第16話 要君への尋問と僕の思い

暫くすると要君のお母さんも帰宅し、

懐かしの再会を果たした僕達は、早速本題に入った。


僕はとりあえず、

今から話すことはプライベートな事で、

自分が口出しをするべきじゃないけど、

出来る限り要君の助けになりたい、

と言う事を前置きに話し始めた。


要君も、それに同意した。


要君の同意が得られたところで僕は

一番聞きたかった質問を要君にぶつけた。


「陽一君の父親って、裕也だよね?」


要君は小さく頷いた。


その時僕の頭にあったのは、


“あれだけ口を酸っぱくしていったのに、

避妊しなかったのか?”


だった。


「君達、避妊はしなかったの?」


そう尋ねると、要君はうつ向いたまま首を振った。


「どうして避妊しなかったの?」


そう尋ねると、要君は言い繕った様に言い訳を始めた。


僕が要君をじっと見据えると、

要君は自分でそれは言い訳だと気付いた。


僕だって健全な男だから一度始まってしまうと

急にはやめれないって事は分かる。


だからこそ、それに対して準備できることもあると思う。


彼らはそれを怠ったわけだ。


だからこうして陽一君が出来たわけだが、

逆算してみると、

要君が妊娠したのは、まだ17歳の高校2年生。


17、8で一人で子供を産んで育てるって言う事は、

簡単には出来ないはずだ。


今彼等の生活に裕也が居ないと言う事は、

要君は一人で陽一君を産んでいるはず。


それも異国の地で。


「ねえ、もしかして、

裕也とはその時に番ってしまったの?」


僕は尋ねてみた。


陽一君が居ると言う事は、

恐らく二人は番っているだろう。


多分番わなくても子供は出来ると思うけど、

要君からΩ特有の甘い香りがしない。


要君の返答によると、

やはり彼らはその時に番っていたようだ。


それに陽一君のパパは知らない宣言。


その意味は裕也は要君の傍に居なかったと言う事。


αと番ったΩに取って発情期に番が傍に居ないって、

一体どういうものだったんだろう……


それを思うと、

要君が不憫でならなかった。


「ねえ、陽一君はパパの事知らないって言ってたけど、

裕也とはどうしてるの?

今でも連絡とってるの?」


僕がそう尋ねると、

どうやら裕也とは日本を離れる前に別れたらしい。

それに連絡も取ってないと言う事だった。


その時一つの疑問が湧いた。


“もしかして要君が陽一君を産んだ事、

裕也は知らない……?”


そこで更に尋ねてみた。


「陽一君の事に対してはどうしてるの?

裕也はちゃんと責任取ってる?

認知はしてあるの?

ちゃんと養育費とかもらってる?」


その瞬間要君が顔面蒼白になった。


それでわかってしまった。


「もしかして、陽一君の事……

裕也は知らないの?」


要君は凄く慌てていた。

どうやら陽一君の事を裕也には知られたくないらしい。


僕は直ぐにピンときた。

何故要君が別れを決めて

裕也と別れる事にしたのか。


あの父親の事だ。

きっと要君の事を突き止めて

別れさせるために金を握らせようとしたんだろう、

手切れ金とか何とか言って……


それに家族を手玉に取って脅したに違いない……


でも、7年経った今でも、

要君の裕也への気持ちは少しもぶれて無かった。


でも、その気持ちが僕には痛々しくて悲しかった。


もしその気持ちが僕に向いてくれたら……

僕だったら絶対君の事を泣かせたりしないのに!

親からの重圧からだって君を守ってあげるのに!


そう思うと、胸が苦しかった。

そして反面、裕也の事が凄く憎らしくなった。


僕があんな思いを抱えて日本を発ったことを知ってるのに、

要君をこんな窮地に追いやって……


あれだけ要君の事を頼むと言ったのに……


そう思うと、悔しくて、悔しくて、

要君の求めるのが僕じゃないと言う事が更に悲しかった。


僕はこの事実を聞いた時、

初めて本気で日本を離れた事を悔やんだ。


でも要君は続いて、


「もし、出来るなら力を貸して欲しい」


と僕に告げた。


要君は裕也を奪い返すために、

裕也の父親と戦うと心に決めたようだ。


要君に頼られるのは凄く嬉しい。


でも僕も帰国してから裕也とは連絡を取っていない。

だから彼が今、どのような位置に居るのか分からない。


要君は、裕也に恋人が居ようが、

結婚していようが、

裕也の状況が知りたいと僕に言った。


そして出来れば会いたいと。

そして、裕也の状況が、裕也にとって最適の状態でない場合は、


「奪いに行く!」


そうとまで宣言した。


“成長して強くなったな……

要君がフランスへ行ったのは良かったのかもしれない……”


僕はそう思った。


でも要君には一つだけ問題があった。


僕には直ぐに分かった。


「陽一君の事だよね?」


僕は尋ねた。


すると彼は、


「はい。 これは僕の勘なんですが、

おそらく陽一は……」


と言い始めたので、僕は


「Ω…… だよね?」


と言った。


もし陽一君がΩであるとすると、

それが裕也の父親に分かってしまったら、

きっと取り上げられるだろう。


そして要君や裕也に知られずに、

きっと手が届かない所へ養子に出してしまうだろう。


それが分かって僕は要君を見つめた。


要君は、どうしてわかるの?とでも言うように、

ビックリして僕の方を向いて、


「先輩…… どうしてそれが……?」


と不思議そうに尋ねた。


「いや、分からないよ。

でもそう感じるんだ。

確信的な根拠は無いけど、

陽一君はΩだって僕の中の僕が言ってる……


何故だろうね?

まだ5歳でΩの匂いがするでもなければ、

今日初めて会ったばかりでそんなに話しても居ないのにね」


そう言いながら、先ほど陽一君の部屋で

経験したことを思い出しては頭の中で打ち消した。


“あれ? もしかして僕ってΩな陽一君に反応してドキドキしてた?


イヤイヤ、それは無いだろう……


5歳だよ?


まだまだΩの香りどころか、

数年前まではオムツを履いていた筈だ。


そんなお子様に僕が発情するはずが……


え? え? そうなの?


イヤイヤ、それは無いだろう……

バカらしい……


あんなに可愛い子供に初めって会ったから、

きっと僕の頭がお花畑化してるんだ。


実際に可愛くて、可愛くて、

目に入れても痛くないって感じだったし。


うん、きっとそうだ!”


そう思っていると束さず要君が、


「先輩…… もしかして…… ロり……?

もし陽ちゃんがΩだとしても陽ちゃんはあげませんよ!」


と笑いながら僕に投げかけた。


僕は図星を差されたようにたじろいだ。


“え? やっぱり僕って要君から見てもロり……

それってヤバくないか?

それってマジで犯罪者だぞ?”


焦ってはみた物の、ここは何とか繕わないと本当に犯罪者になってしまう。


「ハハハ、何言ってるの!

僕はロリコンじゃないし、

犯罪者にもなりたくありません!

出来れば、陽一君が成人するまでには

僕も運命の番を見つけたいんだけどね!」


と、かなりキョドっているのが自分でもわかる。

キッと知らに人が見たら、

今の僕はきっと挙動不審者に違いない。


でも確かに陽一君の事が裕也の父親にバレるのは得策ではない。


裕也は少なくとも要君と話合う必要がある筈だ。


だから、


「ねえ、裕也に電話してみようか?

要君、まだ連絡して無いんでしょう?」


と言ってみた。


要君は躊躇していたけど、

僕が個人的に帰国の報告って探ってみるから、

横で聞き耳立てててって言った。


そして携帯を取り出したけど、

裕也の番号は7年も前に消してもう覚えていない。


でもそこは流石要君。

7年連絡していなくても、

愛しい人の番号は覚えているらしく、

直ぐに教えてくれた。


そこで僕は裕也に電話してみた。


でも結果は、


「お掛けになった電話番号は現在……」


裕也にその電話がつながる事は無かった。















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