第22話 陽一君の秘密
「おはよう先輩!」
「おはよう。
2人とも早いね~
起きたらもう陽一君が居なかったから
びっくりしたよ。
ティーンなんて、お昼まで寝てると思ってたよ!」
そう言いながら起きて来ると、
「朝ごはん準備しなくちゃだから、ね?」
と、要君は陽一君と微笑み合った。
昨夜は初めて陽一君と手を繋いで眠った。
ただそれだけだったのに、
僕の心はとても満たされていた。
陽一君は寝つきが良い。
きっと規則正しい生活を送っているのだろう。
これも要君や裕也の子育ての成果だろう。
先に眠ってしまった陽一君の
ス~、ス~と聞こえる寝息がとても愛おしくて、
ずっとこの手の温かさを守りたいと思った。
陽一君の温もりを知る度に強くなる僕の感情……
そして陽一君がΩだと分かって、
僕の中に生まれた不確かな思い。
今まで経験したことが無い、要君の時とは違う感情……
色んな経験をして、
色んな思いをしてきたのに、
まだまだ知らない感情が沢山あるんだ……
それを陽一君が教えてくれている……
これを父性愛、家族愛と呼ばないのなら、
一体、何と呼べばいいのだろう?
要君と一緒に料理をする
陽一君の後姿を見ながらそう言う風に思っていた。
陽一君はもう殆ど要君と同じような背の高さまで来ている。
後ろから見ると、13歳よりも大人に見える。
二人仲良く話をしながら立っていると、
まるで兄弟のようだ。
この前まで僕の腰よりも低い位置に居たのに、
今では胸の高さまで成長している。
陽一君には、子供のままでいて欲しい僕の思いとは裏腹に、
ドンドン成長していく彼の事を思うと、
やり場のないやるせなさが込み上げてくる。
そんな二人の後姿を見ながら、肩越しにコンロを覗くと、
陽一君がだし巻き卵を作っていた。
「凄いね、陽一君も料理するんだ!」
「先輩、Ωの男性はいついかなる時でも、
女性が出来る事は出来るようにしておかないと、
何時母親になるか分からないんですよ!
陽ちゃんなんて、8歳位から料理のお手伝いしてますよ!」
「あれ? そう言えば、8歳になるお嬢様は?」
僕がそう言うと、
「あ~ちゃんはパパとお買い物です。
ワガママお嬢様は、
ご飯よりもパンが良いんだって」
と要君が返した。
裕也も彼女には頭が上がらない。
我儘お嬢様に一直線のような気もするが、
やっぱり僕でも頼まれるとフニャフニャとなってしまう。
でも、陽一君が料理をしている姿は始めてみた。
この8年、何度もここに通ったのに、
実際に台所に立ってエプロン付けてるのは初めてだ。
これまで既に出来た物は何度かごちそうになったことがある。
「ウワ~ 美味しそう!要君も料理上手だよね」
僕がそう言うと、
「僕はお母さんに鍛えられたから……
陽ちゃんを妊娠してるって分かった時、
従兄の家から独り立ちしてアパート暮らしすることにしたんです。
その時にお母さん、フランスまでやって来て
僕の事みっちり仕込んでいきましたよ。
まあ、従弟のお母さんにも沢山フランス料理を学んだんですけど!」
「だったよね。
要君、僕にもフランス料理ふるまってくれたもんね」
「それより先輩、
お泊り会はどうでしたか?
陽ちゃんとはどんな話したんですか?」
要君のその質問に、
僕は陽一君をチラッと見た。
陽一君は涼しい顔をしている。
「昨夜は一杯話したよね」
そう言ってまたチラッと陽一君の方を見た。
すると、
「かなちゃんには秘密だよ」
と、更に涼しい顔をして陽一君が言った。
「え〜 どうして僕には秘密なの?
僕にはいえない話?
あっ〜 陽ちゃん!
僕の愚痴じゃ無いよね!
僕があんまりアレしちゃダメ、
これしちゃダメって煩いから!」
「ま~ それは最もだけど、
かなちゃんはもっと僕を先輩のところにお泊まりさせてくれたら
パーフェクトなんだけどな〜」
「何言ってるの!
陽ちゃんまだ13歳でしょう?
早い早い!」
「13歳って言ったらもう皆んなお泊まり何度も経験してるよ?
それに先輩の所だから一番安心できる所でしょう〜」
「何言ってるの!
先輩の所が一番危ないじゃない!」
「え? 要君、それどう言う意味?」
「だってもし万が一、何かあったらどうするの?!」
「君も裕也も一体この前から何?
なんか僕の事疑って無い?
そりゃ陽一君の事は大好きだし、
何時も一緒に居るけど、
僕が陽一君を襲うか心配だって?」
そう冗談混じりに言うと、
「いや、そう言う事じゃなくて、
もし陽ちゃんが先輩のとこで発情期来たら……」
「大~丈夫だよ!
これまでだって色んな危機を乗り越えてきてるし、
要君の時だって大丈夫だったじゃ無い。
一体何年僕と付き合って来てるの?
いい加減僕の事分かってるでしょう?」
「でも先輩は……」
要君がそう言おうとした時陽一君がいきなり、
「かなちゃん、それ以上は言ったらダメだよ」
と牽制をかけた。
「何々、陽一君。
今度は僕に隠し事?」
僕がそう言うと陽一君は僕の事をチラッと見て、
「先輩、ティーンエイジャーなんて
秘密の塊で出来た物体なんだから、
秘密があるのは当たり前!
その秘密は聞いたらダメなんだよ。
そのくらいの事でグチグチいわないの!」
と宣言した。
僕は思わず要君に、
「ちょっと~ 要君聞いた?
何? 陽一君、反抗期?
第二次反抗期なの?
陽一君は秘密の塊なんだってよ!
どうする?」
と言ったけど、
要君は苦笑いするばかりだった。
世の中の親は本当にあっぱれだ。
僕等の時も同じだったのかもしれないけど、
ナイーブな思春期の子供たちは扱いが難しい。
陽一君も例外ではなさそうだ。
でも心が成長してるって事だから、
良い事ではあるのかもしれない。
でも、ここで扱いを間違えば
飛んでも成人になる可能性も否めない。
ここでちょっと邪な考えが浮かび上がった。
“まてよ?
旨く行けば、マイ・フェア・レディーが出来上がるんじゃ?
丁寧に、丁寧に陽一君を扱って行けば、
何時か僕の理想のΩになれるかも……
あ、イヤ、ダメだ、
だからと言って僕の運命の番になる訳では無いんだ。
あ~ 運命の番も自分の手に掛けることが出来れば……
陽一君を僕の運命の番に出来るのに……”
等と考えていたら、
「じゃあ、朝食準備できたから、
朝食にしよう。
先輩お椀取って貰えますか?」
と要君が声を掛け、
初めて自分はちょっとあっちの世界へ
飛んでいたんだと言う事に気付いた。
「先輩、何考えてたんですか?
何だかちょっとトリップしてたような顔してましたよ」
そう要君が言うと、
「うん、うん。
先輩、アホみたいな顔してたよ」
と陽一君も同意したので少し自分の邪な考えが恥ずかしくなった。
でも一つだけ分かったのは、
陽一君は僕に対して何か秘密があると言う事だった。
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