第33話 犯人特定
「……さすがですね、さすが林田先輩です」
「過大評価だっての。俺はできることをやっているだけで、できないことはできない。
当たり前のことだ。お前が俺のどこを評価してるのか知らないが、
俺はできることをしているだけなんだ。なにも凄いことはしていないよ。
比べてあいつは、お前の兄はできないことをやっちまうんだ。
いや、違うな。できないことをできるレベルにまで落とし込んじまうんだ。
それに何度、驚かされたか。
……あいつといるのは楽しかった。退屈しない三年間だったんだよ」
「なら、どうして兄から離れたんですか……っ!
どうして、兄から離れ、わざわざ低いレベルの連中に合わせて、
あなた自身の才能に蓋を閉めてしまうのですか!?」
木下は言ってくれた。堕落している先輩を見るのはつらい、と。
中学時代は、そんな覇気のない男ではなかったのだと。
……やっぱり俺のことを見ていたのか。
あいつではなく、俺のことを見ていたのは、弟だからか。
思わず視線がいってしまう兄のことを見慣れている弟は、自然と視野が広がる。
だから俺に注目できたのだろう。
俺に才能なんかない。言い方が鼻につくようなら、俺には考える才能しかない。
それも長期的な思考ではなく短期的な発想力だ。
内容はともかく実現可能か不可も問わず、
なんでもいいからアイディアを出す時に、詰まった会議を進ませるためにぽんっと出す一言を、俺は人と比べて早く思いつくことができる。
脇の甘いワンアイディアでしかないが。
誰だったか……発想の林田、実行の縄張とはよく言ったものだ。
俺たちの才能を端的に表していて実に分かりやすい。
俺の才能なんて大したことないと俺は思う。影響力も少ないだろう。
だが、実行し、それが大問題に発展した場合、責任を問われるのは誰だ?
実行犯はもちろんだが、発想した俺にだってあるだろう。
俺がなにげなく発した一言がなければ、大事にはならなかったのだから。
傷つく人もいなかった。
気にするな。
お前のせいじゃない。
……ああ、分かっているんだ。
それでも、俺は一人で抱え込んでしまった。
『普通の学園生活を送りたくなった』
その時、俺はあいつにそうこぼして、距離を取った。
でも本当は。
ただ単純に、だ。
……そんな責任を、もう気にしたくなかっただけなんだ。
逃げたんだよ、俺は。
責任から、俺を巻き込むあいつから。
「…………」
こんな弱音と懺悔を、俺が裏切ったあいつの弟に聞かせることはできない。
言ってなんになる。
優しい言葉でもかけてほしいのか?
それで許されたと、自分で納得したいのか?
誤魔化せねえよ。
一生、俺はこれを抱えていくことになる。
このままだったら、な。
「……木下、お前は今回の謎を、どう推理した?」
露骨な話題の変え方だ、と俺を責めることはなかった。
木下はこれまで得た情報から自分の推理を語ってくれた。
「……ですから、林田先輩。あなたが犯人です」
「ああ、そうだ。俺が、少女Aを退学に追い込んだ犯人だ」
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