第32話 翌日の学園で
翌日、学園に行くと、グループのメンバーにレオおじいちゃんのことを聞かれた。特にロレンツ様とソフィア様のテンションが高い……周りで聞き耳を立てている人もいる。
「アリス! どう言うことか教えてくれないか? マルティネス公爵って、この国の宮廷魔術団を率いている団長なんだよ!?」
ロレンツ様、知っていますよ……。
「アリス、マルティネス公爵と知り合いなんて凄いですわ! お兄様から聞いていたけど本当だったのですね!」
「えっと……、お店のお客様なんです」
2人がキラキラした目で見る。
「アリスの家の薬屋に、マルティネス公爵が来るのかい? 凄いね!」
「マルティネス公爵が通う薬屋……はぁ~、私も行ってみたいですわ!」
「あの……」
返事に困っていると、ミアが助けてくれた。
「ロレンツ様とソフィア様、アリスを困らせたらダメですよ。有名人に会えて嬉しいのは分かりますけどね~」
「マルティネス公爵は凄い人気だな!」
ユーゴの言う通りね。レオおじいちゃんがこんなに有名人だとは知らなかったよ。
◇
昼休みの食堂では、Aクラスのリカルド・フェルナンデス様から話し掛けられた。年少科でトップの魔法使いだと噂されている方で、最近、フェルナンデス様のことを『風の貴公子』と呼んでいるのを聞いたことがある。
「僕はリカルド・フェルナンデスと言う。君は宮廷魔術師団長のマルティネス公爵と親しいのか?」
銀色の髪がキラキラしていて、あっ、フェルナンデス様は青い目をしているのね。遠くからしか見たことないから分からなかったけど……ぐっ、フェルナンデス様の後ろにいる取り巻きの人達の視線が怖い。
「フェ、フェルナンデス様、私はアリスと言います。家が小さな薬屋をしていて、レオお……マルティネス様はお客様なんです。それで……」
親しげに“レオおじいちゃん”なんて言ったらダメだよね……エリオット様の時の二の舞になる。
「ああ、リカルドで良いよ。兄弟がいるからね」
えっ、名前でなんて呼べません。取り巻きの方々の……更に後ろにいるご令嬢達が怖い。
「失礼します、リカルド・フェルナンデス様。私、ソフィア・ラミレスと申します。マルティネス公爵は、アリスを可愛がっていて推薦状を書かれたほどですよ」
ソフィア様が私を庇うように間に入ってくれるけど、それは言わなくても良いんじゃぁ……牽制になるの?
「推薦状を……ふむ、そうか。アリスと言ったね、僕はマルティネス公爵を尊敬しているんだ。もしよければ、昨日の個人授業、何をしたのか教えてくれないか?」
「えっ、昨日は……」
レオ……マルティネス様が、国境付近に行った街でお菓子を買って来てくれたので、一緒にお茶を飲んだだけで、個人授業なんてしていないと本当のことを話した。
「そうか、魔法の訓練はしなかったのか……」
「はい。レ……マルティネス様は、私が魔法を使う所を見たこともないと思います」
お茶に回復魔法を掛けているのは知っていたけどね。
「えっ、君の魔法を見たこともないのに推薦状を書かれたのか? 何故……」
素直に、回復魔法が使えるから書いてくれたんですと答えた。変な誤解をされたくないからね。
その後、スカーレット・マーフィー様も来られて、ロレンツ様が相手をしてくれた。私はロレンツ様の後ろでコクコクと頷く。
「アリスさんと言ったわね。マルティネス公爵と魔法の練習をする時は、是非、声を掛けて下さいね」
「は、はい……」
マーフィー様は目鼻立ちがハッキリとした綺麗な方で、真っ赤な髪のせいもあるのか、目の前に立たれるだけで圧倒される。今まで、マルティネス様と魔法の練習なんてしたことがないと言っておいた。
「それにしても、マルティネス公爵にも困ったものです。虫が付かないように気を付けているのに、これでは完全に狙われるわ……お兄様に報告しないと」
「そうだね。アリスの回復魔法より、マルティネス公爵と知り合いだと知られる方が、周りが五月蠅くなるね。年少科の授業だったのがせめてもの救いだ。もし、ここに来られたら……」
「食堂に……ロレンツ様、想像させないでください」
「ハハ、僕もリーダーとして、出来るだけフォローするよ……」
ソフィア様とロレンツ様がため息をついている。
「……何か、すみません」
ついお詫びの言葉が口から出てきた。私のせいじゃないとソフィア様が言ってくれる。
「アリスって、第一騎士団の副隊長といい、有名人と知り合いだよな~」
「本当にね! マルティネス公爵は、王様より有名人だよ。だって、私、王様の名前知らないもん」
「あっ、俺も知らない」
ユーゴとミアはのんきだ……でも、私も知らないな。
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