第39話王位継承権と不安で揺れる心

「むげ、ぐふっ!」


 ガルフォンの大声が言い終わる前に、ティティの華麗な右ストレートがガルフォンの腹部にヒットした。


「しっ。…ガル…静かに…して」

「わ、わりぃ、お頭。…って坊主もう片付けたのか?」

「ええ」


 10匹のポークビッグの死体は血の痕もキレイにくなっていた。


「お前って…王弟だよな?」

「…そうですね」

「魔物捌けるってどういうことだよ」

「…教わりましたから」

「誰にだよ。王宮にそんな人間いねぇーだろ」


 フィル君とガルフォンの押し問答を見ていたティティが挙手して、


「…ボク…ってより…ティーニャ…だけど」

「ああ、なるほどな。前世の経験ね。それにしても手馴れすぎだろ」


 どこか納得しないガルフォンにフィル君が、


「…たまに王宮を抜け出して、魔物と戦ってレベル上げしてましたから」

「はぁ!?…念のため聞くが、護衛いるだろ?」

「いえ、僕ひとりで」

「……よく臣下まわりにバレなかったな」

し、兄上の王妃探しに夢中ですから、不在でも問題になりませんよ」

「いやいや、王家の人間はアイルダと坊主だけだろ」

「えっ!?」


 私は思わず、驚いた声を上げてしまった。


「ハル、どうかしましたか?」

「あ、いや。フィル君って、現在いまは王太子じゃなかったんだ」


 てっきりそう思っていたが、はじめて会った時に『申し遅れました。僕はフィルシアール。ディアーナ王国の国王陛下の弟です』こう自己紹介していたことを思い出す。


「ええ。兄上も未婚ですし、王太子の位は不在ですね」

「え?」


 フィル君に王位継承権なくて、国王陛下お兄さんが未婚で王太子がいない??


 私の疑問が伝わったのか、フィル君は苦笑いしながら、


「全員揃ったら、説明します…ね」


 全員揃ったら?それってもしかして、


『クエストオープン』


 フィル君がそう呟くと【闇ギルド商会】で受注したクエストの画面がブゥンと表示される。


 ーーーー


 受注クエスト一覧


 ー未達成ー


『【安らぎの涙】【安らぎの吐息】採取クエスト』

『【誘いの霧】【誘い草】採取クエスト』

『【癒し草】【癒しの涙】採取クエスト』

『【フルポーション】5個 納品クエスト』


 ー達成済ー


 ーーーー


 フィル君は未達成一覧の一番上にある『【安らぎの涙】【安らぎの吐息】採取クエスト』をタッチする。


 ブブンッと画面が切り替わり、


 ーーーー


『【安らぎの涙】【安らぎの吐息】採取クエスト』


 ー詳細ー


 ・報酬・

 金貨20枚


 ・場所・

『闇の森』


 ・採取場所・

『闇の湖』 【安らぎの涙】20粒

『スリープウッド』 【安らぎの吐息】10回分


 ー上記を採取して【闇ギルド商会】本部又は支部に提出することー


 ※ボーナスクエスト※

『スリープウッド』から【絶叫の牙】を2本採取して提出した場合は通常より1.5倍の報酬を与える。なお任意である。


 ーーーー


 フィル君は受注クエスト一覧に戻ると、次は『【誘いの霧】【誘い草】採取クエスト』をタッチする。


 ーーーー


『【誘いの霧】【誘い草】採取クエスト』


 ー詳細ー


 ・報酬・

 金貨30枚


 ・場所・

『闇の森』


 ・採取場所・

『闇の森』入り口付近に発生 【誘いの霧】採取

『闇の滝』付近に生息 【誘い草】10本


 ー上記を採取して【闇ギルド商会】本部又は支部に提出することー


 ※ボーナスクエスト※

『闇の滝』付近で稀に生息してる【迷いの真珠】を10粒を採取して提出した場合は通常より1.5倍の報酬を与える。なお任意である。


 ーーーー


「よりによって『』かぁ。厄介な所だな」


 ガルフォンがぼやく。


『幻惑の森』は『闇の森』の別名である。

 ""と名前の通り『闇の森』のなど""が人々を惑わす危険な森だ。足を踏み入れたら最後、森から出ることは""と言われてる。


 私の視界にガルフォンが覗き込むようにうつる。


「嬢ちゃんどうした?顔色わりぃけど、具合悪いか?」

「えっ、ううん。平気」

「本当か?無理すんじゃねぇぞ」


 ガルフォンがぐしゃぐしゃに私の頭を撫でる。


「わわ、髪乱れちゃう」

「……ハル、ガルフォン。そろそろ出発しましょう」


 フィル君の掛け声で、私達は移動を再開する。私は相変わらずフィル君とふたり乗りだ。





 1時間が過ぎた頃、私達はまだ平野を馬2頭とフゥに乗って駆けていた。

 ずっと後ろで私を見ていたフィル君は『闇の森』の話をしてから顔色が悪い私を心配して、


「…………ハル」

「ん」

「『闇の森』に行くのが、不安ですか?」

「……………」

「…………のことを考えてますか?」

「…………っ」


 何も答えない私にフィル君は懐かしくて…切ない…かつての名前を囁く。


 そして千年前、忽然こつぜん姿

 もし彼と再会したら、私の中の"私と睦月の気持ち"はどうなってしまうんだろうと不安で、


「こ…怖いの」

「怖い?」

「…私は…私が変わってしまうんじゃないかって、私より睦月が出てきそうで怖いの。怖くて怖くて仕方がないの」


 わたしの大事な想いが消えてしまいそうで怖い。


「…ハル」


 フィル君は優しく私の名前を呼ぶ。

 そんなフィル君の瞳も不安で揺れているとこに誰も気づかなかった。

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