二十八話 帝国精鋭隊4

「知ってのとおり、私の騎士団、

及びこの任務に参加した職業者で

幹部の一人を撃破することに成功

した。だが、私は他の者に

まだ報告していない

ことがある。」



「報告していない? それは

王様にもか?」



「そうだ。」



カクバの問にタチアナは答える。



「それで、その内容は一体何なのです?」



「私は今回の任務でヘルドラと

もう一人、ラーバという幹部に

遭遇し、瀕死の状態を発見したが、

みすみす取り逃してしまった。」



「取り逃した!? 幹部の一人を!?」



「そうだ。」



カクバの驚きの声にタチアナは

申し訳そうな表情を浮かべるも

頑固たる姿勢で頷く。



「ちょ、ちょっと待て。瀕死の状態

ってどういうことだ? それは

お前がやったんじゃないのか?」



「いや、違う。ラーバは私がヘルドラ

と対峙している時、死にかけの状態で

吹っ飛んできたんだ。」



「はぁ? どういうことだよ。」



「それは私にもわからない。」



タチアナは決して冗談を言う人間

では無いことはここにいるみんなが

知っている。

だとしても、あまりにも理解できない

内容に一同が沈黙していた。



「もしも、もしもじゃ。

仮にタチアナちゃんの言っているこ

とが正しいとしてなぜそれを

わしらだけに言ったんじゃ?」



「長老、私は別にこのことを秘密に

したいわけではありません。

あとで私から直々に王様には

報告しておきます。

それよりもまず先に、私は

これから先の人間世界の要となる

皆さんに、幹部が二人、一つの

島に出現したという異常事態を

報告したかったんです。

そして、私は幹部の一人を倒せた

今が、追い詰められた我々人間が魔族に

勝利する絶好の機会だと思うのです!」



タチアナの力強い声が会議室に

響く。

長老は彼女に、つまり?

と問いかけた。



「私は新たに魔王軍討伐を

結成し、本格的に敵の領土に

乗り込もうと思います。」



「おいおい、マジか? 

今の人間側の兵力で敵地に

乗り込むなんざ無謀だぜ?」



「いや、無謀では無い。

兵力が無いなら募ればいい、

強い職業者達を育てればいい。」



「んな無茶な……」



「無茶でもやるしかない。

今この好機を逃せば、今度は

本当に魔族に人間が滅ぼされるぞ。」



正論だった。

何もしなければ、遅かれ早かれ

人間は滅ぼされることは目に見えていた。

タチアナの言葉に皆が押し黙る。



「そ、そういえば魔王討伐軍を

結成するって言ってましたよね?

それってどうやるんですか?」



ずっと空気におされ、黙っていた

サッちゃんが口を開く。



「私は各職業の中から選りすぐりの

人材を試験で審査し、結成しようと

考えている。そこで、みんなには

自分の隊からその試験に参加できそうな

者を選出してほしい。」



「なるほど、だからタチアナさんは

帝国精鋭隊だけではなく、各職業の

隊長も召集したのですね。」



職業者はレベルに応じて初級から

最高位までの各職業についており、

その集団をまとめて隊と呼ぶ。

その隊、つまり騎士の職業で例えると

最もレベルの高いタチアナが実質、

隊長と呼ばれる。

ここにいる帝国精鋭隊を含める

七人全員が隊長、言い換えれば

各職業の最高レベルの者となる。



「そうだ。それとみんなには

その試験の審査員をお願いしたい。」






「はぁ……ぁ、くだらない。」

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