三百二十五話 決断11

魔王に腕を掴まれたその人間は

必死にそれを振りほどこうと暴れる。


だが逆に、その抵抗でますます

魔王は顔に笑みを浮かべた。



「私のお父さんとお母さんはどこ!

一体どこに連れて行ったの!!」



すると、逃れるのが無理だと

わかったその人間は魔王を睨み付けて

言った。



「さてな。この広い人間室のどこかに

いるのやもしれぬ。はたまた、もう

すでにマッドサイエンの実験体と

なったか......」



「そ、そんな......」



その人間は顔を真っ青にしながら、

肩を落とす。

しかし、その人間は諦めていなかった。



「許さない......私がここで!

お前を殺してやる!!」



その人間は、魔王という脅威に

臆することなく、憎しみと殺意の

こもった目で魔王を睨んだ。



「フハハハッ! ますます気に入った!

おい、そこの者。この人間のメスを

マッドサイエンの実験室まで

連行しろ。」



「はっ!」



魔王は自分に憎しみを向けてくる

その人間を、近くにいた部下達に

預け、自身もマッドサイエンの

実験室に向かった。











【実験室】




魔王の新しい体がいよいよ作られる

と知って、実験室にはラーバも

待機していた。



「いよいよですねー。私、楽しみで

仕方ありません。」



ラーバは、中身が謎の液体で

満たされたガラス状で高さ三メートル

程のチューブ管に、鎖で拘束された人間

の少女が無理矢理ねじ込まれるのを

にたにたしながら見ていた。



その人間は必死に足掻こうとするも、

三体の魔族達によってチューブ管の

中に閉じ込められてしまった。


次第に呼吸が苦しくなってきた

その人間は、目の前のガラスを

必死に叩く。



助けて! ここから出して!



そう訴えかけているようだった。



「マオウサマ、ナニカ、コノニンゲン、

シャベッテル。」



「どうせ仲間にでも助けを求めて

いるのであろう。構わん、始めろ。」



「ワカッタ。」



魔王の指示を受けたマッドサイエンは

転移者から貰った魔法の杖を

魔王の心臓に突き刺す。



だが、少しも魔王に痛がっている

様子はなかった。



マッドサイエンはそのまま魔法の杖を

捻り、ぐっーと魔王から魔法の杖を

抜いた。

そして、ゆっくりと魔法の杖の高さを

変えないように歩き、今度は

ガラスの中にいる少女に魔法の杖を

突き刺そうとする。



「......メ......グ......」



その直前でその少女は最後に

そう呟いて、意識を失ったのだった。



しかし、マッドサイエン達には

その声など聞こえているはずもなく、

マッドサイエンは躊躇なしに

魔法の杖をその少女に突き刺した。



その拍子にひびの入ったガラスの

割れ目から、中の液体が溢れ出てくる。



やがて、ガラスの中の液体は

完全に外に流れ出てしまった。



マッドサイエンは少女の死体から魔法の

杖を抜き、一歩後ろに下がった。



その瞬間、バリンッ!と

高さ三メートルのチューブ菅が

破裂した。

それによって辺りにガラスの破片が

散乱する。

なんとその上を、先ほど死んだはずの

人間の少女が立ち上がり、歩きだした。



「ほう......」



「これは......実に興味深いですね......」



「シタイガ、ウゴキダシタ。」



その後、全く感情のないロボットの

ようなこの新たなる魔王の体を、

魔王達は隅々まで調べつくし、

この個体が魔王そのものであること、

この個体に魔王は乗り移れること、

そして、これが生きている限り

今の魔王の体が消滅しても、直ぐに

復活するということまで突き止める

ことに成功した。


だが、魔王が乗り移るにはまだ

この個体の体が未発達であった

ことがわかった為、魔王は当初

この個体を地下の人間室にでも

ぶちこんでおこうと考えていた。

しかし、何を考えていたのか、

ラーバが魔王にこの個体を

人間界で成長させては

どうかと提案してきた。


それは何故かと魔王が尋ねると、

ラーバは不気味に笑って、

きっと面白いことになりますよ。

とだけ答えた。



しかし、自分の心臓が自分の手の

届かないところに行くのが、

不安だった魔王は直々に自身で

命を絶つことないように魔法を

かけておいた。


そして、それから一ヶ月後、

この個体を人間界で成長させる為、

ラーバは自分の統治下にある

呪覆島に連れていき、新たな人間達が

前回この島で捕まえた人間達をのこのこ

助けに来るのをじっと待っていた。



これによって、バーゼンはタチアナと

出会ったのだった。

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