第3話 親友と一緒なら
「茜川、ゲームボーイって知ってるか?」
「少しなら。チャップリンみたいなのでしょ」
チャップリン? ……喜劇王……あ、白黒って言いたいのか……?
茜川にとっては、白黒と言えばまずそっちが出るのか。
「それで遊んでみれば分かると思うぞ。ソフトは通信対戦ができる育成ゲームだ」
今でこそ八世代ほど出ている有名なあれなら、茜川も知っているだろう。
「じゃあパパに頼んでみる!」
スマホをいじり出したが、仕事もしないで盗聴しているあの人なら既にどこかに電話して入手の準備をしているんじゃないか?
「俺も引っ張り出さないとな。だいぶ前のだし、動くか……?」
提案した以上、茜川と一緒に遊ぶためにも俺も最初からプレイしないと。
すると、隣の席から強めの蹴りが飛んできた。
がたっ、と椅子が横に倒れそうになって、体重移動でなんとか耐える。
「うお!? ……な、なんだよ、急に」
「またあんたは、自分の時間を削って他人のためにさあ……!」
「大丈夫だって、こっちもちゃんとプレイするから」
確かに予定は詰まっているが、まあ、睡眠時間を削ればなんとかなる。
「あんたってやつは、ほんとに……」
「はやしだ! はやしだも一緒に遊んでくれるんだよね!?」
「え? ああうんそりゃ言った側だし。茜川の時間を使わせた責任はちゃんと取って、楽しいって思わせるためならなんでもしてやるよ」
「ほんと!? ぜったいだからね!!」
席についた茜川の反対側で、親友が頭を抱えていた。
「あんたはバカなのか?」
「なんでだよ……」
「この学園で『なんでもする』だなんて口にするな。言うならちゃんと状況をセッティングして、具体例を出してから言え。楽しいって思わせるためになんでもする、じゃあ、曖昧過ぎてどんなことに利用されるか分かったもんじゃない。しかも制限だってつけてないし……バカだ、あんたはっ、バカ、こんのバカ!!」
「そ、そこまでバカを連呼するなって。いや、でも、茜川がそんな悪意を持っておれに命令してくるわけないって知ってるからなあ。信頼してる相手にしかこんなこと言わないから安心しろ」
「できるかっ。あんたは誰にでもそういう態度だろ。酷い目に遭うのはあんたなんだからな!? 契約で苦しんだ生徒をこれまで見てきたはずだろ!?」
「大丈夫だって」
なぜなら、悪意ある人間しか契約を悪用しない。
じゃあ、悪意はどこから生まれるのかと言えば、対立、嫉妬……、
つまり嫌われている場合に限る。
だったら俺は、誰からも好かれるようになればいい。
その方法がたとえパシられることだったとしても、積み重ねた献身が信頼という結果に繋がるはずなのだから。
この学園で、人の言葉を疑うなんて勿体ない。
俺はそう思う。
「正直者でいれば、きっとみんな受け入れてくれるって」
土曜日なので四時間目を終えたらそのまま帰宅……、となるのが一般的な学園のタイムスケジュールだが、陽葵代学園は一味違う。
この後、昼休憩を挟んでから、十三時から十五時までの二時間、生徒主催の謎解き脱出ゲームが開催されるのだ。
各教室にモニターが常備されているし、食堂にも大型モニターが設置されている。
廊下にも小さいながらもモニターがあちこちにあるので、学園にいる以上、視界に入らない方が少ないだろう。
リアルタイムで動画配信もしているため、スマホで見ることもできる。
そう、
学園内での注目度は九十五パーセント(そりゃもちろん帰宅する生徒もいる)。
加えて学園の外でも注目度は高く、老若男女問わず視聴しているデータが取れている。
創設当初は違かったらしいが、今では陽葵代学園の売りの一つとなっている要素だ。
なので四時間目を終えても学校に残る生徒はかなり多い。
そんなゲームに参加することになった俺は、正直なところ、参加メンバーを考えたら場違い感が凄い……。
この企画、面白いのは見ている側であって、出演する側は個人的な狙いがないとただの晒し者になるだけなのだ。
なので無作為に選ばれた後で辞退することも可能なのだが、なぜか俺が一週間前に辞退届けを出しても、受理されなかった。
今日の朝の事情を考えたら、理事長が裏で破棄していたみたいだったが……。
荷が重いとはこのことだ。
それにしても意外だったのが高科だ。
俺とは違って簡単に辞退できる立場で、決まってそうするだろうと思っていただけに、参加したのは予想外だ。俺からしたら親友が隣にいてくれるのはかなり助かる。
それを見越して辞退しなかったとしたなら、悪いことしたな……。
「バーカ。単純にあんたと参加するならいいってだけ」
と、高科が学食で頼んだカルボナーラをフォークで巻きながら。
参加者の集合時間までは俺たちも普通に昼休憩があるので、食堂で向かい合って腹ごしらえをしている。二時間、拘束されるのだから(さすがに言えば用意はしてくれるだろうけど)、ここでエネルギーを補給しておかなければならない。
「一人で出るなら絶対に嫌だけど。あたしもこのイベントに興味がないって言ったら嘘になるし。晒し者にされて不特定多数のやつのおもちゃにされるのはごめんだけど、林田と一緒なら、普通に楽しめると思ってな」
「……そうだな、不安だ億劫だって、マイナスのことを考えるより、お前とアトラクションを楽しむと思えばすげー楽しそうだもんな」
「そういうこと。理事長からなにか言われてるだろうけど、それを無視しろ、とまでは言わないけど、意識し過ぎても失敗するぞ。余力があれば頑張る、でいいんじゃないの?」
「あー、でも、脅されてるんだよあ。約束を守れなかったら恥ずかしい秘密を暴露するかもしれないって。なにが出るか分からないだけに、手を抜くのは恐すぎる……」
「暴露されて困るのは知られたらどん引きされるから? だったらつまらねえことで悩まなくていいっつの。あたしはあんたを見捨てないし、除け者にしたりしない。空気なんか読まないであんたの隣に居続けてやる。――で? なにが恐いって?」
「すげーかっこいいこと言ってんな……。さすが親友。ハンバーグを一切れやろう」
「やっすい感謝の印だな、おい」
言いながらも、カルボナーラの上に乗っかった一切れのハンバーグをフォークで突き刺し、幸せそうに食べる高科。
……高科の言うとおりだな。暴露されて周囲の目が変わったとしても、高科が変わらずにいてくれるならそれだけでも充分だ。
だからって理事長のお願いを放棄するつもりはない。ようは、茜川の良い思い出になればいい話で、スポーツの試合のように勝たなければならないわけでもない。
勝ち負け関係なくあいつの中で楽しければいいのであれば、やり方は少なくないのだからそう身構える必要もないだろう。
「よしっ、楽しむか、高科!」
「だな!」
昼食を片付けた俺たちは、指定された集合場所に向かう。
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