——ゴスロリ、血。


 博多駅から地下鉄に乗って赤坂駅、少し道路沿いを歩くと蓮だらけの池が見える。岡山城も淀城もそうだが、石垣の周りは堀に水を溜めて池にすることで敵からの侵入を難しくするらしい。あるいは山の上に建てる。


 そして山の上でない限り、すぐ隣に公園やテーマパークが造られる。そこまで含めて文化である。



 さて舞鶴公園ではちびっこたちが野球の試合をしていた。


 保護者だろうか、老齢の男が外野の遠くで一人グローブをもって佇んで、眺めている。万が一ボールが飛んできた時のため? こんなところまでボールがやってくるとは思えないけれど。


 彼のまわりには小鳥が集まっていた。地面に降りて、土にいる虫をついばんでいる。


 わたしはそんな公園を脇目も振らずということなく、少年のバットより振りまくって通り過ぎた。


 石垣だけの城址があるが、その城址を最上部まで登ってゆく。


 最上部にたどり着いた。


「来たか」


 美少女が言った。

 ゴスロリのファッションである。

 色の薄い青空をバックに、孤立して見えた。殺し屋美少女シュラである。彼女の隣には髭、シルクハット、日除けのパラソルのおじいさんが立っている。枝沼さんである。


「持ってきたかと聞いてるんだ、うすのろ」

「持ってきたよ」

「頂戴する。はやく出せ」


 わたしはスマートフォンを出した。

 すると隣にパラソルを持って立っていた枝沼が受け取りにこちらへ来る。


 シュラは格好だけで、日光に当たることをそれほど忌避してるわけではなさそうである。太陽は今わたしの後ろにあるけれど、パラソルは彼女の上にさされてるから彼女は眩しそうに目を細めていた。


「こっちへ来い」


 眩しくないところへ行きたかったのか、彼女は場所を変えた。

 それからすぐにスマホの中を調べる。

 そのスマホはわたしを誘った男の子の物である。

 その男の子はシュラ少女曰く「被害者を多数生んだ、クズ男」らしい。



 ここで、殺し屋である彼女の説明をすこし。


 彼女は女の子から依頼を受けて仕事をする。いくつもの携帯機器で博多中、あるいは時に九州の別なところからも情報を集めることができるのだ。それらをもたらすのは博多にいる女子たちである。依頼をするのもそういう女の子である。


 殺し屋、殺し屋と言っているが、彼女は殺し屋とはいえ、人を殺したことはないそうだ。彼女によるといくつも代を遡った先代(百年以上前)は殺していたらしい。今は懲らしめるだけ。無理矢理女の子に暴行を加えたものや、意味なく弄んだものにそれ相応の罰を与えるらしい。恐ろしい存在である。


「でもだいたいが、遊ばれる女の子も女の子よ」と言ってみたが、


「そのことも加味した上での判断だ。人間ってやつは結局のところ、自分の都合のいいように物事を捉える。しかし、わたしが請け負うものに関して、決して偏らない公正な判断は心がけている。判断の針は男の理性に任せる。とどのつまり、男が理性をなくして行動する、相手の状況、気持ちを考慮せずにゴリ押しした場合……」

「有罪になるのね」

「その通りだ。人は考えるのをやめたとき、堕落の限りをつくす。堕ちる先は行き着くところを知らない。……これだけ理解してくれ。しきたりによりわたしが請け負うのは、しきたりによって、女子からの依頼に限る。しかしわたしは決して女の味方ではないのだ」



 その男の人にナンパされ、電話番号を受け取った後、わたしは誘拐され彼女と出会った。

 公平なのは彼女ばかりでない。深く事情も知らないうえ、信憑性にも欠けるので「お金では動かないよ」と仕事を断ったわたしに、彼女はわたしに勝負を持ちかけた。それによってわたしは彼女の一助をになった。




「うむ、よかろう」と彼女はスマホを枝沼さんに渡した。「先日おまえは受け取らないと主張していたが、こちらにも決まりはある。使った駒には報酬を支払わねばらない。金である。受けとれ」

 わたしは受け取った。

「彼にはどんな仕打ちが待ってるの?」

「決まっている。秘密だ」


 彼女は枝沼さんのスーツの裾を引っ張り「行くぞ」と言うと歩き出した。

 そして、

「次はもっと勉強してからくるのだな」

 と言い残す。きっとチェスのことを言ってるのだろう。わたしは昨夜コテンパンにやられてしまったのだ。


 彼女が消えてから封筒の中を見てみると、十万入っていた。

 行き当たりばったり旅行で、帰る手当がなくなっていたわたしは助かった。

 これで京都へ帰ることができる。

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