第11話 没入タイム

「友人男子への恋心は消えたのか?」


「いいえ、ずっとありますよ。だからポーズとは言え、親友女子が邪魔で仕方ないです」


 親友女子を消すためにはどうするのか……、それが妹の課題だとすれば。


 妹、自らが姉を退学に追い込んだ上で、親友女子との不仲を広め、親友女子が姉を退学にさせたのだと言いふらす。身内が言えば効果は高いだろう。


 そうなれば親友女子の評価は大きく下がる。

 友人男子から嫌われるのは目に見えているし、そんな状況になれば恋愛もポーズをしているどころではなくなるだろう。


 自分の恋心を成就させるために、姉を退学に追いやる?


 しかしだ、なぜそれを俺に教えた?

 ほぼ答えのようなものだが……、教えたということは嘘である可能性が高い。


 いや、木下の場合、僅かに屈折させて教えているのだろう……。

 十全に指摘しなければ勝利条件にはならない。

 それでも大体が合っていれば、運営委員会も大目に見てくれる。


 正確には、はずしてはならないポイントがいくつかあり、それが全て抑えられていれば、言い回しが多少違う場合でも、正解にしてくれる。


 木下の正解に思える情報は、しかし抑えておくべきポイントを、意図的にずらしている可能性がある。これをこのまま鵜呑みにしてしまえば、敗北は探偵側になるだろう。


 だから、極端なことを言えば、犯人がゲーム開始一言目で、正体を明かしても敗北濃厚とは言えない。犯人が合っていても、ポイントがずれてしまえば勝利にならないからだ。


 木下は、かなりルールブックを読み込んでいる。

 比較する一年が尼園と立花だから良く見えるのか? 


 それを抜きにしても、一年にしては用意周到だ。

 それに、木下については気がかりもある。

 ゲーム以外のことにも意識が割かれてしまって、投げ出したくなるな、ほんとに。


「先輩は、どうして少女Aのことを探っていたんですかねー」

「尼園……」


 こいつ、どうして俺を攻撃する時だけ活き活きとし出すんだ。


「そうだよ、少女Aを振っておいて、どうしていまさら。しかもあの子の妹を使って調べるなんて」


 茜川の援護射撃だ。

 役が抜け切っていないのか、親友女子の意識が残っている。


 俺からすれば妹の、だが。

 ブラコンからすると、他人の妹と接することはアウトなのかもしれない。


「……単純に、家での様子を知りたかっただけだよ。うちに遊びにきた時のタイミングだと分からないことなんてたくさんあるしさ。じゃあ聞くとなった時に、両親には連絡しづらい。だから妹になっただけだ」


「振った相手のことを調べますかね、ふつー」


「振る前だったんだよ。さすがになにを調べていたのかまでは分からないけど……、それは俺じゃなくて、役の気持ちだからさ」


「先輩なら気になる子のなにを調べたいと思うんですか? それが先輩の役がなにを調べていたのかを推測する基準になりますから、教えてください」


 俺だったら……か。


「他愛のないことだな。好きなもの、苦手なもの……、聞きにくいことは直接聞くだろうしな。そもそも、誰かを使って情報を集めさせるのがなんとなく罪悪感がある。だからまあ、仕方なく聞かないといけないなら、面と向かってでも聞けるようなことだろうなあ」


 詮索されて嫌だってことは、身をもって知っている。

 それを他人にやっていたら、自分にもしていいと宣言しているようなものだ。


「そんなんじゃ参考になりませんけど!」


「そう言われても。……似たり寄ったりだと思うけどな。少女Aのプライベートが知りたいってことだろうし……」


「そこまでして知りたいほど興味があって、どうして振ったんですか。少女Aの気持ちを受け入れていたら、全部が丸く収まっていたような気もしますけど」


「妹が荒れるんじゃないか? それに全部が丸く収まるとは思えない。アイドルに彼氏なんてできたらマネージャーも困るだろうし、父親も……反対だと思うぞ」


 受け入れていたら、それはそれで新たな問題を生み出していただろう。

 上手くいかないもんなんだよ、こういうのは。


「残り時間が少ないですし、一度、全員が演じて会話してみませんか?」


 木下が提案した。……動いたな。

 たぶん、なにかを企んでいるのだろうけど、まだ予想がつかない。


「鳴滝先輩のように完璧を求めはしないですよ。今までは役を、あくまでも伝聞で情報共有をしていたわけです。それを完全になりきって、やってみましょうよ、という提案です」


「それ、意味あるの? これまでとそう変わらないんじゃ……」


「今、情報がただの羅列になってると思うんだ。だからこれを、各々がきちんと役としてはめこんで会話をしたら、分かりやすくなるんじゃないかって。残り時間が少ないならやっておいても損はないと思う。最初から役になりきるのは恥ずかしいけど、今から三十分もない間なら、下手でも続けられると思う」


 木下の言う通り、情報が羅列になってしまっている。

 聞いても円滑に入り込んでこないとは思っていた。


 親友女子、友人男子、少女Aの妹など、頭の中で変換しながら当てはめていく作業はメモがないとかなり疲弊する。探せば勘違いをしている場合もあるだろう。


 それを役になりきることで防ぎ、情報をスムーズに回す。役柄カードを持っていれば誰がどの役かは瞬時に分かるし、情報と顔が繋がるため覚えやすい。


 欲を言えば最初からやっていればと思ったが、確かに長時間となると恥ずかしいな……。

 その恥ずかしさが段々と役になりきるのでなく、伝聞形式に変わっていったのだろう。


 ルールにある、役からの逸脱行為の警告も、形骸化してしまったのだ。


「男口調の方がいいわよね?」


 小中先輩はマネージャー役だ。

 異性の役となると、演じるのが難しくなる。


「できれば、そうですね。難しければ砕けても構いませんよ。僕も少女Aの妹役ですから、大目に見てもらえると助かります」


 そして、終盤にして全員が役になりきる、このゲーム本来の姿が見えてきた。




「役になりきる……じゃあこういうのもいいんスかね?」


 立花が尼園に抱きついた。ごく自然に後ろから。


「ひっ!?」

「ん? 当たると思ったものが当たらな――」


「死ねっ、変態クソ野郎ッッ!!」


 尼園の肘打ちが立花の鳩尾に突き刺さった。

 悲鳴も上げられなかった立花がその場に崩れ落ちる。

 ぷるぷると全身が痙攣し、今のを暴力だと訴えることもできていなかった。


『今のは暴力とは認められません』

「なんで!?」


『なんでじゃねえだろ役にかこつけて抱きつく変態野郎にルールはないんだよ』


 逆に、役を利用して抱きついた立花に警告がついた。

 まあ、そうだろう。

 たとえ可能でも、生中継でそれをする勇気が凄い。


 あいつは大物になる。そう思った。

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