第5話


その人物には拘りがなかった。


食べ物の好き嫌いがなかった。


趣味も特になかった。


政治思想は中立、もといどちらでもなかった。


はっきり言って、その人物はほとんど何も考えていなかった。



ある日、その人物は大福を食べていた。

中身は粒あんだった。


すると誰かがこう言った。


「こしあんこそ至高だ。こしあんしかありえない!粒あんなどというゴミを食べるなんて頭がおかしい!!」



以降、その人物がこしあんを食べることはなかった。



またある日、その人物は買い物に出かけた。

独り暮らしを始めたばかりの部屋には家具が布団と衣類ケースしかなく、何か別の物を買おうと考えた。


買い物に向かう途中でこんな声を耳にした。


「俺はもう長い事TVを見ていない。ろくな番組がやっていないし時間と金の無駄だ。好き好んでTVを見ている人はばかだ。何が面白いのかわからん!」



この日、その人物はTVを購入した。



更に別の日、その人物はTVでワイドショーを観ていた。

再来月にはこの地域で選挙があるらしい。

普段政治に全く興味のないその人物は様々なメディアを見て情報収集しようと考えた。


メディアはこんなことを言っていた。


「現在政権を握っている○○党はとにかく無能だ!!国民のことを何も考えていない!!とにかくダメな政党だ!!」


ほぼ全てのメディアがこんな主張をしていた。



そして、



その人物は○○党から立候補した人に投票した。




その人物は、多くの拘りを持つ人物となった。

その人物は、左と言われると右を向く人物となった。

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