二十三話 帰還

穴の中に入って行ったタチアナと

アルナは眠っている騎士の仲間を

何人か連れて帰ってきた。

だが、二人は顔を真っ青にして

こう言ったのだった。



ラーバが姿を消したと。













揺りかごのような心地よい船の

上で俺はのんびりとくつろいでいた。

幹部の二人との戦いから二日たち、

続々と目を覚ました仲間たちと

一緒に俺は緊急任務から帰還している

途中だった。


魔族の幹部であるヘルドラとラーバ

との戦闘に勝利したが、タチアナ達が

少し部屋をあとにした間にどこかに

ラーバだけが姿を消したようだった。

だが、この任務の目的だった

ヘルドラの討伐には成功できた

ようで、加えて操られて

いた騎士達も全員生還し、

死人は一人もでなかったということで

今回の任務は人間達の勝利という

形で幕を閉じた。


そして、ヘルドラを倒した今、

氷の洞窟があるあの島は人間達の

領土となり、その喜ばしいニュース

が今頃下の大陸や受付嬢やガビルさん

のいる島で広まっているそうだ。


戻ったら宴会だ! と

船の中では既に宴会が開かれている。



「おい、お前もどうだ?」



行きのときもトランプを誘ってきた

男が酒を持ってくる。



「いただきます。」



俺はこれくらいなら

自分のご褒美としていいだろうと

思い、酒を受け取った。



この任務の報酬は予想以上の額で、

ギルドに戻ったら貰えるらしい。


中でもヘルドラを倒したことに

なったタチアナは最も多い金額が

配布されるようで、その部下のビルメと

アルナもまた騎士団の中で位が一つ

上がると喜んでいた。

だが、タチアナは幹部を倒したと

言われる一方で、自身ではそれを否定

していた。

けれども首を取ったのは彼女だし、

何よりあの時起きていたのは

俺と三人だけなのだから

こうなるのも仕方ないだろう。

俺はそう思いながら、酒に口をつける。




「おお! 見えたぞ!

俺たちの島だ!」



宴会の真っ只中だった連中が、

見えてきたギルドのある島を

眺めながら喜び合う。


俺も変に愛着のわいたあの島を

見て少し嬉しくなってしまった。



この異世界でもうまくやって

いけそうだと、俺は酒を飲みながら

そう心の中で思った。

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