百九十九話 再開を夢見て13

「しかし......結局あの時見た魔族は

この島におらんかったの。」



「ああ、だから海底洞窟の

中で会ったとき、一人で幹部の

ところに行っていたんですね。」



「そうじゃな......本当のことを言うと、

あまり他の皆には見せたく

無かったんじゃ。怒り狂った

老人の姿を。」



いつも冷静で頼りになる長老は、

その魔族をそれほどまでに

憎んでいたのだ。



「けど、わかりませんね。

それならば、その魔族が悪いので

あってあなたに責任はない。

だから、あなたが人魚姫に会いに

行っても、彼女はあなたを叱ったり

など、いやむしろとんで喜ぶかと

思いますが。」



「......はは......」



長老は乾いた笑いをする。



「隼人君......わからぬか......」



「?」



「わしは......確かにその

責任を感じておる。

じゃがの......違うんじゃよ。

そうじゃない。それだけじゃない。」



長老は一度心を落ち着かせるように

空を見て、再び隼人を見る。



「わしはの......愛している人に......

こんな老いた姿を見てほしく

ないんじゃよ。」



「......」



「こんな......こんなっ......

愛する人も守れず、

宿敵を倒すという悲願も

叶わないで、無意味に百年間

を過ごし、ただ老いていった

わしのこの哀れな姿を──」



「長老......」



まるで自分を責めるように

段々声に力を込めていく

長老を隼人が優しく

肩に触れて落ち着かせた。



「......すまぬ......」



「いえ......いいんです。」



ようやく落ち着きを取り戻した

長老は、振りかえって人魚姫の

いる海の方を恋しそうに眺める。



「長老......これだけは

聞いてください。」



隼人は長老に話しかけるが、

長老は隼人の方を見ない。

だが、それでも隼人は長老に

言っておきたいことがあった。



「あなたはきっと自分の

思っている以上に

責任を感じ、自分を責めて

いるんです。

それに、俺も人魚姫に会い

ましたが、彼女はそんなことで

あなたを嫌ったりなんて.....」



今何を言っても恐らくなにも

長老には届かない。



隼人はそう察した。



だから、隼人は本当に

一言だけ......

本当に言いたかったことを

一言だけ長老に言った。



「長老......きっと後悔しますよ。

今、目の前に会いたい人が

いるのに、その機会を逃して、

本当に会えなくなったら

死ぬほど後悔しますよ。」



隼人はそう言った後、反応のない

長老に、傷を負った仲間の

手当てをしてきますとだけ

言い残してその場を離れた。

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