第26話 メイドゾンビのパンツ
らちがあかないのでトッシュは目隠しされたまま、メイドゾンビの脚に触れようとしゃがむ。
「駄目ですって先輩!」
「うー」
背後のレインも同じように腰を落として、相変わらず両手でトッシュの視線を遮る。
「ゾンビのパンツくらい見えたっていいだろ!」
「駄目です! ただのゾンビではありません。これは、エロメイドゾンビです!」
「ちょっと! 首筋に何か垂れてきた! レイン、放せって!」
トッシュはメイドゾンビの前でしゃがんでいるので、上から涎か血か内臓か、何かは分からないが、ねっとりと温かい物が垂れてきた。
「ああっ! もう! なんかヌルヌルしたのが垂れてきてるんけど?!」
トッシュは、もうレインの妨害は無視して手探りでゾンビの脚に触れる。
「先輩! よりにもよって何処を触っているんですか! 女の子のそんなところ触ったら駄目ですよ!」
背後でレインが叫ぶが、トッシュは無視。
「スキル発動! あっ。ステータスウインドウが見えない!」
トッシュのスキルは触れている部位のステータスウインドウを表示して、指先で数値を編集するから、目が見えていないと使えない。いや、使えないこともないけど、予期せぬパラメーターに変な値を入力する危険がある。
「トッシュ先輩の変態! 何処のなんのパラメーターを変えるつもりですか! 放してください!」
「俺、ゾンビの何処を触ってるの?! 見えないんだけど!」
「いいから手を放してください」
「パンツ見たら駄目なら、脱がせばいいだろ!」
「なに言ってるんですか先輩、ますます駄目ですよ!」
ふたりがいちゃついて、もとい、言い争っていると、トイレからシルが出てきた。
「ねえ、ふたりとも何しているの……」
「うー」
ゾンビは腰を曲げることが出来ないのか、前方へ手を伸ばしてうーうー唸っているため、幸い、腰を落としているトッシュもレインも、背の低いシルも攻撃は当たらないようだ。
「先輩、手を放しますけど、パンツ見ないでくださいよ」
「ゾンビのパンツすら見たら駄目なのか……」
「じゃあ、放しますからね?」
「ああ」
不承不承ではあるが、トッシュは目を閉じた。
それからトッシュとレインは、身を低くしていれば攻撃対象にならないことを察して、床に座った。シルも一緒に座った。
3人が膝をつき合わせる頭上を、ゾンビの両腕がまさぐる。
「うー」
「パンツを見たらいけない理屈が分からない……」
「駄目なものは駄目なんです。日本とファンタジー、お互いの価値観を尊重し合うのが大事です」
「パンツがない価値観は尊重してくれないのか……」
トッシュやシルが生まれ育ったファンタジー世界には、パンツが存在しない。
適度に縫製技術が発達して庶民にも上等な衣服が行き渡るようにはなりつつも、夜中は全裸で寝るのが当たり前だし、サウナに入ったりシャワーを浴びる文化はあるが男女共用の施設だし、暖房用の炭が不足していれば男女で抱き合って暖を取るのも当たり前だ。ぶっちゃけ、異性の裸くらい普通に見るよな、という文化で育っている。
そんなトッシュからしてみれば、パンツ、なにそれ、見て面白いの? という認識だ。
「パンツはおいとくとして、とりあえずゾンビをどうしよう」
「うー」
「トッシュ、うーうー言うの、やめてもらって」
「あー。それくらいならお安い御用」
トッシュは立ち上がり、メイドゾンビの喉に触れる。
「ステータス表示……。声の大きさを0に」
スキルは成功し、メイドゾンビは無言になった。
「うなり声が聞こえなくなったから、もう怖くないし、これで解決?」
「やだ……。部屋の外に居ると思うと、ちょっと怖い……」
「んー。じゃあ、屋敷の外に追いだすか」
「外に居るのもやだ……」
「んー。だとすると、女の子っぽいから気がひけるけど、倒すしかないか」
なんか可哀相という理由から、今のところ洋館に出現するゾンビは一体も倒していない。
トッシュは亜人種が多いファンタジー出身者なので、日本人みたいにゾンビイコールモンスターという認識ではない。
「シルのステータス異常『恐怖』を治したほうがてっとりばやいか……。あれ?」
「トッシュ、どうしたの?」
「この洋館、ゾンビゲーのステージだと思っていたけど、RPGのステージの可能性があるし、もしかして、ゾンビって状態異常?」
「え?」
「ステータス異常でゾンビになっているなら、治せるかも?」
トッシュはゾンビを見た。
ちょうど目の前に、黒でレースでひらひらのエッチなパンツがあったけど、トッシュは、パンツだな、くらいにしか思わなかった。
トッシュがメイドゾンビを元に戻せるかどうか黙考していると、
「先輩、パンツを凝視しないでください!」
誤解されて怒られた。
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