのは……テオと一緒にいるからそう思うのかな?


 テオはオークに『挑発』を入れて突っ込んで行った。


 1体の魔物を何人かで倒す時は、強い魔法を使ったらダメなのよね。テオの攻撃の後に『風魔法』を撃ったら、タロウが止めを刺して終了。うわっ、早い!


「楽勝だね……」

「ああ、タロウも剣の扱いが上手くなってきたからな!」

「えっ、テオにはまだ追いつかないけど……オーク狩りは慣れてきたよ」


 タロウが、テオに褒められて嬉しいみたいで恥ずかしそうに言う。ふふ。


 オークのドロップ品は魔石だった。ランクCの魔石は銀貨5枚で買い取ってくれるの。今日のドロップも良い感じ。


「行けそうだな。アリス、タロウ、20階まで行くぞ!」

「「分かった」」


 ダンジョン11階~20階に出て来る魔物は、狼・シルバーウルフ・一角ウサギ・ゴブリン・スネイクとオーク。その中でも、強い魔物はランクCのオークだけなので問題なく20階まで進めた。


 20階のワープ・クリスタルは、階段を降りて右の壁沿いを進んだ所にあって、魔物に出会うことなくクリスタルに触れて1階に戻った。


 で、今日の戦利品は、魔石やアイテムを売った合計が金貨4枚・銀貨9枚・銅貨4枚とオーク肉の塊が2個。1人、金貨1枚以上稼げたら十分だよね。ふふ。


 次からは、20~23階辺りで狩りをして、新しく出て来る魔物狩りに慣れたら30階のワープ・クリスタルを目指すんだって。




 ◇◇◇

 光の曜日、今日はダンジョンの20階にワープした。


 フロアーを進むと、周りの景色は1階と同じで、剥き出しの岩肌というか洞窟で特に変わった様子はないかな。


 20階から出て来る魔物は、ゴブリン2体を連れたランクCのホブゴブリンとオーク、ランクC+のハイオークとインプ。25階からは、ランクBのコカトリスとジャイアントスネイクが出て来る……魔物が一気に強くなる気がする。


 ゴブリンは緑色の肌で怖い顔をしていて、背の高さは私と同じ位か少し低いけど、ホブゴブリンはオークと同じ位に大きくて棍棒を持っていた。まあ、テオとタロウに掛かれば二振りで倒してしまうんだけどね。


 ハイオークはオークの上位種で、武器は斧じゃなくて槍を持っていた。オークと比べると筋肉質で、肩当てや手首を防護するガントレットを付けていているから魔物の兵士に見えるの。口からとがった牙が付き出していて、ちょっと強そう。


 ハイオークは、テオが『挑発』を入れる→私が魔法を撃つ+タロウが一振り→テオが止めを刺して終了。問題なく狩れるけど、直ぐ近くに別の魔物がいたりする。


「テオ、20階から魔物の数が多い気がする……」


「ああ。アリス、20階からは冒険者が少なくなるから魔物の数が増えるんだ。ここからはインプが出て来るから、パーティーに『回復魔法E』を使えるメンバーがいなければ、この先には進まないで上の階でオーク狩りをしているな」


 ランクを上げたいパーティーや稼ぎたいパーティーは他のダンジョンに移動するんだって……私なら<トロムダンジョン>だね。


「少ないが、コカトリスの肉やハイオークが落とす上質肉狙いのパーティーもいるけどな」

「上質肉? テオ、市場で売っているのを見たことないよ」

「俺も……旨いの?」


 テオは食べたことがあって、オーク肉より旨いと言う。


 ハイオークが落とす上質肉はレアアイテムで、ギルドで金貨1枚の買取りで高額なんだけど、20階から下層で狩りをする冒険者が少ないから、換金に出される肉の数も少なくて、ほとんど市場に出回らないんだって。


「えっ、オーク肉は銀貨2枚なのに、上質肉は金貨1枚なの!? 食べてみたい……タロウ、スライムみたいにドロップよろしくね」

「えっ! アリス……無茶を言うなよ……」

「ワハハッ! その内にドロップするさ」


 ふふ、楽しみが出来たね。上質肉が手に入ったら、まずは塩焼きにして~。それからニンニクの香りを付けて焼いて、最後は濃厚なステーキソースを……やばい、ステーキが食べたくなってきた……夜はオーク肉のステーキにしようかな。


「お前達、インプの姿が見えたら、速攻、攻撃するからな!」

「「はい!」」


 料理のことを考えている場合じゃなかった。初めての階層だから気を引きしめないとね。


 テオが言うには、インプはC+の魔物だけど、HPが少な目で攻撃力も高くない。ただ、『暗闇』・『スリープ』の魔法を使うから『回復魔法E』を使えるメンバーがいないと面倒だとか。


「テオ、俺も『回復魔法E』を使えるよ」

「ああ、分かっているが、インプから受けた弱体異常をタロウが治せるか分からないからな。アリスがいれば、タロウの『回復魔法』を試せるだろう?」


 普通、スキル『回復魔法E』を持っていたら『暗闇』や『スリープ』の状態異常を治せるけど、ステータスの『知力』が低いと治せなかったりするんだって。


「まあ、味方が『スリープ』を喰らって寝ても、殴れば目を覚ますから良いんだが、『暗闇』を喰らってしまうと攻撃が当たりにくくなるんだ。ほっといても治るんだが、かなり時間が掛かるからな」


 テオ……今、「殴れば」って言った?


「えっ! テオ……『スリープ』になった仲間を殴るのか?」

「そうだ。タロウ、言い換えれば起きるまで殴るんだ。魔法でもいいぞ」

「「ええー! 起きるまで!」 魔法を撃つの!?」


 だからポーションは多めに必要だとか……えっ、ポーションがいる程!? どれだけダメージを与えないと起きないの……人によるの? う~ん、味方に殴られて起こされるのって嫌だな。


「インプが出たぞ!」

「「……!」」


 四つ角から現れたインプは、全身が黒に近い紫色をしていた――丸々とした幼児ほどの大きさで、真っ黒い大きな目をしている。蝙蝠こうもりのような翼をゆっくり動かして……浮かんでいる?


 手足は細くて、両手には鋭くて大きな爪が生えている。先が矢尻のような……尖った細長い尻尾がくねくねと動いて……。


『キキッー!』


 私達に気付いたインプは、嬉しそうに甲高かんだかい声を上げながら長い爪をこっちに向けた。


「タロウ、突っ込むぞ! アリス、インプの魔法を受けた方に『回復魔法』! 『挑発!』」

「うん! インプに『挑発!』」

「はい!」


 テオかタロウがインプの魔法を受けたら直ぐに『ヒール』を掛ける。集中!


 テオとタロウが突っ込んで行く背中を見ていたら、視線が波打って……急に意識が……遠く、あれ……?


『ギャギャー!!』


 インプの叫び声が……聞こえ……。


 ――ドサッ!

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