究極の決断
「んー……」
窓から差してきた朝日で目を覚ましたあたし。
ああ、そうか。あの後何とか宿を見つけて、そのあとは直ぐに疲れて寝落ちして……って感じか。つか、戦闘服のまま寝てんじゃん! 白い服がヨレヨレになってる……たしか鞄に替えがあったから、それに着替えよ……
戦闘服を着替えて、髪も整えた。部屋を出て、隣のアネラの部屋に向かう。
「アネラおはよう……ってあれ?」
そこに、アネラはいなかった。散乱した部屋の中、あったのはぐちゃぐちゃになったアネラの鞄だけ。
雷姫、ソフィアの部屋、エレナの部屋も見て回ったが皆同じように異様に散乱した部屋で、人の気配は感じられなかった。
ベランダから庭を見ることにした。もしかしたら皆もう下かもしんないし。
「!?」
嘘……思わず絶句した。
庭にあったのは四人の魔導書。開いて放り出されていたそれは一ページもなく、びりびりに破けていた。
念のためシャルセーナとエルリエルを持って外に出る。予備のストスリックも忘れずに。
転がっている魔導書は全て踏みつけられたような跡があった。フェルナンデス家に伝わる魔法陣に関しては、原形をとどめなくなるくらいズタズタに。やった奴は大体予想できる。しかし、あの四人は何処に行ったのか……そこが一番心配だ。捉えられて殺された、なんてことがあれば大変。でもどこにどう行けばいいの?
そう思っていた時、足元の魔導書のページが視界に入った。
視線を前に戻してみると、ページが道を作るようにして落ちていた。
もしかしたら、こっちに行ったのかもしんない——!!
あたしは魔導書のページを辿った。しばらくすると、暗く、危険そうな森の前に着いた。この中に入ると思うと恐怖で足がすくむが、そんなことを言っている場合じゃない。
「エステラ・ルス……」
ボソッと呪文を呟き、体に星光を纏う。星たちと一緒と考えれば、怖くもなんとも思わない。むしろ勇気が湧いてくるようだ。
しばらく歩くと、巨大な石造りの門の前に辿り着いた。魔導書のページはここまで続いているが、ここのページはほぼ粉々にされている状態。
あたしは門を思いっきり蹴り飛ばしてみる。すると、門はゆっくりと開いていった。
門の奥は紫の怪しげな靄に包まれている。その靄はだんだんと晴れていき、そこにいたのは……
王の座るような椅子に座り、黒い軍服を着て足を組む、ソフィアによく似た若い男……デスグラシア・ムルシエラゴ・エリオット。
「来たか、『星々の従者』」
不気味な笑みを浮かべてあたしを嘲笑うような目で見るデスグラシア。ソフィアの父親であり、ムルシエラゴの皇帝。
「星々の従者よ、エステラの蒼い星を我らムルシエラゴに還し、エステラを消滅させろ。我らよりこの世界を奪った恥を知るんだな」
蒼い星を……ムルシエラゴに還す……?
星がなくなったらエステラは消滅してしまう。それに、こんな最低な奴にあたしの大切な蒼い星を渡すなんて、絶対にできるわけがない!!
「あなたたちなんかに、あたしたちの大切な蒼い星なんて、絶対に渡せるわけがないわ!! さっさとエステラから立ち去りなさい!!」
自分の目をできる限り冷酷な表情にして、きっと睨む。ああ、あたしの目はこんな風に人を睨むんじゃなくて、綺麗で美しい星々を眺めるためにある筈なのに。そう考えると悲しく、涙が出そうになった。
「ほう。そこまで言ってまで渡さないのか」
少し感心したように言ったデスグラシア。なんなんだこいつ。自分の愛しい世界なら渡さないのが当然じゃないのか?
「ええ、そうよ。エステラのことが好きだもん。好きなものは誰にも邪魔できないし譲れないわ!!」
シャルセーナをデスグラシアに向ける。こいつには力づくで叩き込むしかないのか……
「本当に、渡さないんだな?」
憐れなものでも見るかのように笑うデスグラシア。どこが憐れなんだか。お前の方が十分憐れだと思うけど。娘に見捨てられてさ!
なんて皮肉を言っている場合じゃない。
「ええ!!」
珍しくきっぱり言い切る。その時、胸にスーッと風が通ったような気持がした。きっぱり言い切るって、こんなにも気持ちよかったんだ。
デスグラシアは「ふっ」と笑う。
「そうか……お前はエステラが死ぬほど好きなのか。じゃあこいつらとエステラ、どっちが大事か、選べ」
デスグラシアは隣にいた従者らしき人に合図を出した。
――目を見張った。
黒い柱に拘束されていたのは、他の誰でもなく、あたしの大切な仲間であった――
「さあ、こいつらを選ぶのか? それとも、この世界を選ぶのか? 迷え……迷うんだ……!! 星々の従者よ……!!! ハッハッハッハッハ……」
滑稽に笑うデスグラシア。
「レウェリエ!! エステラを守って!! お願い!!」
「あたしたちが居なくても、レウェリエならどうにかなる!!」
「エステラを選んで! そして、こいつを倒して!!」
「早くエステラを選んで!!」
四人の悲痛な叫び。胸が痛い。
あたしたち、これからどうなっちゃうの? 仲間を犠牲にしなくては、エステラは救えないの?
「判んないよぉ……」
気づけば涙を流していて、床に倒れてしまった。
「まだ判断できないか。じゃあ、判断ができるまでこいつらを切り苛むとするか……」
デスグラシアは杖で魔法陣を描く。そして、呪文を唱えた。
「ストコノ・ニュクテリス!!」
黒いナイフのような風は、四人の体を切りつけた。
「「「「痛い、痛いっ!!! 助けて!!! いやああああああ!!!」」」」
木霊する痛々しい叫び。地獄絵図とは、こういうことを言うのだろうか。
聞いていられないよ、こんなの。残酷すぎる。辛い。見てるこっちまで痛い。
「いっそ殺して楽にして……お願い……」
「早く、エステラを選ぶんだ……」
「逃げて……レウェリエだけには辛い思いをさせたくないよ……」
「あたしたちはいいから……」
あたしは血を吐くほど努力をしても、この四人の痛みを分かち合ってあげることはできない。
どうすればいいの……本当に……
デスグラシアと、重すぎる責任に、殺されそうになった。
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