二百八十三話 ヨーテルと長老6

「うぉあ!!」



風を体に纏って魔王に突っ込んだ

カクバだったが、意図も簡単に

魔王に吹き飛ばされる。

その先には魔王を狙っていた

バーゼンが隠れており、二人は

激突してしまった。



その隙に今度は鬼灯が

生成した自分の分身と共に、

魔王に攻撃をしかける。



「つまらん。ぬるい攻撃よ。」



しかし、鬼灯もまた魔王に殴り

飛ばされてしまった。



「......強い......」



今まで自分達が戦ってきた

敵とはまるで違う。

まさに怪物。



「......長老でも勝てなかったのに......

私達だけで......」



その圧倒的な強さに、鬼灯は

諦めかけていた。



そんな時、何かピカッと光ったような

気がした。



「?」



空を見上げるとそこにはほうきに

またがったヨーテルの姿があった。

何やら彼女はペラペラと本を

めくっている。



「あったわ。この魔法......」



「まだおったか。」



「纏繞(てんじょう)石!」



そうヨーテルが言い放った時、

ヨーテルの持っていた本が

光輝く。

その光に一瞬目を奪われた

魔王だったが、自分の足に

地面の岩がまるで蛇のように絡み

ついているのに気がつく。

そして、あっという間に

体全身に岩が絡み付いたのだった。



「ほう......動きを封じたか......」



「あんただけは許さないわ......」



身動きの取れなくなった魔王に、

ヨーテルは接近する。



「よくも長老を......」



ヨーテルの本を持っている右手は

怒りでプルプル震えていた。

ヨーテルも長老が自分にとって

ここまで大切な存在だったとは

気づいていなかった。

ヨーテルは失ってはじめて

気がついたのだ。




王都に行ってもこんな性格だから、

友達なんて作れなかった。

けど、それでもここまで生きて

これたのはあの人がいたから。

あの人に出会ってなければ、

私は今頃、あの小さな町で

今でもひとりぼっちだった

かもしれない。

あの人がいたから。

あの人が泣きそうな私の

側にいつもいてくれたから。



こんな私を、我が子のように

育ててくれたから......



今、私はここにいる!!!!



「あんたがたとえ自己再生が

出来ようと、跡形も無く消し去れば、

それで終わりよ!!」



「できるのか? そんなことが貴様に。」



魔王は全く怯えていない。

それどころかニヤニヤしている。



だが、そんなことで心が揺さぶられる

ヨーテルではない。



ヨーテルは魔法書のとあるページを

開いて、そのページに書いてある

文字を詠唱し始める。



そして、怒りを込めてこう叫んだ。



「リギオン!!!」



ヨーテルがそう言うと、

魔法書に灯っていた光が

一点に集まり始め、バチバチと

音を立てながら集められた光が、

魔王へと発射された。



この光は感情と共に高ぶった

ヨーテルの魔力を一点に集めて

放った物だった。

長老を失って生まれた怒りを

魔法として放出したのだ。



「アアアアッ!!!!!」



魔王はけたたましい声を上げながら、

その光に飲まれていき、最終的には

髪の毛一本も残らず消し去ったのだった。



「すげぇ!!やったじゃねぇか!」



「素晴らしい活躍だったのだよ。」



「......ヨーテル......すごい......」



魔王を抹消したヨーテルの元に、

続々とカクバ達が集まってくる。



「長老......私......やったわよ。

あなたが倒せなかった魔王を

倒したわ......これで......これで私は......

......そんなのいらない!! 最強の

力なんて要らないから! 皆を見返す

力なんてもう欲しがらないから......

だから......お願いだから......」



帰ってきてよ......



その言葉をヨーテルは

必死に飲み込んだ。

ヨーテルもそれはわかっている。

だから、それを言わない代わりに、

思う存分涙を流した。

家族に捨てられても、町の連中に

馬鹿にされても泣くことだけは

しなかったヨーテルは、大切な人を

失ってはじめて、涙を流したのだった。




そんなヨーテルが泣き止む

までカクバ達はずっと待っていた。



「そろそろ行くわよ......」



泣き止んだヨーテルは

カクバ達にそう言って

歩き始めようとする。



「やっぱあいつの言ってたことは

嘘だったな......」



後ろではカクバが

そう静かに呟いた。



「ちょ、ちょっと待つのだよ」




すると、何かに気がついた

バーゼンが口を開く。



「どうして別次元に飛ばされた

仲間は帰ってこないのだよ。」



「!!」



その言葉にヨーテル達は歩みを止めた。



魔王は言ってた。



我を倒せば、仲間は元に戻ると......



あれは嘘? それとも......



魔王はまだ死んでいない。




そう思ったヨーテルは、

はっと玉座を振りかえる。



「ようやく気づいたか......

あまり我を退屈させるな。」



「嘘......でしょ......」



ヨーテルは自分の目に映っているもの

が信じられなかった。



「まあ、よい。

貴様、我を楽しませた褒美だ。」



そう言って魔王はヨーテルを指差す。



「次は貴様を灰にしよう。」

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