第26話 恐るべき野望。其の壱
俺が馬車で冒険者ギルドに到着すると、ギルマスが選抜隊と共に外に出て来た所だった。
「甲魔馬の馬車とは考えたな…しかもコイツはデカいな…」
「何でも赤種と言う種類で群れのヌシだったみたいです。力も強いし防御力も高いですよ」
「まあ、悪くない選択だ。お前には持ってこいかもな。…それとお前の上でフワフワ浮いてんのはテイムした魔獣か?」
「コレはゴーレムですよ。メフィストさんという錬金術師に頼みまして造って貰いました」
「メ、メフィストだと??あの偏屈錬金術師にこのへなちょこゴーレムを造らせたのか??」
「へなちょこって…かなり優秀ですよウチのゴーレムのアインは…メフィストさんはタレットさんに紹介してもらったんです」
「ああ…あいつ等気が合うみたいだからな。しかし良くまあ造らせたな…変人同士で気が合ったのか?」
「ま、まあそんなトコです」
適当に話を合わせて置く。下手に喋るとゴーレムの核を大量に持ってた話とかあまりしたく無いからな。
「用意が出来てる奴から出発してくれ。選抜隊のリーダーはAランクのミカエルだ」
すると細身のエルフの男が後ろから現れた。中々の威圧感…コレがAランカーって奴か。
「ミカエルだ。選抜隊はスピード重視で行く。各自出来るだけ早く現地に向かってくれ。現地で集合してそれから騎士団と合同で処理に当たる。それでは出発してくれ!!」
なるほど…とにかく早く行くって言うのは賛成だね。
俺はそのまま馬車を走らせた。
スピード重視とあって俺を抜かして行った馬車が多かったが、最終的に一番早かったのは俺達だった。
何故なら他の奴らは馬を使っていたからどうしても休ませなければならない。
しかし、甲魔馬のブラッドは水飲みと食事の休憩以外はほとんど休み無く走ったので、後は夜だけアインに手綱を任せて走らせたのだ。その結果ぶっちぎりの一位だったのである。これだけ走ったにもかかわらずブラッドは涼しい顔である。
現地に到着して直ぐにパトリックさんの居る天幕に顔を出した。
「おお、サルナス殿!早かったですな!」
「後から選抜隊がやって来ます。本隊はその後になりますね。取り敢えずAランカーのミカエルさんが選抜隊のリーダーです」
「ミカエルが?そうですか!それは心強い!」
「ミカエルさんをご存知で?」
「元いたクランのメンバーで色々と教えて上げました…まあ弟子みたいなものですかね」
「なるほど…そうですか。それで選抜隊のリーダーを任せられたのですね」
「ギルマスのゴールドアイはそういう所に気遣い出来る男ですから…」
へぇ…意外と気遣いの人なのか。俺には無茶振りしかして来ないイメージなのだが…。
「魔獣の方はどうですか?」
「サルナス殿が調べた後も少しずつ増えてる様ですな…しかし動きがおかしいのです」
「動きがおかしい?」
「所謂”スタンピード”の様な状態ならば魔獣達はどんどんと街などに進行してるはずなのですが、ご存知の通りあの場に居て全く動く気配が無いのです…こんな事は初めてですな」
「なるほど…って事は…意図的にここに留まってるって事ですかね?」
「意図的…それは何とも…しかし魔獣は増え続けている」
「それでは少し調べさせましょう。アイン!来てくれ!!」
アインは俺について来てた様で突然姿を現した。パトリックさんが腰の物に手を掛けるのを俺が止める。
「俺のゴーレムのアインです。アイン、姿を消して洞窟内を調べて来てくれ」
『了解しました。調査開始します』
アインは再び姿を消すと洞窟内に向かった様だ。
「サルナス殿がゴーレムを操るとは知りませんでした…」
「まだ造らせたばかりなのですが、恐ろしく高性能で俺も驚いています」
「何と!造らせたのですか??制作にはゴーレムの核が必要では?それにあの姿はミスリルで造られてる様でしたが…」
「流石に良くご存知ですね。ゴーレム核とミスリルはダンジョンのドロップアイテムで手に入れた物なんです。ゴーレムの制作はメフィストと言う錬金術師に頼みました」
「何と!あのゴーレムはメフィスト殿が造ったゴーレムなのですか??なるほど…それならあの奇妙な形も納得出来ますな」
「えっ?パトリックさんもメフィストをご存知なのですか?」
「もちろん!彼は元宮廷錬金術師であり、元Sランクの冒険者でもありますからね。我々の時代の冒険者でメフィスト殿の名を知らぬ者はおりませんよ」
コレは驚きの事実である…元宮廷錬金術師はもしかしたら…とは思っていたが、まさか元冒険者でSランクだとは予想もしていなかった。
「元Sランク冒険者ってのは本当なのですか??」
「ええ、もうかなり昔の事ですがね。自ら錬金術の素材集めにダンジョンに潜ったり魔境に行ったりと凄腕の冒険者だったんです。しかし、宮廷錬金術師に推挙された為に冒険者を辞めて貴族となったのですが、王国でちょっとした問題を起こしてしまって…それで宮廷錬金術師も辞めて…しばらく姿を消していたのですが、何年か前に突然今の場所に現れましてね、それが今の状況なのですよ」
「貴族とは思ってたのですが…そう言う事だったんですね。確かに凄腕の錬金術師には違いないし…」
「錬金術師としては全ての種族の中でも5本の指に入る存在です。彼の造ったゴーレムを持っているのは素晴らしい事なのですよ。大事にされると良いでしょう」
なるほど…アインのあのとんでも無い能力は偶然の産物などでは無く、メフィストだからこそ産み出す事が出来たのだろう。俺はとんでも無い人物に無茶な依頼をしてしまったのかも知れない。
しばらく待っているとアインが戻って来た。
『報告します。洞窟の外に居る魔獣は2473体、洞窟内に居る魔獣は4681体です。その最奥の場所で召喚術が行われており、計算では後36分12秒後に巨大な魔界獣が召喚されます。直ちに供物となる魔獣達を倒して召喚術を止める事を推奨します』
「なっ!何だと?魔界獣の召喚術だと?一体誰がそんな事を…」
『魔人と思われる者が召喚術を行っていた模様。正体は不明です』
「魔人だと…これは不味い。とにかく直ぐにでも止めないと…表に居る魔獣だけでも倒して召喚術を止めましょう。魔人が出て来たら私が相手をします」
「パトリックさん、いくら何でも魔人を一人で相手は無理です」
「コレでもAランカーの端くれ…何とかしましょう。とにかく魔獣を少しでも削らなくては…」
パトリックさんは騎士団や傭兵達に直ちに攻撃開始を告げた。俺も魔獣武装(ビーストアームス)でラッキーとガッツをメタモルフォーゼした。
「アインは馬車の金具を外してブラッドを自由に出来る様にしたら、此処から魔素砲で魔獣を倒してくれ。そして魔人が出て来るのを感じたら俺に念話で知らせてくれ。頼んだぞ」
『了解しました。魔人が出て来たら直ちに逃げる事を推奨します。今の勝率は0%です』
「…まあ、そうだろうな…しかし何とかしないと…頼んだぞ」
俺は魔獣達を出来るだけ倒す為に魔獣達の中に突っ込んで行った。
パトリックさん率いる騎士団と傭兵は士気も高く、次々と魔獣達を倒して行った。
俺もファイヤーブレードやプラズマブレードで根こそぎ倒して行った。
3分の2ほど倒した頃にアインからの念話が飛び込んで来た。
『巨大な魔力が外に向かっています。直ちに避難して下さい』
「パトリックさん!!魔人が来ます!!」
俺は洞窟の前に陣取って『朱刃』を構えた。
するととんでも無い魔力が洞窟内から飛ぶ様にやって来た!!
「プラズマブレード!!!!!」
俺は『朱刃』を袈裟斬りにして斬撃を飛ばした!!が、巨大な魔力に打ち消された様だ…。
〘君達、これ以上の供物の減少は困るのですよ…〙
その声は俺の左側から聞こえて来た。
その瞬間、俺は吹き飛ばされていた…何が起こったのか理解出来ない。
「サルナス殿!!!」
遠くからパトリックさんの声が聞こえる…俺は吹き飛ばされたのか?…立ち上がる時に何か違和感を感じていた。
『朱刃』を杖の様にして立ち上がろうとしたその時にようやく違和感の正体が分かった…刀を掴もうとする左腕が無かったのだ。
あの一瞬で俺の腕ごと吹き飛ばされていたのだ…理解するとようやく痛みが襲って来た。
「ぐっ…クソッタレが…」
〘ほう、頑丈ですね。腕しか無くなってないとは…意外でしたよ〙
魔人は真っ赤な目を細くしてニヤリと笑っていた。
「も、もっと面白いものを見せてやるよ…」
俺はガッツのスキルを使う。
『超再生』はその場で俺の左腕や脇腹の傷を再生していった。
〘コレは面白い!君は人族なのに…何者なのだ?少しだけ面白くなってきたな…ウヒヒヒ!!〙
「こっちは面白くねぇっつうの…」
俺は『朱刃』を構えたが、如何すればいいか分からなかった…何しろ相手の攻撃が見えないのは魔獣武装(ビーストアームス)のスキルを獲得してから初めてだった。
鑑定を使ってみたが相手の情報は何も出てこない…看破出来ないのだ。
〘ほう…鑑定持ちの様だな。だが無駄だ、お前では看破は出来ぬぞ〙
その時パトリックさんが魔人に斬りかかった!!魔人は苦もなくそれをかわす。
「サルナス殿!!早く逃げなさい!!小奴は私が何とかする」
〘ほう…少しは出来そうだな…ならば貴様から遊んでやろう〙
このままではパトリックさんも長くは持たない…如何すれば…。身体が自然と動いて俺はパトリックさんと一緒に戦っていた。
◆◆◆◆◆◆
目の前で主であるサルナスが魔人を相手に戦っていた。
彼が勝てる確率は0%だと教えたにもかかわらずだ…全く理解出来ない。
しかしこのままでは自分の主が死んでしまうのは明らかであった。
どうにかしなければ…。
魔眼で魔人と主を見ながら【アーカイブ】の情報を出来るだけ引き出しスキル『叡智』のサブスキルを駆使しながら膨大な分析処理を超高速で更に多重分離させて行う。
しかし、如何やっても結果は変わらない…更に処理を進めて行くと突然、叡智のレベルが上がった。
《叡智のレベルが上がりました。サブスキル”司書”を獲得しました》
司書は【アーカイブ】を更に深く扱える事が出来るサブスキルだった。
司書で調べる内に主のスキルの情報にたどり着く…魔獣武装(ビーストアームス)である。
それにより一つの可能性を引き出す事に成功した。なるほど、コレならば…しかし自分だけでは”足りない”のだ。
それならば…彼の力も借りよう。
『ブラッド…君の力も必要だ。コレから私の言う事を聞いて欲しい』
ブラッドと話をすると意外にも直ぐに了承してくれた。
さあ、この主の窮地を救う【アーカイブ】より引き出した究極の一手を出す事にしよう。
《アインとブラッドをテイムしますか??》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます