2章 少女Aはどうして学園を去ったのか?
第1話 需要あり
このゲームの注目度が高い理由は、無作為に選ばれた八人でも、絶対と言い切れるほどに美少女が数人、混在するからだ。
学園の偏差値と同様に、女子生徒の顔面偏差値も軒並み高い。
逆にブスがいないとも言える……、俺が知っている限りは見たことがない。
体型は別としてだ。
そんなもの、すぐに変えられるのだから、マイナス要素に加算するのは勿体ない。
純粋な顔立ちで、あからさまに崩れている女子生徒はいない。
まあもちろん、ランキングを作るなら必ずワースト一位が出てしまうわけだが、その子がブスであるとは言い難い。
無理やり選出したブスをブスとするには、素材が整っているのだ。
その子を見ていると、あれ? ブスってなんだっけ? ってなる。
ともかく。
可愛い子が多いこの学園で、無作為に選ばれた女の子は当然可愛いわけで(だってブスがいないのだから美少女が選ばれるのは当たり前だ)、可愛ければ多かれ少なかれ、その子のことを好意的に思っている男子がいる。
積極的になれる者、奥手な者、どちらにしても、話しかけずにその子の人となりや情報が得られるのならばそれに越したことはない。
つまり情報源として需要がある。
たとえば茜川陽葵。
理事長の娘であり、二週間前に転入してきたお嬢様だ。
言わずもがな美少女であり、彼女のことを気にしている男子生徒は多い。
彼氏はいるのか、好きなタイプは、食べ物は、嫌いなものは? など、聞きづらいことや受け答えの仕方、思考回路などを見ることができるチャンスがこのゲームである。
生中継。リアルタイム。
編集が介在しない瞬間的に出る本音を聞き逃さないためにもモニターに貼り付いていなければならない。
男子のことばかりを言ったが、逆も同じだ。
気になっている男子を見たくて注目している女子生徒も多い。
生中継というのはこっち側からすると恐ろしくて仕方がない。
だって、今も一挙一動を見られて、情報を抜かれているのだから。
しかも学園どころか外の世界にもネットを通じて配信されている。
しかしだ、個人情報の流出より、なによりも恐いのが……今、現役バリバリの女子高生アイドルが、カメラの前で堂々と俺の片腕にしがみついてきたことだ。
「林田せんぱーいっ」
片側に引っ張られた体重が、すると突然、ぐいっと元に戻される……を通り越して逆側へと勢いよく引っ張られた。
肘が、柔らかいクッションのようなものに埋もれて――、ふっ、と温かい吐息が、耳の中をくすぐった。
「
片腕にしがみつく現役アイドルの後輩と。
片腕どころか羽交い締めのように俺の体を抱きしめている妖艶な先輩。
そして、目の前で頬を膨らませる同級生が、俺を睨み付ける。
「なにしてんの、はやしだ」
「いや、俺もなにがなにやら……だって今、入ってきたばかりだろ……?」
「じゃあどうしていやがらないの?」
「それは、だってよ……」
嫌だからやめてくれとは、この二人には言えない……。
「わたしを支えてくれるって言ったのに! うそつき!」
「それ、あたしも言われましたけど」
「私も言われたわよ。責任を取ってなんでもする、って」
茜川が「はあ!?」と驚き、両隣の二人は力なく「はぁ」と溜息を吐く。
「これこそ、先輩、って感じですね」
「そうね、旅鷹くんらしいって分かってはいるけど、でも腹が立つからこのまま耳に
「じゃあ、あたしもムカつくので先輩にビンタをします」
「お前のは普通に暴力じゃねえか! でも、先輩のが別にご褒美ってわけでもないので噛むのはちょっとやめ……ッッ」
咄嗟に視線を高科にやると、あいつもあいつで溜息を吐きながら、
「運営、仕事しろ」
とカメラに向かって指差す――と、瞬間、忘れていた指が動いたように、部屋が赤く染まって警告を示すブザー音が鳴り響く。
『指示された設定からの逸脱はイエローカードです。
三枚目になると問答無用で失格となりますし、勝利報酬も取り上げとなりますので気を付けてください――というか普通に学生としての枠を越えてんだよ、自重しろハーレム野郎!』
「俺が悪いのか!? 俺なのか!?」
注意されると素直に従うようで、両側の後輩と先輩が素直に離れていった。
先輩の方のクッションは、少し寂しかったが、ここで引き止めるわけにもいかない。
残った目の前の同級生が、「ふんっ。べーだっ」と、見た目も相まって子供らしい拗ね方をして、俺から一番遠い席へ座ってしまった。
……あらためて言おう、生中継である。
つまり、今の一連の流れが全国配信されているわけで、娘の期待を裏切ったことで落ちてくる理事長の雷よりも、不特定多数のネットの誹謗中傷が今は恐い。
しかも片方は現役バリバリのアイドル、だ。
これに関してはお前の方がマイナス要素になるんじゃないかと思うんだが……?
大丈夫なのかとニュアンスで視線を向けると、既に俺のことなど見ていなかった。
バチバチと火花散るのが見えるように、先輩と睨み合っている。
どうしてか、ここは犬猿の仲なんだよな……。
まあ、彼女たちの生い立ちを比べてしまうと無理もないのだけど。
二人に気付かれないように……と思ったが、目の前しか見えていないようで、俺が離れても二人が俺を引き止めることもなく、俺は空いていた席に座る。高科の隣だ。
会議室にあるような長机だが、もちろんこれもロココ調になっている。
周囲を囲うように椅子が置いてあり、八人で使うには大胆なスペースの使い方だが、必ず席に座っていなければならない決まりもないため、これでいいのだろう。
机の真ん中にはつまめるように、お菓子が置いてあった。
いくつかそれを自分の手元に寄せながら、
「ありがとな、さっきは助かった」
「……あんた、やっぱり誰にでも言ってるじゃんか」
俺が取ったお菓子を奪い取って、乱暴に封を開け、高科がクッキーを力強く囓る。
……なにやら不機嫌だな。
お菓子が奪われたのは、いいけどさ。
『……揃ったようなので説明してもいいですか?』
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