暴君
心地よいYouTubeの睡眠導入を聴いていると、大音量の通知音が両耳をつんざく。
上半身がびくっと驚き、本当に不意をつかれた。
「んだよ……、ようやく落ちそうだったのによ」
両目までもつられて起きて、暗転したスマホ画面に指を走らせた。深夜三時。朝でも夜でもない、中途半端な時間……最悪。何の通知だと画面上部をスワイプして確認すると……やはり、ゲームアプリからだった。
おいやれよ、三日もログインしてねぇじゃねぇか――端的にまとめるとそんな感じだ。うっせーな、俺は躊躇なくそのアプリを削除した。
無料の脳トレゲームで暇潰しにもってこいなんだが、アプリの開発元が海外なので、中途半端な時間帯に通知が入るのだ。一問解く毎に飛ばせない広告挟んで来るのも相まって、ストレス解消なのに余計なストレスになって返ってくる。負のスパイラルだ。
いい気味だ。声をあげなければ、歯向かってこなければ、こういうことにはならなかったのにな。ブサイクな顔が、月明かりに反射した。眼鏡をかけていない顔なので、一層ブサイクに映っている。
……独裁者というのは、こういう感じなのかもしれない。深夜に俺はふと思う。
そうだ! この際、容量をがっつり確保しよう。近々事前登録したソシャゲをインストールしないといけないし。
暇さえあればアプリを入れることに時間を費やしていたから、要らないアプリは沢山ある。目が冴えている間にやってしまおう。
ともすれば、まず……と、指先が機転を利かせてホーム画面上を滑っていく。
ホーム画面に居座るアプリ群を探索。四角い枠のなかに収められ、一ヶ所に固められたアプリの群生に目を留めた。
暇潰し用のかわいいゲームたちだったが……ああ、いたいた、こいつだな? 上限ストレージが三十
おいお前! ゲーム村(?)の長を気取りやがって! 今まで私腹を肥やしてんだ!
「え?」
え?じゃねぇだろ。
毎週毎週、要らないアップデートをかましやがって。百何
それに、通知が毎度
ガチャしろ、ガチャしろ――ってよ! こちとら勉強してんだ! 三日前も昼前に鳴りやがって、担任に怒鳴られちまったよ――お前のせいでな。
「そ、それはお門違いです! 電源を、あるいは通知を切ればよかったんですよ! 設定で!
それに、自分は前の機種からいる、長年あなた様に遣えてきた最古参の――」
そんな言い訳が聞こえてきて、俺は笑みを浮かべてしまった気がする。
アプリの分際で何様? と。課金してないし、君にはそこまでの価値はないんだよ、とも。
そう思ってしまったんだから仕方ない。さあ、最後に言いたいことはあるか? ――とでも主張するように、指は胸ぐらを掴む形で数秒間押し続けた。
システムポップ。
『このアプリをアンインストールしますか?
はい いいえ』
よし、これで5Gが空いた。清々する。
さぁて寝るか――あ、しまった。空けたはいいが、リリース日まで一ヶ月も先だった。これは誤算、見切り発車だった。
まあいい、あとで別のアプリを入れればいいだろう。今は睡眠導入のASMRに心を委ねるのが先決。
ああ、癒される。深夜の穏やかな音楽と、絶えず押し寄せてくるさざ波――
……
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