もう口もききたくない

坊主方央

第1話〜もう口もききたくない

何か面白い事でもやっていないか、と思い俺はテレビをつけた。正直、どれもこれも面白く無さそうだったが適当にこの番組にした。


「ふーん、好きな体の部位ねぇ。」


番組ではカップルをインタビューし彼女の何処が好きかと尋ねているものだった。1番多かったのが、顔や足や胸などで、どれもこれも議論尽くされてきたものばかりだった。


「何見てるの?」


隣に居た同棲中の彼女が、テレビを見る。メモを書いていた手は止まっている。


「なんか彼女の好きな所はなんですか?ってやつ。どいつもこいつも分かってねぇわ。」

「ふーん、そうなんだぁ…。」

「俺はちなみにお前の鼻毛が好きだぜ!」

「えぇ!それは本当なの?」

「おいおい冗談、冗談だって。」


彼女はとても真面目な性格でこんな冗談でも通じない。ちょっと頭が硬い人だが、結構可愛いんだぜ?家事も出来るし、優しいし、本当に非の打ち所がない彼女だ。


しばらくして、番組も終盤になりかけていた時にまた俺は彼女の話しかけた。それは彼女の何処が好きなのか、という至ってシンプルな疑問だ。


「うーん、俺はやっぱりお前の唇が1番好きだな。ほら食べちゃいたいぐらい、可愛いってやつだよ。」

「そう、ありがとう。」

「もう冷たいんだから!アタシがこんなに頭悩ませてるの初めてなのよ!?もう。」

「ふふ、何でオネェ口調なの。」


笑った彼女は何倍も可愛くて、俺はそんな彼女の笑顔の口が本当に大好きだった。すると、メモを書き終えた彼女は俺にそのメモを渡す。


「はい、これ買ってきてね。」

「えーなになに…カレーのルーに人参、ジャガイモ、牛肉、キッチンバサミ?これって家になかったか?」


食材ばかり書かれたメモに、ハサミが書いてある事に気づいた。家にあるキッチンバサミはまだ使えるはずなのに。すると、彼女はこう言った。


「あのハサミだと駄目なの。小さくて使いにくいから、新しいの買ってきてくれる?」

「りょ〜うかいでぇす!今日は俺の大好物のカレーだからな、さっさと行ってくるか!」


スーパーに行き、メモ通りに買ってきた物を彼女に渡す。今日の夕飯楽しみだが、最近の日課であるジョギングをしてから夕飯を食べる事にした。


「はっ、はっ…これだけ走れば良いよなぁ。いやー、ちょー運動したわ俺。」


5キロ走った所で、家に帰る。足がだるく、口の中が血の味がするが、その後に彼女が作ったカレーを食べれるので気持ち的にはまだ軽い方だ。


「ただいま、いや疲れたよ。って、そのクロマスクどうしたんだよ。」

「風邪」

「おいおい大丈夫か?飯食えるのか?」


彼女は汗ばんでおり、血色が悪い。そして、俺の質問に首を横に降った。何だか一人で食うのは申し訳ないなと思うが彼女は机にあるカレーを食べてほしそうにしている。


席に着いて、スプーンで1口食べてみる。やはり、俺の彼女の作ったカレーはスパイシーで丁度良い辛さだ、旨い。


「うま、久しぶりに食べたけど旨いなぁ。」


彼女は俺を見て目を細めた。そのマスクを外して、笑顔を見たかったが風邪になりたくないのでやめた。どんどんスプーンの手が止まらなくなってきた所で、何か弾力のある肉が口に入った。


味は豚とも牛の中間で、鉄分が豊富に取れそうな感じだ。旨いは旨いけど何の肉かは分からなかったから彼女に聞いた。


「なんか隠し味とかある?」


彼女は首を縦に振るが、何も言わなかった。俺は食べ終わると台所に食器を置くと、血だらけの新品のハサミを見つけた。


「あー買ってきた肉ってこんなに品質が悪かったんだな。古いだけかもしんねぇけど。」


俺は特に気にもしなかった。だがこの強い消毒液の匂いはなんだ?怪我をしたのだろうか。


しかし彼女のどこを見ても怪我はない。俺が真剣に見たのが面白かったのか、ニコニコしている彼女を見て俺も笑顔になった。


その後、俺は潔癖症になり人が作った物を食べなくなった。




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