第72話 佐々木君の家族

門をくぐるとそこには、

江戸時代かと言うような佇まいの建物があった。


「ここ、佐々木君のお家なんだよね?

凄いね~」


そう言いながら僕は周りを見回した。


「東京にもまだこういった所があったんだね~

ほら、向こうには蔵が見えるよ!


ひゃ~ あの中って骨董品とか、時代物がウヨウヨとか?


鎧を着た侍の人形とか、

刀とか、ずっとさかのぼった家系図とか、

お宝が眠ってそう……」


「ハハハ、先輩って想像力豊かですね。

別に特別なものは置いてないですよ。

それにもう古くなってて、

僕の家では取り壊しをしようかってなってるんです」


「え~ そんなもったいない!

リフォームとかできないの?


ほら、いま古民家のリフォームみたいなのYOUTUBEで出てるじゃない。


僕、結構ああいうの好きなんだよね」


「ハハハ。じゃあ先輩、僕の祖父と父を説き伏せて下さいよ!」


「え……」


そう来ると僕も途端に委縮する。


「冗談ですよ!

でもほんと、古くなって危ないので近寄らないでくださいね。


さあ、母屋はこちらですよ」


「へ~ 母屋なんて言葉、使ったことないや~

さすがこれだけの大きさの屋敷だけあるね~

じゃあさ、もしかして離れとかあるの?」


「ありますよ、昔の使用人が住んでいたみたいで、

今では一つは僕の部屋になっているんです」


「凄いね! 使用人なんていたんだ……


じゃあ、離れも一つじゃないんだね」


「そうですね~ 3つ……

いや、5つあったのですが、2つは取り壊しになりましたね。

後の3つはリフォームをして僕が一つ、兄が一つ、

それぞれ自分の部屋として使っていますね~

そしてもう一つ、一番広いところを今の使用人たちが使っています」


「え~ なんて贅沢な!


でも今でも使用人は、居るには居るんだね~


じゃあ母屋にいるのはご両親?」


「そうですね、両親と、祖父母ですね……」


「佐々木君、何の面白みもない両親って言ってたけど、

こんなところを維持してるなんて凄いじゃない!」


「いや、基本的には先祖が築たものだから……」


「謙遜しちゃって~

築いたのは先祖だろうけど、

この格を維持するのは、君の祖父母やご両親の努力のたまものだと思うよ?」


僕がそう言うと、彼は何だか泣きそうな顔をした。


「先輩にそう言ってもらって嬉しいです。

ありがとうございます」


「まったく、大げさだなぁ~

僕は普通に一般人が思うことを言ったまでだよ。


で? 佐々木君が僕をここに呼んだ理由は?」


「そうそう、先ず、母屋へ行って祖父に挨拶しましょう。


家では知人を連れてくるときは祖父に挨拶する決まりなんです!」


「え~ お祖父ちゃん、怖くない?」


「ハハハ、大丈夫ですよ!」


そう言って彼は、僕を母屋へと案内してくれた。


母屋へ入ると、やっぱりお手伝いさんみたいな人がいて、


「お帰りなさいませ、

お茶はお部屋まで運びますか?」


と尋ねられたので、一瞬にして僕は緊張してしまった。


佐々木君はさすがに慣れているのか、


「お祖父様に挨拶してきますので、

その後に僕の部屋にお願いします」


そう言って、先へと進んでいった。


と言うか、母屋の廊下も長くて、一体いくつ部屋があるんだろうと、

僕は相変わらずきょろきょろとしていた。


「先輩、ここが祖父の部屋です」


佐々木君の掛け声に、緊張が極限まで達した。


佐々木君はふすまを隔てて声をかけると、

彼のお祖父さんが入ってるよう僕たちを施した。


彼のお祖父さんは縁側で椅子に座り、外を眺めていた。


「お祖父様、今日は私の学園で、

いつもお世話になっている先輩を連れてまいりました。

ご挨拶よろしいでしょうか?」


佐々木君がそう言い終わると、

お祖父さんは


「うむ……」


と一言言ってこっちを振り向いた。


“お父さん……!”


僕は思わず声が漏れてしまった。


その声を聴いた佐々木君はわずかにピクッとして、


「こちらが佐々木陽一先輩です」


と僕を紹介した。


僕は彼の祖父を見て、硬直してしまった。


“なんてお父さんにそっくりなお祖父さん何だろう……

お父さんが年を取ったら、きっとこんな感じだ……

同じ苗字だし、何処かご先祖様で繋がっているのかもしれない……”


おぼろにそう思った。


「初めまして、佐々木陽一です。

よろしくお願いします」


そう言って僕はお辞儀をした。


顔を上げもう一度彼の顔を覗き込むと、

彼の顔は真っ青で今にも倒れそうな感じだった。


「あの…… ご気分は大丈夫ですか?

顔色が悪いようですが……」


彼は僕の顔をマジマジと眺めると、


「いや、大丈夫だよ。

心配かけてすまないね。


陽一君と言ったかね?


今日は良く来てくれたね。

悠生は学園ではどうなのかな?」


“なんだ…… 怖いと思ったけど、

結構フレンドリーなお祖父さん?”


「悠生君はですね、とても人気があるんですよ。

友達もたくさんでですね、

勉強も凄いんですよ!


委員会もまじめだし、

僕もよく助けられてます」


僕がそう言うと、佐々木君が


「先輩、僕の事、そんな風に思っていたんですか?」


とぼそぼそと言ったので、

彼のお腹に肘鉄を食わせた。


彼のお祖父さんは僕たちのやり取りをニコニコとして眺めると、


「これからも悠生と仲良くしてやって下さい」


と言った。


「それはもちろんです!」


と答えると、


「陽一君と言ったかな?


これからも、遠慮なく遊びにおいで」


そう言ってくれたので、


「ありがとうございます!


お祖父さんも、体には気を付けて」


そう言うと、彼は目を見開いて、

うん、うんと頷いた。


「じゃあ、先輩、僕の部屋へ行きましょう」


佐々木君がそう言ったので、


「そうだね」


そう言って立ち去ろうとしたらお祖父さんが、


「あっ…… 君の父親は今は……」


そう言いかけて、


「いや、何でもないんだ。

じゃあ、楽しんで」


そう言って僕たちを送ってくれた。


彼の部屋を出た後僕は、胸をなでおろして大きく息を吐いた。


「ハ~ 緊張しちゃった!

でも、佐々木君が言う様に優しいお祖父さんだったね!」


そう言うと、彼は複雑そうな顔をして、


「それは先輩だったからですよ!」


と言った。


「え? それどういう意味?」


「先輩が明るくて朗らかだから、

お祖父さんにもそれが移ったんだって意味ですよ!」


「な~んだそう意味か~

それにしても僕びっくりしたよ!


君のお祖父さんって、僕のお父さんに双子のように瓜二つなんだ!

お父さんが年取ったらああなる感じ。


声だってそっくりだよ?

凄いね。 ここまでそっくりさんっているんだね!


やっぱり、お父さんって年取ってもカッコいいんだな~


それに同じ苗字だし、きっとご先祖様が一緒なんだよ!」


僕がそう言うと、


「先輩って……」


そう言って佐々木君が僕の方を馬鹿にしたように見るので、


「なに~ 何が言いたいの~」


と詰め寄ると、


「やっぱり可愛いですね!」


とからかったようにして言った。


「ねえ先輩、今日は僕の家で夕食を食べて下さいよ!

いつも辛気臭くて、先輩が居たらそんな食卓も明るくなるかも?!」


「え? そこまではお世話にはなれないよ!」


「大丈夫ですよ!

ほら、お祖父さんも、先輩の事気に入ってくれたじゃないですか!

きっとお祖母さんも先輩に会ってみたいと思いますよ?」


「え~ でも……」


一応躊躇はしてみたけど、

押しの強い佐々木君に言いくるめられ、

結局僕は夕食まで残る事にした。


夕方になると、お祖母さんが、

シュミの習い事兼井戸端会議?から帰ってきた。


「ただいま~ ああ、疲れたわ。

あら、誰か訪ねてきていらっしゃるのかしら?」


そう言う声が奥の方から聞こえてきた。


この時は僕は佐々木君の離れにある部屋から

母屋の方へと戻って来ていた。


「はい、悠生様のご友人と言う方が訪ねてきていらっしゃいます」


「あら、そう、珍しいわね。

家にはめったに人を寄せ付けないのに……」


そう言って居間に入ってきたお祖母さんは、

想像していたよりも随分若く見えた。


僕はすぐさま席を立つと、


「初めまして。

佐々木陽一と言います。


悠生君とは学園でご一緒させていただいています。


同じ苗字がご縁でお招きいただきました。

よろしくお願いいたします」


そう言って深々とお辞儀をすると、

お祖母さんは僕の手を取って、


「陽一君? 本当に陽一君なの?」


そう言って泣き出したので、

僕は訳が分からず佐々木君の顔を、


“?????”


としたようにして見た。


“お祖母さん、何だか僕のこと知ってる?

佐々木君がお家で僕のこと話したりしてたのかな?


それにしても凄い感激ぶりじゃない?

そんなに佐々木君に友達がいたの嬉しいのかな?


そういえば友達を家に呼んだことないような口振りだったな……”


当の佐々木君は


“お祖母さんに合わせて!”


とでもいうようにして見ていたので、


「はい~ 佐々木陽一です~」


と僕はオロオロとしながら繰り返し、繰り返しそう伝えた。


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