メイド・イン・異世界〜退屈だった人生に花束を〜
切見
第1話 憂鬱な朝
15年。
まだ、たった15年しか生きていないというのに、人生というのはどうしてこうも退屈なのだろうか。
まぁ、そんな歳で人生を語るなとはよく言われてしまうが、それでもつまらないものはつまらないのだ。
刺激を求めて生きる。そんな人も多いことだろう。
同じような日々に、何も変わらない日常。
何か面白いことが起きないかと淡い期待を胸に抱きながら、毎日を過ごしている。
しかし、今日も今日とて同じ天井が、俺を見つめていた。
重たい体をベッドから引き剥がし、まだ眠りたそうにしている脳を無理矢理叩き起こす。
俺の一日は、憂鬱な朝から始まった。
「あっ!おはようございます。ご主人様」
俺の朝は決まっている。モーニングルーティンというやつだ。たまには朝からやる事を変えてみると、新鮮な気分になって楽しいのでは無いだろうかと思うこともあるが、朝とうのは一日の中でも極端にやる気の無い時間なのだ。そんな時間に、学校へ行く支度以外の何をすると言うのだ。
まずは洗面所で歯磨きをする。顔も洗う。こうするとサッパリして、完全に体が目覚めるような気がした。
先にトイレに行きたい気持ちは山々だが、その前にそれらを済ませなければ気持ちが悪い。
トイレにはその後で行く。
それから水を一杯。眠っている間に脱水症状になっている人もいらしいので、これは結構大事。特に夏は、暑くて汗をかいていたりするので要注意だ。
おっと、忘れちゃいけない。
俺は、寝室……というかリビングへ戻って、ベッドを確認した。
朝起きてすぐにベッドを整える。これをすることで、もう一度ベッドに入ってしまうことを防……あぁ、ベッドは整えていたか。無意識のうちに、いつの間にか整え終えている。これが、日課の怖さだ。
「ご主人様、朝食は何になさいますか?」
次は朝食だ。
高校生で一人暮らしというのは、結構大変なことが多い。
そのひとつとして、自炊がある。
毎朝早起きして、自分で朝食を作らなければならないのだ。
まぁ、大体面倒くさくて、食パンで済ませてしまうが。
「あっ、私がやりますので!ご主人様はゆっくりなさっていてください!」
……ふむ。何だか今日は、やけにトースターが重たい。
まるで誰かに引っ張られているかのような重さだ。
まぁいいか。
とりあえず別のことをしよう。
いつもは、トーストを焼いている間に着替えているが、今日は先に着替える事にした。
「あぁ!私がお手伝いします!」
......ふむ。服は何故か軽い気がする。
まるで何者かが俺の服を持ち上げてくれているようだった。
着替え終えると、再びキッチンへと向かった。
いつの間にか、既にテーブルにはトーストが並べられていた。
トースターが重たくて使えなかったと思ったが……どうやら俺は無意識のうちにトーストしていたらしい。これが日課の怖さ……ってさっきも言ったか。
まぁとにかく、俺は落ち着いて席に着く。
「他に何かやることはございますでしょうか?」
「……」
俺は、真横にある気配を無視しきれず、思わず振り向いてしまった。
「……」
「なんなりと」
あぁ、分かっている。
だが俺が寝起きというのもあるし、もしかしたらまだ夢の中という可能性だってある。というより、寧ろその可能性に賭けていた。
しかし、これはどう足掻いても無視できない事実だ。
夢なんかではなく、これが現実。トーストが焦げて、ほろ苦く感じるのがその証拠だった。
「……いつからだ」
「はい?」
「いつから俺の部屋にいるんだ.....?」
俺は、謎の人型生物に向かって疑問を投げかけた。
女の子。
そう、その人型生物は、女の子の形をしていた。
そして、メイド服。
どこからどう見ても、メイドである。
つまり、俺の部屋には見知らぬメイドが、いつの間にか、どこからともなく湧いて出た訳である。
朝、起きてからずっと俺に付きまとって来て、俺のやること全てにちょっかいをかけてきた。
もちろん身に覚えはない。俺は一人暮らしだからと言って、メイドを雇うほどにお金持ちでは無いし、そんな欲も無い。いや、欲はあるが。
しかし、今目の前にいるのは紛れもなくメイド姿の女の子なのだ。
「これは現実では無い。何か幻覚を見ているのだ」と自分に言い聞かせて来たが、どうやら受け止めるしかないようだ。
「え、えっと……今朝……です」
「.....ふむ」
という事は、その時既に俺はこの部屋に居たということだ。
てっきり、俺がいない隙に入ったのかと思っていたが.....まぁ、この人が嘘をついている可能性もあるか。
「一体何者なんだ?そんな、メイドみたいな服を着ているが……俺はメイドなんて雇った覚えはねぇぞ」
「はい。私は、対魔物用護衛型メイド。ロメリア=アルメリアです」
「え?」
「残念ながら、あなた様のメイドではございません。ですが、今はあなたにお仕えしようと思っています。嫌……だったでしょうか?」
「あぁいや、そういう意味では……」
じゃあ、嫌じゃないのか?それも違う気がする。
そもそも根本から間違っているのだ。
俺は別に、他の人のメイドが嫌だとか、そういう話をしているんじゃない。
「なぜ俺の部屋にいるんだ?君はその.....えっと、俺とは別の主人のメイドなんだろ?」
「はい」
「それがなぜ俺の部屋に?どうやって入って来たんだ?」
「分かりません……気付いたらここに……」
気付いたらって……あぁ、そうか。きっと、そうなのだろう。
もしそれが本当だとすれば、これは『転移』というやつなのでは無いだろうか。
『異世界転生』、もしくは『異世界転移』。それは、フィクションの世界での事象だ。
しかし似ている。
もし、この人が異世界から転移して来た人なのであれば……色々と面倒くさいことになりそうだ。
「─────って、そんな訳無いか」
馬鹿な妄想も大概にしろ。
そんな事が現実に起こる分けないだろう?目を覚ませ。
こんなもの、ドッキリか何かだろう。
そうだドッキリだ。全く、タチの悪い企画だ。
こんなことを考えた奴の気が知れないぜ。
第一、この人はガッツリ日本語を喋っているじゃないか。
どこの誰だか知らないが、随分と大掛かりなドッキリを仕掛けてくるじゃないか。
それともなんだ?『朝起きたら女の子が部屋にいて、異世界から転移して来たと言われても、最近の若者なら信じちゃう説』みたいな?そういう企画なのか?
「あの、ご主人様」
なぜ本当は他の主人に仕えているという謎の設定をしているのかは知らないが、これは間違いなくテレビの企画だ。どうせ人間を観察するバラエティか何かだろう。もしくは、水曜日にやってるやつとかか。
しかし問題は、何よりこのドッキリに乗るかという所だ。
気付いていないフリをして、誰だか知らない仕掛け人どもを喜ばせるか、それとも早い所この状況から解放されるか……。
「ご主人様!」
「うおっ、何で……何だ?」
何ですか?って言うところだった……。
この人が役を演じていると分かった時点で、何だか急に他人感が出てきてしまった。
「あの、私は何をすれば.....」
「何をすればって.....あっ!」
しまった!学校があるの忘れて……
「……今日何曜日だ?」
「ナンヨウビ……とは、何でしょうか?」
とぼけているメイドは放っておいて、スマホを確認。
……土曜じゃねぇか。
「何だ休みか、焦ったぁ」
朝から頭がパニックで、何もかも忘れてしまっていた。
そうか、まぁ学校があるのにこんなドッキリ仕掛けてこないよな。
「……」
なら、いつまで続くんだろう?と、思う俺だった。
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