リアル厨二病(現代ファンタジー)

「『われの右手に宿りしこの力…』

これは二次元世界によくいる極端に厨二病な人のセリフです。さすがに、ここまで深刻な厨二病は現実リアルにはいません。しかし、人間誰しも、私には魔法の力があるんじゃないか、と考えている時期があるのではないでしょうか。まあ皆さんはどんなに願おうと魔法の力が手に入ることはないでしょう。凡人ですから。」


教室がざわつく。そりゃあそうだ。普段の授業ならよくある事だけど、授業参観の作文発表でこんなにふざけた作文を書く人は普通いない。私より前に発表した人はみんなみんな、親への感謝とか、社会問題とかについてだった。しかも発表しているのが普段暗くて友達のいない私なのだから尚更おどろくだろう。


でも興味本位からだろうか、冷たい目ではあるが、寝たり友達と話したりしていたクラスメイトたち、はなから自分の子供の発表しか聞く気のなかった保護者たちが一斉に私の方を見て、じーっと話を聞いている。


「皆さんはもしも本当に自分に魔法の力があったらどうしますか?」


その後も5分ほど私のスピーチは続いた。少し長くなってしまったので寝ている人もいるだろうと思い教室を見渡したけれど、寝るどころかほとんどの人が始まったときよりおめめぱっちりだ。

ーーーよし、いい感じ。


私こと大松鈴華おおまつすずかはいわゆる魔法少女だ。嘘つけって?それが本当なんだよね。魔法って言っても「今から晴れるよ♡」なんて言って天気を変えることはできないし、「フィンガーディアム・チビオッサン」だっけ?あれなんか違うかな。そんな呪文を唱えてものを空中に浮かせることもできない。私が使える魔法、それはただ一つ。『魔法を使えるということを魔法で隠せる』こと。すごいって?でもよく考えてほしい。私が使える魔法はその一つだけなのだ。私は魔法も使えないのに魔法を隠す魔法をかけ続けてるってわけ。なんだよそれ。本当嫌になっちゃう。


でなんで今回こんなスピーチをしたかというと、お母さん(ちなみにお母さんは世界滅亡以外の魔法は全部かけることができる魔女の世界でも希少な種類らしい)が、

「公にしてもいいってあなたの魔法に教え込んであげれば、他の魔法が強くなって魔法が使えるようになるかも」

といったからだ。しかしまあみんな信じるはずはない。授業が終わり休み時間になってもまだ冷たい視線を感じる。しかも魔法が使えるようになった気配もない。

ーーーなんだよ、無駄手間じゃんか…



魔法少女は今日も魔法が使えなかった。


〜めでたしめでたし〜

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