第62話 体験入学

「良太さん! 良太さんですよね?

大我君の撮影で何度かお会いしましたよね?」


「あ、やっぱりそうか?

えーっと、名前は何て言ってたっけ?」


「陽一です! 佐々木陽一!」


「そうそう、そう言う名前だったな」


「ひゃー、ビックリ!

良太さん、この学園だったんですか?

学業とモデル業って両立できるんですか?

確か海外を回ってますよね?」


「モデル業は控えめにやってるから問題ないな」


そう言うと、一緒に受付をしていた人に


「ちょって席をはずしても良いか?」


と尋ねて僕達を構内へと案内してくれた。


「陽一だったよな?

一度ゆっくり話してみたいと思ってたんだよな。


スタジオで顔を合わせても、

会釈ばかりですれ違いばっかりだったしな。


最近は大我の付き添いとかしてるのか?」


良太さんは大我君のモデル事務所の先輩だ。


「いや、僕は大我君の付き添いというか、

いつも木村君に便乗してるだけで……」


「でもお前、ポールが来日してた時、

ポールと仲良さそうにしてたよな?

一体どうやって仲良くなったんだ?」


「え? その場に良太さんも居たんですか?」


「まぁな〜 ポールが来てるって聞いたから

会いに行ったんだよ。

そしたらお前と仲良さそうに話してたから、

結局話せなくてな、

ガッカリして帰ったんだよ……」


「そうなんだ!

御免なさい!

まさかポールに会いに来てる人がいるって思いもしなくて……」


「っていうのは、まあ冗談だけどな。

その後、事務所の方にも顔を出してくれからな」


ときたので、ムキーっときた。


「ハハハ、お前、面白いな」


「全然おもしろくないですよ!

ポールは遠い親戚なんです」


「はっ?! それ冗談だろ?」


「本当ですよ。

僕、フランスで生まれたんですよ。

その時家の母が居候してたのがポールの実家で

ポールは僕のフランスでの叔父さん的存在だったんです」


「はーっ、凄いな。

引退した今でもモデル達に憧れて止まないポールが

叔父さん的存在って……


それにフランス生まれだなんて、

お前、良いとこのボンボンなのか?」


「プフフ、何ですか? 良いとこのボンボンて……

僕は普通に一般市民ですよ」


「でもそこまで綺麗な顔をしてポールの知り合いって、

モデルのスカウトされた事あるだろ?」


「そんな事有りませんよ!」


とは言ったけど、

実際は結構スカウトされたりとかした。


智君はその真実を知っていたけど、

僕に合わせて何も言わずに隣に立っていた。


「そっか、お前、良い物持ってるのに勿体無いな。

それで…… そっちの彼は同級生?」


「ハイ! 新庄智樹と言います。

陽一とは幼稚園と中学校が一緒です!


先輩、よろしくお願いします!」


「俺はまだ1年だから先輩はつけなくって良いよ。

ここは陽一と一緒に受けるの?」


智君はハイと言おうとしたけど僕が咄嗟に


「違うよ、僕は付き添いで来ただけ!」


と言ってしまった。


「そうなのか? 陽一も受けろよ。


入るのは難しいかもしれないけど、

一旦入ったら楽しいよ?


自由な校風だし、

学業も自由体制なんだけど、

不思議と皆メキメキと能力を上げるんだよな。


絶対気にいると思うよ。


そうだ、俺の通っていた塾を紹介するよ。

ちょっと待って」


そう言いって良太さんは僕と智君に

塾の情報を書いたメモをくれた。


俺からの紹介って言えば顧慮してくれると思うよ」


「と言う事は……」


「ああ、入塾試験があるんだよな」


「そっか〜


智君はいいかもしれないけど、

僕は無理かも……」


「まあ、そう言わず顔だけでも出してみな?

絶対気にいると思うぞ?」


「やけに自信満々ですね?」


「いいから、いいから、

智君って言ったよね。

ちゃんと陽一引っ張って行ってな。


絶対大丈夫だから!


じゃあ、俺は受付に戻るから、またな!」


そう言って良太さんは突風のように受付まで戻って行った。


「お前、顔広いな。


何処へ行っても知り合いにぶち当たるな。

それもモデルだなんて……」


「智君だって大我君と仲いいじゃん!」


「え〜 大我だぞ?

ちびっ子モデルと仲良くても〜」


「何言ってるの!

最近大我君すっごい人気出て来てるんだよ。

その内きっと、抱かれたい男#1になるかも」


「でもやっぱり、お前の顔の広さには負けるわ」


智君にはそう言われたけど、

ここで良太さんに会った事が僕には事件だった。


まさか雲の上のような学園に知ってる人が在校していたなんて……

これまで遠く感じていた学園が一気に近く感じた。


もしかしら僕でも頑張ればいけるかも?

そんな恐ろしい思いさえ浮かんでき始めた。


「智君、僕両親に相談してこの塾に連絡してみるよ!」


「あ、待って、待って、陽一が行くんだったら、

俺も行く、行く!」


そう言いながら僕たちは校舎へと入って行った。


体験入学は午前中だけだったので、

割かし早く終わった。


「楽しかったね!

僕、本気でこの学園考えてみようかな?


まぁ、落ちたときは落ちた時だしね。


滑り止めに都立の高校も受けておいたら大丈夫だよね?」


「じゃあさ、この塾にいったん行ってみようぜ。

早速、月曜はどうだ?」


「そうだね、善は急げっていうし、

月曜日に行ってみようか?」


そうやってどんどん話が進んでいった。


両親に相談すると、二人とも僕の好きな様にしろと言ってくれた。


月曜日になって放課後智君と一緒に塾まで行くと、

学長さんの所まで案内され、


「待ってたのよ~」


と大歓迎された。


なんとこの塾を経営していたのは良太さんの母親だった。


“道理であんなに進めるわけだ……

もしかしたら僕達って顔パス?”


とさえ思わせた歓迎の仕方だった。


学長にあいさつした後、

僕たちは副学長になる良太さんのお兄さんという、

城之内鷹也という人に塾内を案内してもらった。


塾は中学生と高校生の部門に分かれていて、

僕たちは中学生の部門を案内された。


それぞれの部門でも、さらにまた分かれていて、

一つは進学、受験用のカリキュラム、

もう一つは学校の補修を目的としたカリキュラムが組まれたものだった。


僕はどんなに逆立ちしても、

進学用にはまだいけない。


智君は進学用を選んだけど、

僕は学校の補修のカリキュラムを選び申し込みをした。


そしてそこで軽く能力を見る学力テストを受けた。


僕が緊張していると、良太さんのお兄さんは、


「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。

君たちが受け入れられるのは決まってるから。


良太の小さなお友達を落としてしまっては、

良太に叱られるからね」


と、とてもやさしく言ってくれて僕は少しホッとした。

だからこの実力テストもリラックスして受けることはできたけど、

やっぱりうまく出来なかった。


余りにもの出来の悪さで、早まってしまったと、

テストが終わってしまった後で少し後悔した。


結果を待つ間、ドキドキとして凄く緊張した。

智君は自身満々だったようで、

口笛を吹いて応接室にあった参考書などをパラパラとみていた。


30分ほどして良太さんのお兄さんが応接室に戻ってきた。


ちょっと難しい顔をしていたようなので、

もしかしたダメすぎて受け入れられないのかもしれないと、

僕は半分あきらめていた。


「じゃあ、テストの結果だけど、

智樹君は思いの外良かったので予定通りに、

進学コースの特進に入ってもらうことにして、

陽一君は……」


と来たところでドキッとした。


「ハハハ、そんなに緊張しなくっても大丈夫だよ。


そうだね、陽一君は少し頑張んないといけないかな?

だからね、僕がワンツーマンで受け持つことにするよ。


おそらく、そうだね~

夏休みが終わって……

秋ごろには補助クラスに移れるかな?


そして様子を見ながら進学コースに移って行こうね」


と言われたので僕は腰を抜かしそうなほど驚いた。


「えっ?! ワンツーマン?

そんな授業もあるんですか?」


「いや、実際は無いんだけどね、

良太に君が来たら絶対セントローズに受からせてくれって

頼み込まれてね。


良太には借りがあるから断れないんだよ……

って言ったらちょっと陽一君に失礼にあったてしまうね。


大丈夫だよ。

これも自分の腕試しだよ。


モチベーションが上がって僕としてはホクホクだよ」


そう言って城之内先生はウィンクをした。


その仕草が矢野先輩のようで僕は少しドキッとした。


それから僕たちはそれぞれに分かれて、

智君は進学クラスの講師と面会し、

僕は城之内先生と個室へと向かった。

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