第13話 ゴブリン戦
とりあえず、アリスが感知した何かが、ゴブリンであることにホッとする。
もし、ホーンラビットとかなら、肩透かしを食らうところだったからな。
ゴブリンは3体で、先手はゴブリンにあった。
最初に飛び出してきたゴブリンは、ある程度太い木の枝を握っていて、振りかぶっていた。
後手に回ってしまったアランは、手に持っている剣で、それに打ち合う。
だが、ジョブの恩恵のせいか、その枝と剣が鍔迫り合いになることは無く、アランの剣は枝を綺麗に切断して、ゴブリンの肩から胸にかけて剣が入り込む。
その光景を見た、残り2体のゴブリンは多少たじろいだ。
その一瞬の停止を見逃さなかったアリスは、ナイフを投げ、2体の胸と足に1本ずつ刺していた。
「アラン!手前をお願い!」
アリスは一言、そう言ってナイフが胸に刺さっているゴブリンにとどめを刺しにいく。
またもや、いつのまにか握っている投げたナイフより少し大きい短剣を使って、ゴブリンの首を静かに切る。
そして、ナイフによって足を奪われ、機動力を失ったゴブリンは腕を振り、必死の抵抗を見せる。
しかしアランの一撃により、その腕もろとも頭をかち割られ、命を失う。
3つの命が30秒も経たないうちに消えた。
初めての、武器を持ったモンスターなうえ、奇襲してきたモンスターに難なく勝てている。
「流石だな。ジョブを授かって、初めての戦闘でここまで上手くいくとは思わなかった」
「そうですよね。俺が最初のゴブリンを簡単に倒すことができたから、楽に行けたんですよ」
「アランはただ迎え撃っただけじゃないの。私のサポートのおかげでしょ」
「何言ってんだよ。結局ゴブリンを倒したのは俺の方が多いんだぞ」
2人の口論は白熱している。
それも、周りの状況が見えないほどに。
「レインさんはどっちのおかげで、さっきの戦いうまくいったと思いますか?」
「俺はどっちも選べないな。なぜなら、まだ戦闘は終わってないからだ」
俺がそう言い切ると同時に、周りの草陰から6体のゴブリンが飛び出してくる。
しかし、そのゴブリン達の足元から、黒い棘が伸びて来てゴブリン達を串刺しにする。
もちろん、この黒い棘の正体は俺が操っている影だ。
俺がこいつらを感知できたのは理由がある。
まず、戦闘後だからといって油断してないからだ。
そのうえ、影を地面に広げていたから、影に触れたゴブリン達に気付くことができた。
ちなみに、俺の動かせる影の量は少し増えている。本当の限界を知ることで、限界が増やせたのだと考えている。
「戦闘が終わっていないとはこういうことだ。今までは好戦的なモンスターはいなかったからよかったけど。ここからはゴブリンみたいに襲ってくるモンスターが多くなる」
「すみません!ありがとうございます」
「謝罪を口にする必要はない。誰でも経験する出来事だからな。次から気をつけるだけで十分だ」
「分かりました。これから気をつけます」
それから、ゴブリンの解体をすることになった。
と言っても、ゴブリンの肉はあまり美味しくない上、可食部が少なく、人型ということもあり需要がほぼ皆無である。
だけど、ゴブリン唯一の需要あるものは首の骨である。だが、これも需要が高いわけでは無く、買い取るとしたらこれしかない程度のものである。
この骨の用途としては、砕いて家畜の餌に混ぜるか、肥料として使うらしい。
そのことを2人に説明したところ、骨を餌に使うと家畜の病気の危険性は無いのか、なんて質問が出て来たが、そんなのは俺の知ったことじゃない。
あとで、メリナにそれとなく聞いてみたところ、ゴブリンは骨に栄養を集めて、肉部分には最低限の栄養しか回さないらしい。だから、そんな重要な部分は、病気の元となるものは入ってこないようになっているらしい。
と言っても、ゴブリンの栄養なんてたかが知れてるため、骨の中でも一番栄養が高い首の骨だけ、価値が少しあるらしい。
その首の骨が討伐の証拠となるため、合計9体分の解体を行なった。
ゴブリンが出てくる範囲の端ということもあり、解体中はゴブリンは現れなかった。
首の骨以外の部位は、そこらへんに集めて置いておくことで、3日前後でスライムなどがその死体を消してくれる。
「2人ともどうする。すでに目標数は達しているけど、まだ奥に進むか?」
「まだ目標数に達したと言っても、半分以上はご主人様の手柄じゃないですか。それに元々5体で終わらせる気はなかったんで、ガンガン奥いきたいです」
俺とアリスはアランの言い分に納得して、奥に進むことにした。
その後も、ゴブリンを中心にモンスターを狩っていた。
そして、周りにゴブリンの死体が積み上がって、日もまた真上に上がったところで、昼食とすることにした。
「ゴブリンが6体ぐらいまでなら、安定して倒せるようになったな」
アリスがナイフで足止めして、アランがトドメを刺すという形が一番安定して勝てている。
本当は戦闘の立ち回りとかは、俺から指導するつもりだったけど、ジョブの恩恵なのか、2人の動きは俺が口出せるほど杜撰なものではなかった。
「解体は後回しにして、先に昼食でも取るか」
俺はそう言いつつ、周りに積み上げられた未解体のゴブリンを影の中に収納していく。
解体中にもゴブリンは襲って来て、次々とゴブリンの死体が出来上がっていくのだ。
流石に死体の山の中で、ご飯は食いたくないから、解体は後回し、正確には森の端で行うつもりだ。
昼食は、サンドイッチという食べ物だ。
これはアリスの世界であったという食べ物で、俺が好きな料理の一つでもある。
このサンドイッチに使われているマヨネーズというものは、とても美味しくて、俺は好きだ。これもアリスが作ったものだ。
これらは、アリスがたまに働きに行ってる宿屋(調理場を貸してくれた場所)での有名な食べ物となっている。
他にも、いろいろアリスが考えた料理はある。それら全ては俺の好物になっている。
ゴブリンとの戦闘に、一段落ついたからしばらくはやってこないだろう。もし襲って来たとしても、サンドイッチは簡単に食べれるからすぐに対応することができるだろう。
そんなことを考えていたけれども、昼食時にはゴブリンは襲って来ず、落ち着いた時間の中、昼食を終えることができた。
昼食後も、先ほどと同様に、奥に進みながらゴブリンを狩っていく。
時間的に、そろそろ折り返してゴブリンの解体を済ませたいと思い始めた時、アリスが血相を変えて叫ぶ。
「なにか、とてつもない速さで近づいて来ます!」
アリスがそう言い切る前に、その「なにか」というのは目前にまで迫って来ている。
その「なにか」の進行方向、つまり俺たちとの間に影の柱を下から伸ばす。
しかし、そいつは影に接触することはなかった。
影に触れる前に進行方向を変えたらしく、俺たちの隣に悠然と立っていた。
そいつは、白色、いや銀色の毛皮を纏った、高さ3mぐらいある狼であった。
この森に、こんなやつが出てくるなんて、見たことない上、聞いたことすらない。
未知なるモンスターに対してやることは一つ。先手必勝で倒す。
ということで、ここら辺一帯を俺の影で黒く染めあげる。そして、狼の足元から影を伸ばす。
完全な不意打ちにも関わらず、その狼は軽々と俺の影を避ける。
しかし、さっきの動きでそれは予測済みだ。だからこそ影を広げたのだ。
影で狼の存在を感知すると同時に、狼を倒す棘を伸ばす。たとえ俺の死角に入ったとしても、対応できる。
この作業を数回繰り返す。この間に、狼は俺たちの周りから離れようとは一切せず、明らかに俺らを狙っていることがわかる。
だが、攻撃も一切して来ない。ただ、俺の攻撃をかわすので精一杯で攻撃する余裕がないのだろうと納得する。
俺が狼の動きに慣れてきて、狼が俺の影を避ける時に、飛んでかわしてることに気付いた。
流石の速さはあるものの、空中をあの速さで避けれるはずもないと踏んだ俺は、次のタイミングで仕掛けることにした。
狼が俺の影を踏み、俺は影を伸ばす。さっきと同じように狼は軽く飛んで、避けようとする。しかし、飛んだ瞬間に地面や木々などに広げていた影を、全て狼に仕掛ける。
狼は身を捻り、避けようとするものの、俺の影から逃げれるはずもなく、簡単に捉えることができた。白銀の美しい毛並みは、漆黒の影に包まれることとなった。
とりあえず、一度安心できる状態になったから、一息つく。影の中に手を入れて、水筒を出して、その中身を喉に流し込む。
「ふぅ。2人とも大丈夫か?」
俺はそう言って、アラン、アリスのいる方向を見る。
アリスは、目を見開いて驚いた表情をしていた。
アランは、汗を拭いながら、安堵した表情を見せる。
影で触ってる感覚的に、俺の影ではこの狼の首を切ることはできないと思う。無理矢理頭を潰したり、首を引きちぎったりはできそうだけど、それやると綺麗で貴重そうなこの素材が台無しになるから、出来るだけしたくない。
だから、アランに任せることにした。
「アラン。お前にこのモンスターを倒してほしい。俺のジョブだとトドメを刺せないから、お前に任せたい」
「ちょっと待ってください」
「どうした?もしかして、アランの実力じゃないから、トドメを刺したくないとかか?」
「いや…違うんですけど…。とにかくちょっと待ってください」
アランが何をやりたいのかはよく分からないが、とにかく待ってみることにする。
アランとアリスのやりたいことは、出来るだけやらせてる。なぜなら、俺には思いつかない良いことがやってくるからな。
****設定****
ゴブリンの肉部分に最低限の栄養しか回さないようになったのは、他のモンスターに食べられないようにするため。お肉が不味かったら、積極的に襲ってくるのは減るから。
でも、骨を活用する人間には利用されちゃうという、ちょっと可哀想な生物。
だから、筋肉ムキムキのゴブリンを見つけたら要注意。筋肉が発達するほどの栄養を取れるほど強く、倒そうにも骨は頑丈だから、防御力も高いことがわかるから。
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