第16話


私は学校に向かっている。

既に社会人の筈なのに。

既に卒業した筈の学校に向かっている。何故か。


ここは過去の夢である。


それは、私の未練が生み出した世界だ。


私は学生時代の夢を何度も見る。

同じ夢を未練がましく何度も何度も。

楽しかった当時の思い出を巡るべく。

私は今日も学校に通う。



しかし。


楽しい思い出と言う割には向かう脚取りはあまり軽やかではない。

仕事に向かうよりは全然苦痛ではない筈なのだが。


いや、通学は多少苦痛だったかもしれないが

今はどうでもいい。


夢の中で私はあまり上手く前に進むことができない。

これは何を意味しているのか。




ここは私の未練が生み出した世界である。

未練とはあまりポジティブなものではない。


学生時代とはこれまでの私の人生で最も楽しかったと感じる時代である。


しかし、いつまでもその思い出に浸り続けてはいけない。

過去のことを思い出すのは構わないだろう。

だが、いくら思い出しても過去に戻れる訳ではない。

少なくとも今の私には不可能である。


今が楽しくないと言うのなら、

どうにかして楽しくできるよう努めなくてはならない。



私は前に進まなくてはならないのだ。


夢の中で私は上手く進めないながらも懸命に前に進もうとしている。

懸命に階段を登ろうとしている。


果たしてこの階段をスムーズに登れる日は来るのか。

それは夢から覚めた私次第である。


いい加減学生時代は卒業しよう。

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