第21話


この日見た夢はとてもグロテスクな光景だと感じた。





その光景は人間の身体に無数の小さな穴があけられているものだった。


大きさはちょっと毛穴が拡がっている程度であった。

実際、初めは毛穴だと思った。

しかし穴から生えているのは毛ではなかった。



虫が生えていた。


小さな細長いにょろにょろした虫が。

無数の穴の全てから生えている光景だった。

彼らが身体全体を蝕んでいるかのようだった。


なんともおぞましい光景であった。


私は悲鳴を上げそうになった。

すぐに飛び起きた。

これ以上あんなものを見たくないと思った。


さっさと忘れようと思い一息つく。

しかし人間の脳は忘れたいと思ったことを忘れられるような造りをしていない。

むしろ私の脳裏に強烈に焼き付けられた。


私の脳も奴らに蝕まれているかのようだ。


どっかに行ってくれと脳が悲鳴を上げそうになったが

いつまで経っても脳内から追い払うことができなかった。




夜が明けても奴らは私の脳に住み着いている。


空腹は感じるがとても食欲が湧く状態ではない。

人体から虫が湧く光景を見せられては。


それでも私の身体は空腹を告げる。



私のそこかしこから悲鳴が上がる。


早くこんなことは忘れ去りたい。


全て忘れ去りたい。



私は帰宅してあるものに頼ることにした。



酒である。



酒は嫌なことを忘れさせてくれると聞く。

私は酒が好きだ。最近は酒を飲む回数が増えた。実際昨日も飲んでいる。

酒は百薬の長とは正しい表現だと思っている。


私は酒をごくごく飲んだ。

飲むと心地いい気分になった。


脳内もようやく空っぽにできたようだ。

おぞましい虫に替わり、今は強い眠気が湧いている。

今日はよく眠れそうだと思った。

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