第12話  新たな目的地へ

 宴会翌日、ジンらはトリプルバーンズらと双方熱い握手を交わして別れた。


 迅は、エルフマーナ、蛇種族レンカと次の旅の目的地の話をしている。

 マーナが話をきりだす。


「やっぱり神聖国に行くのがいいと思うの」


「確かにね。あそこは多種族の集まりだから、情報も得る確率高いよね」


「なんです。神聖国って」


 迅達は龍国を抜けて、様々な人種が混在するというアーマンナルト神聖国という国へ向かうことになる。


 ミクル、ラオの親御さんらの情報を得るためだ。

 様々な種族が賑わっている国らしい。

 

 とはいえ交通手段が、徒歩か馬車の迅らがたどり着くには、いくつもの村や町を通っていき何日もかかるとのことだが。


「人族も普通にいるんですか? 」

「はい。彼らは商売上手でお口が達者でらっしゃいますので」


 マーナさん、どこかトゲないか? でも。まあそうだろな。


「あの、嫌われてるって」


「あの国には目立つ感じにはいないと思いますよ。でも、どうかしら、彼らは姑息で欲深いですからね」


 だからトゲが。


「それに、すーぐ何でかんでも色事に結びつけとうとしますし」


「ははっ。もう大丈夫です」

「ふふっ。冗談ですよ」


 ふーん。行ってみないとなんともだな。



「神聖国って神様を祀るとかなんとか? そういえば、龍国もドラゴンが守護神とかいってましたよね? 」


「そうですね。エルフの国にも神は信仰されてます。それぞれの国におりますよ。ただ、アーマンナルトは全てのって感じでしょうか」


「うん? 」


「この世界の理を司る。不浄、穢れを罰するみたいな 」


「マー姉、あそこ寄っていけば伝わるんじゃない? 」


「ん? あっそうね。そうしましょ 」



 なにやらマーナとレンカでまとまってしまったようだ。



 迅ら一行はヤタカ村を出て歩みを進めている。

 今はまだ平坦で、見晴らしの良い、馬車一台は余裕に走れるくらいの路。これからはいくつもの山を越える予定だ。


 山越には尾根に沿って走る路をゆくらしい。まばらに立つ木の緑が目に優しい。




 道中、最近では定番の、迅、ミクル、ラオで先頭を歩く。



 ミクルとラオの会話が聞こえる。


「ラオっち、みたか屋の鳥串おいしかったね」


「んだんだ。あそこ、二代目なんだ」


「そうなの? 代かわると味かわることあるからね」


「んだ。引き継ぐのも大変なんだ。へへっ」



 何を言ってるんだこのコらは……誰の受け売りだ……

 チビッコ達だけの会話があるらしい。



 後ろからレンカから声が掛かる。


「迅さーん、今日は野宿になるからね」


「はい、了解です」


 しばらく野宿が続くんだろうな。

 それはそれで楽しい。何気ない日常が、こんなに心地の良いものとは、ホントに俺はいっぱいいっぱいの毎日を送っていたんだな。



 迅は旅館でのトリプルバーンズ、エルフのクリスとマーナのやり取りを思い出す。

 別れる朝、クリスからマーナに、里には帰られないのですか? という言葉があったからで、この二人の距離感と言葉遣いで、マーナがエルフの里でのそれなりの地位のようなものが窺えた。


 ちなみに魔人の話では、マーナとレンカまでが有名人とのことだったから、特にそれに関して聞いたことがなかった迅は、事情でもあるんだろか。という思いに至る。


 でも、確かにわざわざ自慢げに言うことでもないし、二人の性格では自分からは言わないだろう。




 歩き続けている途中、マーナさんから、みんなに渡された木の実を噛む。

 どんぐりのような木の実で、噛むと果肉から辛くて苦い汁が出る。これをガムのように噛んでいると口の中がスッキリ歯の汚れもつきにくい。


 旅には欠かせない一つなのだが、特に手に入れることに困ることはない。結構あちらこちらに群生しているからだ。

 主に道脇に生息しているのは、こうやって噛んだ後、道端に種を飛ばすからだろう。うまいこと出来てる。


 村には歯磨きに代わるものがあった。それこそ歯ブラシのような動物の毛で作られたものがあり、塩を練りこんだ泥のようなもので磨いていた。風呂場にも石鹸のようなものや、洗髪するものもあって、想像より快適な工夫がされていた。



 

「ちょっと休憩しましょ」


「ほーい」


 小さい川が流れている沢のところで、マーナから声が掛かり、小休憩。皆道端の木陰を探し腰を下ろす。


 チビッコ達は休憩もそこそこに三人で花やら沢やらで遊んでいる。


 「キクちゃん、あそこいこっ」

 

 なにやらチビッコ達は、沢に注目したようで、そばに近寄ってみる。


「ほらほらキクちゃん。いるよ」


「わああ……食べれる? 」


「へへっ。キクちゃん。すぐ食い気だな」


「ジンに……あげる」


「どーだろね。レンカ姉ちゃんに聞こか? 」


「ラオっち…捕まえて……」


「そっちいったよ! 」


 沢のほとりで固まっているチビッコ達の後ろから声を掛ける。


「ミクル、何してんの? 」


「あっ、ジン、あれとってー! 」


 ミクルが迅と目を合わせると、沢の上流の方を指さし言う。見るとアケビのような口を開いた果物が、沢にかけて何個かぶら下がっている。


 沢を覆いかぶすように、木の枝が重なり合う。どれ、と迅は小さい沢の川沿いを川に落ちぬよう枝を掴みながらアケビのもとへ向かう。


「これでいいのか? 」


 拾った木で少し上にあるアケビを手繰り寄せると、豊潤な香りが立ち込め、それが異常に匂いがたっていたため、


「なんだこれっ! 」


「ジン、やったー。それパグラミの実だよ! 」


「食えんのか。これ? 」


 手に取り、よく見ようと顔に近づけると物凄い異臭がして、顔を仰け反らせ、


「うっ。くせっ」


「うまいんだよー」


 なんでもこの鼻をぶん殴るような匂いを発す果物が、めったに食べられないものらしい。マジか……いや、俺には無理だな。これみんな食べるのか? と側にいたキクリに訊いてみる。


「キクリもこれ好きなのか? 」


 キクリは丁度、迅に用があったらしく目が合うと近くまで寄ってきて


 「ジン……これあげる」


 と右手を差し出す。見ると、さきほどラオに捕まえてもらった沢蟹のようなものを手にしていて、小さい手の平で蠢く。迅にはそれが手のひらサイズの蜘蛛に見えた。


 「ううわあぁっ」


 足場の悪い沢辺で、急に足をもたつかせ後ろに下がり出したため、石に靴を滑らせそのまま背中から川に落ちる。


 ミクルは笑いだすが、ラオは怒り出す


「なんだジンは! おい、キクちゃんに頼まれてとったんバカジン! 」

 

 丁度、マーナとレンカがこちらに来ていた。


「どーしたの、迅さん。あらら」


「まぁ、パグラミの実ね! 」


 キクリがレンカに沢蟹らしきものを見せて


「レンカ……これ食べれる? 」


「あぁ。食べれないことないけど逃がしてあげよ」


「うん……」


「ほーら迅さん、ずぶ濡れ! 上がって」



 迅は道端に戻り、全身濡れた服を脱ぎ、乾かしていると、皆、先程採れた果物を笑顔を交わしながら食べていた。

 マーナが近寄り、


「はい、迅さん、剥いてありますよ」


 とその果物を差し出してきたが


「大丈夫です」


 と丁重に断る。


「おいしいのに……」


「あの、匂い気にならないんですか? 」


 マーナは今一度果実の匂いを嗅ぎ、たまらないっといった感じの微笑みで


「癖になるんですよ」


 ダメだ…… 


 

 休憩も終わり歩みを再開していると、後ろから馬車を含めた集団が走ってきた。

 その音で振り向きつつ、通れないことはなかったが、マーナから道を空けるような仕草があったのでチビッコ達を道脇に寄せる。


 砂煙を上げながら近寄る馬車ら集団をみて驚く。

 六頭立てで、四輪馬車が二台連結しているようだ。

 派手な感じはしないが、馬車と周りを囲うように走る、乗馬騎士なのか護衛なのかはわからないが、偉く装飾が高貴な感じの集団だ。その取り巻きは十数名はいるだろう。


 まさか、大名行列みたいな感じじゃなかろうな?

 土下座して道を空け、顔を上げてはならぬ、目を合わせてはならぬ。そそうがあると無礼討ち。


 なんてな……そう考えると昔の時代って理不尽だらけだな。


 それで不安になり、確認するように今一度マーナとレンカを見る。


 土下座はいいみたいだけど……いいんだろな?


 と考えているうちにその集団が、一行のもとを何事もなく通り過ぎた。のだが、十数メートル先くらいで馬車の集団の歩みが止まる。


 なんだ。うわっ。なんか巻き込まれるパターンだろか。


 迅はもう一度、レンカとマーナの顔を伺い


「なんですか。あの集団? 大丈夫なんですかね? 」


「大丈夫! そのままいって大丈夫だよ! 」


 レンカがそうゆうんだから大丈夫なんだろ。


 最近の迅はマーナとレンカに対する思いが変わっていた。


 バーンズと魔獣との戦いから、二人は只ものじゃないことがわかってしまったからで、そのレンカの言葉は迅を安心させるには十分な頼もしさがあった。 


 なんで止まったか知らないが、今度は迅ら一行が、馬車の集団を抜かす形になる。


 通り過ぎざま良く見ると、馬車は偉く豪華な作りに見えるし、護衛らしき者たちが身に纏う鎧。雰囲気や所作が一流のものを想像させる。


 今まで荷馬車、帆馬車しか知らないので特に感じられた。

 完全な個室の四輪馬車が二台連なってるのも初めて見る。


 良く聞く貴族やらがそこから登場してもおかしくはないんじゃなかろうか。と思っていると。来ましたよ。アクションが。


「待ちなさい。そこの者ら」


 二連結馬車の、前の馬車の中から、迅ら全員に対し言葉を掛けてきた。

 

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