第34話  攻防

 その影が室内に一歩踏み出すと薄暗い中でも全貌が見て取れた。

 帝王らしき男はがっしりとした体に紫色のマントを羽織り、兜をかぶっている。そのまわりを固めるように六人の兵士がいて、先頭の二人は機関銃のようなものを抱えていた。


 帝王とその兵士らは室内の状況を確認するためか、一気に迅らのほうへは来ず、室内入り口近辺で立ち構えている。



 迅は今一度周りを確認する。突然のことすぎて一斉に散らばった仲間が今どこにどのようにしているか把握しておきたかった。そうしながらも考える。マーナの矢を跳ね飛ばしたのはエボーのチカラじゃないのか……


 中央の巨大な円柱の陰に迅とハヤトがいる。そのそばの支柱の陰にレンカはいて、マーナは更に奥の支柱の陰に潜んでいた。




 キクリの姿が見当たらない。目の前にいたはずなのに……


 迅が焦り出していると耳元で囁く声が聞こえる。


「キクリちゃんはわたしの側にいます。キクリちゃんによると奥の四人がエボーで帝王の右隣りが磁場というのを操っていて攻撃を防いでるみたいです。迅さんにそういえばわかる、と。わたしが行こうかと思ったけど、キクリちゃんに止められて。わたしには無理みたいです」


「わかりました。ミサキさんそのままキクリと消えてジッとしててください。女子供の存在を知られないほうがいい」


「はい」



 キクリも消えれたんだな。よかった……先頭の機関銃持った二人以外はエボー……磁場……迅は今聞いたことを反芻し理解する。



 先頭兵士の二人がレンカ、マーナのいる支柱に向けて機関銃を乱射し始め、その辺り一面に火花と着弾する騒音に包まれた。


 支柱下から凄まじい速さで黒い影が飛び出す。


 レンカさん……




 迅が心配するまでもなくその影は、機関銃を持つ一人の兵士の足元から一気に全身に絡みつき、即座に喉笛を搔き切る。


 兵士は叫ぶことも許されずその場に倒れかけ……た時レンカとその兵士もろとも轟音と同時に猛炎と灼熱が二人を包み、体ごと後方へ吹き飛ばされる。



「レンカさんっ!!! 」



 みると帝王の左隣の男が両手を前に上げて炎を繰り出していた。

 反射的に迅は飛び出す。そのまま炎を操る男の方へ向かうと、繰り出す炎が迅に向けられる。


 渦のような焦熱の炎が襲うも、迅の眼前で避けるように猛火が二つに分かれると、動揺するかのように男が後ずさりする。迅は踏み込み続け、間髪入れず剣で胴体を貫き、『うおおおっ』と吠えながら、突き刺したまま胴を横薙ぎにしながら剣を抜くと、男は腹と口から鮮血を噴き出し倒れた。


 それと並行して迅に機関銃が放たれたがマーナの矢が『ドドンっ』と、もう一人の機関銃を持った兵士の体に大きな穴を二つあけると、その兵士は壊れた人形のように崩れ落ちる。


 迅がそのままの勢いで帝王らに近づく。すると空気の圧のようなもので、後方まで投げられるように体を大きく回転させながら壁に叩きつけられ剣を落とし、その大の字の体勢のまま壁に貼り付けられる。



「な。なんだ……」




「「迅さんっ! 」」


 ほぼ同時にマーナとハヤトに声を掛けられるが、迅は物凄い圧力に押さえつけられ動けないでいた。



 こ、これはサイコキネシスの一種か……


 迅がそのチカラを操っているだろう、こちらに両手を向けている男を見やる…………すると様子が変わる。


 両手を迅に向けていたその男は、一方の手で頭を掻きむしり出し、その手を迅とは別方向へ向けた。…………ハヤトだ。ハヤトがその男に念を送り、その男もハヤトに気付き、お互いにつぶし合っている。



「うがああっ……」

「うおおおっ……」



 その男は迅に向けていた手を下げ、両手でハヤトにチカラを向けるよう切り替える。その瞬間迅を抑えていたチカラはなくなり、貼り付けられた壁から地面に落とされる。



 一方ハヤトに集中したチカラはハヤトを壁にまで押しつけ、今にも限界に達しそうで、目、鼻、口から血を流している。その間にもマーナからはその男を含め帝王近辺に矢が放たれていたが、火花が散るように弾かれていた。


 迅はハヤトの限界が近いのを悟り、その男とハヤトの間に割って入るつもりで前に駆け寄っていると、ハヤトは、抑えられていたチカラが無くなったように、その場に気を失ったかのように倒れ込む。


「うがああああっ」


 迅が悲鳴を発するその男をみると首から血を噴き出し、のたうち回り転げていた。




 ミサキさんか! しかし近すぎる。……おそらくハヤトを攻めていたエボーの首を切ったのはミサキ。ハヤトの姿を見て我慢できなかったのだろう。



 すぐ戻れっ! と思う迅だったが、



「いゃああっ」


 という悲鳴と共に奥に控えていたエボーの一人に、首根っこを掴まれ姿を現すミサキが見えた。



 そこで迅はまたしても壁に追いやられる。先ほどとは違い、みえない何層もの壁に押し潰されるかのような圧迫を感じる。そして帝王が苦虫を潰したかのような顔でつぶやくようにいう。



「危ういな。……まったくけったいな術を使いおって。……あのハエのようなものなんとかならんのか」

「ただちに」



 するとマーナの周りを囲むように、すりガラスのような立方体があらわれマーナはそこへ閉じ込められる。


「やーっ。なにこれっ?! 」



「殺せるのか? 」

「あれはエーテル体ですから物理的攻撃では。ただ心配には及びません。あのまま縮小していけば限界密度により自ら爆発します」


「ここから出しなさいっ! ……」



「ヌハハハっ。それもおもしろい。これで終いか。……では一匹ずつ完全に潰していくか」





 ぐっ。くそっ。残り二人のエボーと帝王。……マーナさん。レンカさん。ハヤト君。ミサキさん。キクリ……は、どこにいる? 壁に抑え付けられながらも迅は目でキクリを探す。……いた! 

 


 キクリは迅と帝王の間にある何かの機器の陰にジッと座り込み、迅を見つめていた。そして深呼吸を繰り返しながら、何かを青い瞳で訴えているようだった。


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