百六十四話 三日月島29

「今から百年くらい前、俺達

魚人族は魔族と同族の契りを交わした。

だが、それからというもの、魚人は

魔族の中では下っ端扱い。

そんな中で、魔族に刃向かおうと

した魚人が何人もいた。

けど、そいつらは全員、この島に

いる幹部様によって始末された。

いいか? この島にいる幹部様は

言うなれば、俺達、魚人族が

魔族にたてつかないように

監視するために派遣されたんだよ。

その幹部様の居場所を敵である

人間にでももらしてみろ。それが

ばれたら魚人族は魔族に消されるんだよ。

一人残らず。」



その魚人は顔を真っ青にしながら

話す。

魔族の一員でありながら、

余程、他の魔族のことが怖いのだろう。



「だから、頼む! それは無理なんだ。

どうか見逃してくれ!」



そう言って魚人は、俺が首を締め上げて

いる魚人を解放してくれと、

地べたに頭をついて懇願してくる



「......わかった。」



俺は彼の仲間思いなところに

少し心を打たれてその魚人を解放した。



「ゴホッ......ゴホッ!

な、なんでだ、ワイン。なんで

この人間に土下座なんかしてんだよ!

ゴホッゴホッ。」



「お前は知らないんだよ、ビール!

こいつの恐ろしさを。」



どうやら俺が以前船で返り討ちに

して船から捨てた魚人はワイン、

今しがた首を締め上げていたのは

ビールと言うらしい。



「はぁ......全く、呆れたな。

一体何をするのかと思ったが......」



するとさっきまで岩影に隠れていた

タチアナが姿を現す。



「お、おい! も、も、もう一人

人間がいるぞ!」



タチアナの姿を見て、二人の魚人は

プルプル怯え出す。




「したかないだろ。これしか

いい方法がなかったんだ。」



「とはいえ、少しやりすぎだ。

これでは我々は悪人ではないか。」



「まあ、このさい、どっちでも

いいだろ。それより、どうする?

この魚人、話してくれなさそうだぞ。」



「そのようだな。......致し方ない。

地道に探すとしよう。」



「それと仲間が陸の上で戦って

いるらしいけど、助けに行くか?」



「それは大丈夫だろう。

皆、選抜試験を合格してここに

来ているのだ。そう容易く

負けるはずがない。」



「そうか。じゃあ、行くか。」



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