美味しそうな、わたし

小林勤務

第1話 相談

「私……好きな人がいるんです。私は、その人と1つになりたい。身も心も、その人の全てを取り込みたいんです」


 とある日の昼下がり。

 俺はある女の子から、1件の奇妙な相談を受けた。


 最初は暇つぶしのつもりで、Twitterに相談サイトなるものを始めた。

 自分で言うのもなんだが、俺は芸能人でもなければ特殊な能力を持っているわけではない。


 ただのサラリーマン。

 もっともらしく喫茶店で企画書を作成しているふりをする、サボリーマンだ。


 どこに需要があったのか分からないが、定期的に相談はきた。

 恋愛、仕事、勉強と様々。


 きまって彼らは、最後に言う。

 普通の人の方がいいんです。


 こんな俺にも人の助けになるようなことがあるんだな。

 いつしか、この相談サイトが、自分しか好きになれない俺と社会を繋ぐ架け橋のようなものとなり、のめりこんでいった。


 そんな、ある日のことだ。


「相談に乗って下さい……泣」


 1件の相談が寄せられた。

 語尾についた泣のマーク、なんとなく女の子だろうと思った。


「どうしましたか?」


「私……好きな人がいるんです」


 ははあ、恋愛相談か。「どうぞ」と返信する。


「その人は凄い可愛くて、でもカッコいいところもあって、男性的であり、女性的でもあり、笑顔がステキだけど、怒った顔もまたいいんです。それから……」


 禅問答のような相談は続いた。


「ちなみに、あなたはおいくつですか? 高校生? 大学生? 社会人?」


「その人は高校生です。でも、少女のようでもあり、今をときめく高校生かと思えば、妖艶な美魔女のようでもあるんです」


 うーん。

 いまいち的を得ない。さっき飲んだコーヒーの苦みのせいだろうか。


「いえいえ、汗。あなたのことです。もし、よかったら教えて下さい」


 すぐに返信はきた。


「さっきも言いましたけど。その人は、高校生です」


 俺は混乱した。

 もしかして、ひやかしかな。

 そう思った次の返信。


「その人は、私です。私は私のことが好きなんです。もう、どうしようもないくらいに好きで好きでたまらないんです」


「そうですか。でも、自分を愛するって良いことですよね」


 俺は突っ込みたくなる感情を抑えて、冷静に返す。

 だが。


「教えて下さい」


「何をですか?」


「ああ、私は私と1つになりたいんです。身も心も、私は私の全てを取り込みたいんです。今からお伝えすることは、果たしてよかったのか教えて下さい」


 長い昼休みが始まった。


 


 

 


 


 

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