第42話 大我君との出会い
あれから僕は、木村君と凄く仲良くなった。
今日は木村君の噂の君を見てみるべく、
木村君のお宅にお邪魔していた。
「紹介してもらったドクター、
凄く良かったよ。
親身になって相談にも乗ってくれたし、
僕の気持ちにも理解を示してくれたし、
お薬も、今は試しみたいな感じだけど、
副作用も無く、大我君のそばに行っても、
前ほど苦しくは無いんだ」
そう言って木村君は喜んでいた。
そんなふうに話す木村君が僕は凄く羨ましかった。
会った時は同じようなスタート地点にいたのに、
今では木村君の悩みは僕とは違うところへ移り、
僕だけが同じ所で足踏みをしている。
「所で陽一君の方はどうなの?
矢野先輩とは何か進展があったの?」
そう尋ねられても、
胸を張って報告出来る事は何も無かった。
それに僕の方は未だ発情期のはの字も無い。
何時の間にか僕はかなちゃんの身長も随分超えて、
矢野先輩ほどではなくても、
あまりΩの可愛さがなくなってきた。
髪は相変わらずかなちゃんのようにフワフワだけど、
身長が伸びて、少し男っぽくなった僕の顔には
あまり似合わなくなってきたような感じさえする。
最近は、かなちゃんの可愛さと見比べて
溜息を吐く事が多くなった。
「あ、来た来た、あれが大我君だよ」
そう言ってグループで向こうからやってくる
小学生の団体の一人を指さした。
「どれどれ? どの子?」
今時の子供の成長は早い。
小学校低学年というのに、
体格が良い。
どの子が大我君だろうと木村君の指さした方を見ると、
一人だけ他の子よりも頭ひとつ分だけ飛び出た男の子が、
木村君を見るなりにっこりと笑って
「お兄ちゃん!」
と手を振りながら木村くんの事をそう呼んだ。
「すごいね、彼は本当に8歳?
既に10歳くらいの貫禄があるね。
それってやっぱりαだからかな?」
確かに、後2−3年もすれば、
木村君とそう変わらなくなりそうな
勢いだ。
「彼の父親が大きいから、
きっと彼も大きくなるんじゃ無いかな?」
そう言って木村君は彼の元へ走っていった。
「大我君、今帰り?」
嬉しそうに話す木村くんは、
大我君の隣に並んでも、
そう違和感はない。
今は兄弟のような感じだけど、
恋人同士に見えるものそんなに時間は掛からないだろう。
あれから木村くんの大我くんに対する気持ちを
じっくり、ゆっくり問い詰めた。
木村くんは、恋愛感情かはわからないけど、
とても大切な存在だということは認めた。
二人の間に、言葉では表せない絆があるそうだ。
それは単なる近所に住む男の子や、お兄さんではなく、
ファンタジーを用いていうと、
前世の恋人同士が生まれ変わって巡り会えたというような感覚らしい。
これからゆっくりと、焦らずに恋愛に発展させて、
その絆を大切にしていくと木村くんは僕に説明してくれた。
僕の場合、矢野先輩が僕の運命の番だということは100%では無い。
ただ、僕が矢野先輩から他の人とは違う匂いがあるというだけで、
それ以上でも以下でもない。
でも僕はその中で矢野先輩に恋をした。
恋をするには十分な時間を彼と過ごした。
時には彼の行動で、勘違いしてしまう時がある。
そういう時の彼は残酷だ。
僕はもしかして?という期待の感情を抱えながら、
次に会う時に、何時もと変わらない先輩の態度に肩を落とす。
彼の気持ちはさっぱりと分からない。
救いなのが、彼に女性の影が見えないことだ。
もしかすれば、うまく隠して誰かと付き合っているだけかも知れないし、
そこのところは、今の僕では分からない。
僕が木村君と大我君を羨ましそうに眺めていると、
「こちらのお兄さんは?」
と大我君が僕の事を訪ねて来た。
「大我君って……言うんだよね?
僕は佐々木陽一です。
木村君とはお友達なんだよ」
そう自己紹介した。
すると一緒にいた子供たちがワラワラと周りに集まってきた。
グローブやバットを持っているところを見ると、
少年の草野球チームに所属しているのだろう。
良く見ると、着ている服も、
野球のユニフォームだ。
「早い時期から野球してるんだね」
僕がそう尋ねると、
「そりゃな、野球の強い高校に行って、
甲子園が目標だからな」
そう言って、歯の欠けたガキ大将のような子が
えっへんと鼻をかいてそういった。
この年の子はまだ恋愛よりも、
スポーツらしい。
実に微笑ましい。
「大我君は野球やらないの?」
一人だけユニフォームを着ていない大我君に僕は尋ねた。
するとガキ大将っぽいさっきの男の子が、
「大我は野球はやらないんだよな。
キッズモデルやってるからな。
顔に怪我をするとダメなんだって」
そう言って大我君のほっぺをそっとツネった。
僕が木村君の方を見ると、木村君も初耳だったみたいで、
凄く驚いていた。
するとまたその子が、自分の自慢話のように、
「大我今度、どっかのキッズブランドで、
外国のキッズとコラボやるんだよ。
すごいだろ?」
と豪語していた。
「大我君、そうなの?
すごいね!」
僕がそう言うと、大我君はあまり嬉しそうじゃ無かった。
「どうしたの?
あんまり浮かない顔だね?
外国人とっていうのが緊張なのかな?」
僕がそう言うと、
「僕、本当はモデルなんてやりたくない……
でもこれは良いチャンスだからって僕のマネージャーが……
せっかくフランスから有名なモデルがやってくるから、
海外への糸口にするチャンスだからって……
僕にとってモデルなんてどうでもいいよ!
僕もみんなと一緒に野球がしたい!」
大我君はそう言って泣き出した。
「そっか〜
やっぱそうだよね……」
僕がボソッとそう言うと、
「向こうのモデル、
ジュリアって言うみたいだけど、
聞いた話によるとワガママな子みたいで……
僕、ただでさえモデルなんてやりたくないのに、
そんな子とだなんて嫌だよ!」
「え? ジュリア?
今ジュリアって言った?」
大我君は僕を真っ赤な目をして見上げると、
「うん、お父さんがポールって言う凄く有名なモデルだったみたいで、
母親が日本人だから、
ジュリアも日本語が流暢なんだって……
ポールも日本語流暢らしい、モデル事務所も持ってるらしくって、
だからこの話が持ち上がったって……
僕のマネージャーなんて小躍りしてて、
彼女のお父さんに会うのがマネージャーの目的みたい。
すごいコネクションになるって……
僕は彼の事は良く知らないんだけど、
日本でもかなり有名だったって……
お兄ちゃんたち聞いたこある?
フランスで凄く有名だったけど、
15年くらい前に急に引退したって……」
しょんぼりとしながらそう言った。
「う〜ん、僕たちの生まれる前だから
僕は聞いたことがないな〜
それに外国人のモデルなんて普通に聞かないし、
それよりも大我君がキッズモデルしてるなんて知らなかったよ!
頑張ってるんだね」
木村君がそういうと、
「両親と買い物してるときにスカウトされたんだ。
本当は野球のもの、その時に買うはずだったんだ……
それが……
一瞬にしておじゃんだよ…
両親は舞い上がってるし、嫌だって言ったけど聞いてくれないし……」
そう言ってまた泣き出した。
木村君も困り果てたようにして僕をみた。
僕は思いがけず出てきた懐かしい名前に、大我君の言っているジュリアが、
僕が5歳まで一緒に育ったあのジュリアだと言う事がすぐにわかった。
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