第5話 特別なプレゼント
学校から帰ってきてすぐに部屋で居眠りして、そのまま話があたしの部屋でしていたから、とりあえず場所を居間に移した。
ママ特製のベーコン巻きアスパラガスや、真っ赤に熟れたおいしそうなトマト、ママお得意のポテトサラダやから揚げまでならんで、とってもおいしそうっ!!
「いただきますっ!!」
がまんできずに手を合わせれば、ママがまだよと冷蔵庫から手作りのホールケーキを取り出した。
「お誕生日おめでとう、ユイナ」
「おめでとうな」
ママの後にぼそっとつぶやいたアイビーがなぜかかわいく感じた。
「ありがとう。……ねぇママ?」
「なぁに?」
ママはやさしく聞き返してくれる。化粧っ気のないやさしい笑顔をじっと見つめているうちに、あたしの目から涙がこぼれた。
「あたしが天使でも、ママはあたしのことが好き?」
「あたりまえじゃない」
ママはあたたかい両手で、あたしの頬を包んでくれた。
「ユイナが天使であろうと、人間であろうと、あなたはマサハルさんととあたしのたいせつな宝物よ。そのことに変わりはないわ」
「ママっ!!」
あたしは箸を置いて、ママに抱きついた。とってもやさしいママの、いい匂いがする。
「大丈夫、大丈夫よ?」
やさしく、やさしくあたしの頭をなでて、ママはゆっくりそう言った。
「水を差すようで悪いんだけどさ。おれからもプレゼントがあるんだ」
「アイビーから?」
どうして? そう思うあたしの眼の前に、さっきの十字架をかざす。すると、十字架がピカッと光って、パパの姿が現れた。スーツを着ているけど、背中には立派な羽根がゆれていた。うん、今日のパパもなかなかのイケメン。
「ユイナ、十四歳おめでとう」
「パパ、パパっ!!」
あたしはパパに抱きつこうとしたけれど、その体をすり抜けてしまう。
「悪い。おれの今の力じゃ、マサハルを投影するだけで精一杯なんだ」
「でも、だけど。ありがとう、アイビー」
あたしがアイビーにお礼を言うと、アイビーの頬が赤く染まった。
「べっ、別におまえのためじゃないんだからな。これは、天界から言われてやっているだけなんだから――」
「パパ!! どうしてパパが天使だってこと、教えてくれなかったの?」
なんだかアイビーの言葉をさえぎってしまったような気がしたけれど、今は自分の気持ちが爆発しそうに高まっていて、それどころじゃない。
パパも、真っ赤になった目から涙を流していた。
「すまんな。おまえが十四歳になるまで秘密にするようにとの天界との約束だったのだよ」
「マサハルさんっ」
そこへ、ママが駆け寄ってくる。無理もない。投影とはいえ、久しぶりの再会なんだから。
「ヤヨイ、迷惑をかけてすまない。今後もどうか、ユイナのことをたのむ」
「ええ。ええ、あなた」
「それから、ユイナにアイビーと名づけられたおまえ。どうかユイナたちのことをよろしくたのむ」
「まかせとけって」
アイビーの返事を聞いたパパは、一度あたしの頭をなでようとしてすり抜けたその手をさみしそうに見つめてから、またあたしに微笑んだ。
「ユイナ、大役を押し付けてすまない。どうか、無理のないようにしてくれ」
「大丈夫! あたしぜったいに、だれかの恋をかなえて、パパのこと解放するんだから」
「それはたのもしいな。ああ、もう時間だ。またな」
満足そうにうなずいたパパの姿は、うそみたいにすうっと消えてしまった。
あたしはぼうぜんとアイビーが握る十字架を見つめている。
ふいにアイビーが、その十字架をあたしに押し付けた。
「これは、天界からおまえへの誕生日プレゼントだ。これを持っていれば、離れていてもおれと頭の中で会話をすることができるし、いつでもおまえの元へかけつけられる。さらに、この十字架を身につけているだけで、おれたちの羽根と輪っかが人間に見えなくなるというすぐれものだ」
「いいの? ありがとう」
十字架を受け取ったあたしは、まだそこにパパのぬくもりがあるんじゃないかと思って、両手で包み込んで、そっと胸に抱きしめた。
やってみせる。ぜったいにパパを解放するんだから。
つづく
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